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■時を同じく

「なあ、最近うどん教団とやらが幅を利かせてるのって知ってるか?」
「あ、なんだそれ。しらねぇよ」
 魔王軍の中間拠点。
 ここでは魔王の軍門に下った兵士達がモンスターを引き連れて次なる命令を待っていた。
「聞いた話によればそいつらに他の駐屯軍が壊滅させられたらしいぜ?」
 馬鹿らしい、そんな話あるものか。
 そう言い返そうとした時、彼らの目の前が光に包まれ、気が付くと砦自体に亀裂が走っていた。
「て、敵襲ーっ!」
 慌てた兵士はさけび出す。


「やったうさ!」
 砦の外で巨大な光条兵器による襲撃が成功したことを喜ぶティー・ティー(てぃー・てぃー)と恋人の名を与えられた剣、ソード・オブ・リコを構えた酒杜 陽一(さかもり・よういち)の姿があった。
「たぶん誰も死んでないと思うんだけど……来たな!」
 精神空間とはいえ、むやみやたらに殺すのは気が進まない陽一は砦だけを狙って斬った。
 それにより砦は大いに浮き足立ち、内部からは大量のモンスターが現れたが、ここまでは想定通り。
「鉄心先生、出番ですうさ!」
「誰が先生だ誰が……」
 豊富な時間を利用して持ち込んだ本を読んだり、釣りをしたりと自由に生活していた源 鉄心(みなもと・てっしん)だったが、ティーによって立ち上げられたうどん教団なるものの用心棒扱いをされている。
 今回も魔王軍の拠点を制圧するからと無理矢理呼ばれたのだ。
「鉄心先生、陽一先生。 懲らしめてやるうさ!」
 まるで劇のようなノリでティーは2人をけしかける。
「苦労してるな」
「まぁ…なんとかなるだろ」
 苦笑いをする陽一と鉄心。
「世界の覇権をつかむのは、このうどん教団うさ!」
 ティーのは意気揚々と名乗りを上げた。


「サラダ…焼き払え! ですわ!」
 イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)の呼び出した竜が炎を吐き、肉を焼く。
 じゅうじゅうと辺りに焼ける音が響き、残されたものは焼けた肉片。
「出来ましたの!」
 少し雑ではあるが、大きなバーベキューセットに置かれた肉や野菜がいい香りを放つ。
 鉄心や陽一が制圧した拠点の外では拠点に在中していた兵士やモンスター達の前でイコナが料理を作っていた。
 しかし、それは彼らから遠く晴れた場所で作られている上に、捕縛されている状態だ。
「うちで働けば、お休みも多いしおいしいご飯が食べられますうさ〜」
 ふふふ、と微笑みながらティーは彼らに話しかける。
 反応はそれぞれで、即座に頷く者も居たり、悩んだりしたりで様々だ。
「なかなかしぶといのもいますうさ……イコナちゃん、奥の手うさ!」
「季節の果物をふんだんに使ったスイーツですの。 ここでしか食べられませんの!」
 ティーのミニミニ軍団が集めてきたフルーツをふんだんに扱ったお菓子が並ぶ。
 これにより、兵士達には大きな動揺が走る。
「随分と面白い勧誘だな」
 ティー達から離れた場所で別に用意されたバーベキューを頬張る陽一。
「それがいいところだと思うんだけどな」
 鉄心は読んでいた本を閉じ、視線をティー達へと向ける。
「校長のコピーもホントは遊びたいんじゃないかな、って思う。 だからこっちも全力で遊んでやればいいんじゃないかなってさ」
 それがあの結果だけどな、と苦い顔。
「世界規模の遊びか。 スケール違いの子供だよ、全く」
 確かに、と笑いあう陽一と鉄心。
「まぁ、訓練の方も順調みたいだし、こっちはこっちでコピーの対応を……と?」
 言葉を遮るように辺りが揺れる。
「上だ!」
 鉄心が上を見上げ、陽一も釣られるように見上げる。
 空にはドラゴンが3匹、こちらを睨み付けていた。
「ば、バーベキューに釣られましたの!?」
 兵士達を説得していたイコナやティーは大慌てだ。
「随分と大きな援軍だな、全く!」
 陽一はソード・オブ・リコを構えてゆっくりと降下してくるドラゴンと対峙する。
「我儘な子供に付き合うとするか!」
 光の刃を振るい、魔王軍とうどん教団の戦いの火ぶたが再び切って落とされた。