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煌めきの災禍(後編)

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煌めきの災禍(後編)

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 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は、懸命に探し物をしていた。
 エースは何よりも、ハーヴィの所へリトを帰してあげたいと思っていた。リトは改造されてから今に至るまで後悔の中で自分を責め続け、絶えず悲しいという想いの中に沈んでいた。しかも、それが災禍と呼ばれるトラブルを呼びこんでいたという訳だ。
 森を護りたいという願いと、自分はここに居る資格が無いという自己を責め立てる心が彼女を苦しめている。エースはそれを救ってやりたかった。君はここに居ていいんだよと、皆が君の事を大切に思っていると伝えてやりたい。
 彼女の執着はこの森と、そして弟だったと思われる緑の機晶石。ならばリトの精神を安定させるため、封印されていた所にその機晶石が残されていないかと、エースは今の今まで念入りに調べていたのだった。
 その結果分かったのは、彼女が封印されていた地下室に機晶石はないということだった。サイコメトリも試してみたが、あの部屋で過ごした期間中、リトがそれらしきものを持っていた形跡は無かった。
だとすれば、封印前にどこかに置いてきたということだろうか。


「二つ目の可能性は、昔なじみで縁の深いハーヴィ・マーニが隠し持っているというもの。……ですがこれは、彼女自身が無意識に否定してしまいました。何故ならピンチに陥った時、彼女はこう叫んだんです。『カイ、あの娘を連れて逃げてくれ! 頼む、我の足じゃどう頑張っても追いつかれるんじゃ!』とね。自分が捕まれば当然その持ち物ごと相手の物になるんですから、いくら口をついて出たとはいえ、機晶石を持っている人物がこのような発言をするとは思えません」


 エースはまた、【人の心、草の心】も試してみた。
 先刻、岩肌の苔に問いかけた時には、ノイズ交じりの暗く沈んだ感情が伝わって来るばかりだったが、今はもうほとんどそういった『災禍』の影響は感じ取れなくなっていた。
 代わりに、もっとぼんやりとした暖かな感情がそこにはある。リトの気持ちではない。これはつまり彼女以外の、別の何かからも植物たちは影響を受けているということなのだろうか?
だとすれば、それが弟の機晶石だったとしても不思議ではないだろう。そして仮にそれが正しいとするなら、洞窟に自生している植物たちが影響を受けている以上、機晶石はその内部にある可能性が極めて高い。少なくとも森の中や集落の中ではないはずだ。
 人草の心でその「誰か」の想いを辿りながら、エースの足は自然と洞窟の入り口へ向かっていた。
 ソーンの話し声が聞こえてくる。
「そして三つめ――僕は族長さんの反応で確信しました。弟は、護っていたんですよ。肉体を失おうと、石だけの姿になろうと……大切な森と姉、その両方を。森には『災禍』となった姉の災いが及ばないよう、そして姉には外部から危害が加えられないようにあの岩戸を閉ざして。鍵、あるいは門番の役目を果たしていたわけです、ずっとこの場所でね……!」
 言い切るよりも早く、ソーンは乱暴に杖で祠の扉を破壊すると、同時にH−1に向かって叫んだ。
「腕を斬れ!」
 閃光弾が弾ける。
 自身の目もくらむような光の中で、ソーンは左手に緑の機晶石を掴み取った。
 右腕に激痛が走る。生温かい液体がありえないほど流れ落ちる。痛みの為に気を失いそうになったが、ソーンはがむしゃらに体を前へと動かした。
 杖の先からは狂ったように炎が噴き出して、閃光の中を紅く埋め尽くしていく。
 とにかく契約者たちを振り切るために、ソーンはH−1と共に洞窟の外に転がり出た。飛行可能な機晶兵に半ば引きずられながら、片腕を失くした青年はそのまま深い森の中に行方を眩ませた。