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【ダークサイズ】謎の光の正義の秘密の結社ダークサイズ 壱

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【ダークサイズ】謎の光の正義の秘密の結社ダークサイズ 壱

リアクション


「はああああっ!」

 リアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)は、華麗なステップでフラメンコを舞いながらミノタウロスを翻弄し、高く飛び上がってその眉間にキックを放つ。
 【創生学園都市】の【オリュンポス秘密研究所】の前にもやってきたモンスターには、リアトリスが立ちはだかっていた。
 力は強いが知能の低いミノタウロス。
 リアトリスの蹴りに気を取られたその下で、ヴァルヴァラ・カーネーション(ばるばら・かーねしょん)が鋭い爪でミノタウロスの足をひっかく。
 しかし、ヴァルヴァラの攻撃はミノタウロスにそれほどダメージを与えず、ミノタウロスは足を上げてヴァルヴァラを踏みつぶそうとする。
 ヴァルヴァラはひらりとそれをかわすと、そこらの岩の上に座り込んで毛づくろいをし始める。

「もう、ヴァル。しっかりして」

 リアトリスがヴァルヴァラに、空中から声をかける。
 ヴァルヴァラはのどを鳴らしながら、

「ぐるるる……うにゃーお(だって……つまんないんだもん)」

 ダイソウたちがアナザ・ダイダル卿に上がっていった時、中年好きのヴァルヴァラは当然のようにダイソウを追いかけようとしたのだが、創生学園都市に攻め込むモンスターを見たリアトリスに引っ張られて、無理やり連れてこられてしまったのだ。
 したがって、ヴァルヴァラは正直戦闘にやる気がない。
 そう言っている間に、ミノタウロスは標的を再度リアトリスに切り替え、唸り声を上げて大きな拳をリアトリスに振り上げる。
 リアトリスはふわりとそれをかわして着地、顔の横でパンと手を叩くと、またしてもフラメンコの足取りで左右に動く。
 ミノタウロスもリアトリスを目で追いながら、体を左右させる。
 まるで猫じゃらしを振られてそれに夢中の愛玩動物のようなミノタウロス。
 その目がつぶらになって動きを追うのに夢中になったすきに、リアトリスが【サイドワインダー】でそこらの石を弾き飛ばす。
 それらが顔に当たったミノタウロスは、うざったそうに手で顔を払い、むっとした顔でリアトリスを見るが、そこにもうリアトリスはいない。
 ミノタウロスの下に回ったリアトリスは、【スイートピースライサー】を振りあげてミノタウロスの腹をサッと切る。
 すばやく鮮やかな切り口は、きれいに血管を切り裂いてそこから鮮血が噴き出る。
 フラメンコの陽動に引っかかって傷をつけられ、怒るミノタウロス。
 今度は両腕と角を怒りに任せて振り回し、リアトリスはタンと飛び上がると高い岩の上に着地する。
 ミノタウロスは猪突猛進、その岩に頭から突っ込んだ。
 ぐらりと揺れる岩とリアトリス。

「ぐわぉ(うるさいのよ)」

 ヴァルヴァラがいつの間にかミノタウロスの後ろにきて、尻尾にかみついた。
 うおおと声を上げて尻尾を振るミノタウロス。
 そのチャンスを見逃さないリアトリスはすかさず【ドラゴンアーツ】と【鬼神力】で強化した肉体で高く高くジャンプする。
 そしてスイートピースライサーを再度構えると、まっさかさまにミノタウロス向かって落ちながら、

「鬼龍神楽・葬天刃!」

 【則天去私】をミノタウロスの脳天に食らわせた。

「ありがとう、ヴァル」

 と言った直後、リアトリスはふうと息を吐いて両膝を地面につけた。

「やっとこれで、全部片付いたかな?」

 とつぶやきながら顔を上げる。
 リアトリスの前には、大量のモンスターの屍が、山となってつみあがっていた。


★☆★☆★


 リアトリスが守った研究所の中には、ダークサイズが苦労の末組み立てたダークサイズイコンが眠っている。
 あらゆる幹部の要望をほとんどすべて採用した結果、無骨でお世辞にもカッコいいとは言えないものになってしまったが、一転してニルヴァーナ征服のカギを握ることとなったこのイコンは、現在小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が設定した秘密パスワードによって起動できない状態となっている。
 イコンの下からスパナを持って、汗と油で汚れた顔を拭いながら、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)
が、

「美羽さん。そんなに心配なら、ダイソウトウさんにパスワードを教えて差し上げたらどうですか?」

 と彼女は、両手を組んで研究所の窓の向こうに見えるアナザ・ダイダル卿を見上げる美羽に言った。
 美羽の目は心配そうに潤み、祈るようなそのポーズは、さながら魔王の城で勇者の救出を待つお姫様のようだった。
 ちょっとしたヒロイン気分を味わう美羽は、

「だって……正義の行いをなさなければイコンは動かさない。そう、約束したんですもの」

 と、言葉遣いまで気分に引っ張られている。
 ベアトリーチェはもう少しそっとしておこうと思い、イコンを見上げる。
 マネキに右腕部分をかっさらわれ、ベアトリーチェは急きょそこに巨大な大砲のアタッチメントを取り付けた。
 もはやどういうタイプのイコンなのか全く分からない。

「あとは、ダイソウトウさんにカッコいい名前を付けてもらうだけなんですけどね……」

 と見上げるベアトリーチェの後ろをコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が通って美羽の下へ。

「美羽?」
「ああ……セバスチャン。勇者様は私を助けてくださるのかしら?」
「いや僕だよ、コハクだよ……」
「は。あ、ごめん、何でもない」
「セバスチャンって誰?」
「いやー、姫のお付きでそういう名前の人いそうだなーって」
「姫ってなんのこと?」
「な///なんでもないってば! それより、ダイソウトウたちはがんばってた?」

 コハクを戦いの様子見に放っていた美羽。
 彼女はコハクに、ダークサイズが正義の戦いをしていたかどうかを聞く。
 コハクは口を開く。

「危険だったから途中までしかいられなかったけど……正義の味方だったかどうかは微妙だけど……アナザ・ダイソウトウはすごく強いよ。たぶん、ダイソウトウよりも強い」
「うそ! 両方ともダイソウトウなのに、向こうのほうが強いの!?」
「こっちと向こうの時間軸では、相違点もいくつかあるみたいだ。向こうには向日葵もいないしイコンもない。だけどアナザ・ダイソウトウは悪くて強い。だからこっちの時間軸に攻めてきたんだ」
「うーん、そっかあー……」

 美羽が腕を組んで首をかしげる。
 ダークサイズにイコンの再起動パスワードを教えるべきか否か。
 美羽のパスワードを教える条件は、ダークサイズが一日正義の味方となってよいことを行うことだった。
 今のダークサイズは、謎の光の正義の秘密の結社になれているのだろうか?
 彼女が考え込んでいるところに、研究所の扉が開いて超人ハッチャンが入ってきた。

「ねえ美羽? そろそろパスワード教えてくれない?」
「ちょっと待ってー。今考えてるところだから」
「でもさ、閣下が負けちゃったら正義も悪もないでしょ?」
「んー、そうなんだよねー。ダークサイズは悪だけど、仲間を思う心もあるし、人は殺さないし、法律守ってるから教導団にも敵視されてないしー」

 ハッチャンは止めの一言。

「それに! 今僕たちがやってる戦いは何だと思う? ニルヴァーナを征服しようとしてるやつから、ニルヴァーナを守る戦いなんだよ!」

 それを聞いて、美羽はぱちんと指を鳴らした。

「分かったよ! みんな私のお願い聞いてくれたもんね! パスワード教えてあげる!」
「おおおお! 本当かい!? ならすぐ教えてよ! 早く閣下を助けてあげたいんだ」
「おっけい!」

 心が決まれば行動は早い。
 美羽はイコンの再起動パスワードを公開する。

「パスワードはね、『L O V E ラブリー美羽ちゃん』だよ!」
「うわ、すごいパスワードだね……」
「えへへ。でね、それをダークサイズ全員で踊るの」
「……は、踊る……?」

 ベアトリーチェが超人ハッチャンに、変なパスワードですみませんと言い、

「イコンの目の部分にモーションセンサーを取り付けてあります。その目の前で……このサイリウムを振って踊るんです」

 と、ベアトリーチェがサイリウムを見せて言った。

「ほんとに踊るんだ……」
「ほんとにもう、こんなパスワードですみません……」

 ベアトリーチェが超人ハッチャンに頭を下げる。
 その間に、コハクもクマチャンを連れてきてサイリウムを渡した。

「はい、これはクマチャンの分だよ」
「……発車シマァース……」
「これをね、こうして、こういう風に振るんだ」
「……発車シマァース……」
「そうそう、上手だよ」

 コハクは、不器用にサイリウムを振るクマチャンを手を叩いて褒めてあげている。
 超人ハッチャンは、サイリウムを持って美羽に言う。

「ダークサイズ全員、なの?」
「そうだよ。ダイソウトウでしょ、ハッチャンでしょ、クマチャンでしょ、キャノン・ネネにキャノン・モモ、ダイダル卿にアルテミス!」
「うわ、アルテミス、踊ってくれるかな……」
「もちろんサンフラちゃんもだよ?」
「え? 向日葵ってダークサイズじゃないじゃん」
「あれーそうでしたっけ? ウフフ。でもそれが最低条件ね。ほかの幹部たちも踊れば、イコンはもっと強く覚醒するよ!」
「えー、ほんとー?」

 ともあれ、このパスワードを覚えてほかのメンバーにも躍らせなければならない。
 超人ハッチャンは、イコン起動の使命と思ってパスワードの練習を始めた。
 美羽が手拍子をうちながら、

「『L O V E ラブリー美羽ちゃん』! 『L O V E ラブリー美羽ちゃん』! ほらほら、腰があまーい!」

 と、段々超人ハッチャンに厳しいレッスンを強要してゆく。
 すると、研究所のドアが激しく開いた。
 トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)は息を切らしながら急を告げる。

「まずいことになった! イコンを……何やってんだ?」
「いや、パスワードの練習を……」
「そんなことより、イコンを隠さないと!」
「えっ、どういうこと?」
「ダイソウトウが……やられた!」
『えええええーっ!!』

 美羽をはじめ、全員顎が外れそうなほど口を開いて驚いた。
 超人ハッチャンは駆け寄ってトマスの肩を掴んでがくんがくん揺らす。

「うそでしょ! ほんとなの!? 閣下死んじゃったの!?」
「はっきりとは分からない。ダイソウトウは意識もないのに無茶をしすぎた。それよりも、アナザ・ダイソウトウに変化が……」
「変化?」
「とにかく、イコンを隠す。あいつの手に渡すわけにはいかないからね。魯先生!」

 トマスが研究所の奥に向かって叫ぶと、イコンの後ろから魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)が顔を出す。

「はい」
「うわびっくりした! いたの!?」

 存在に気付かなかった美羽が叫んだ。
 トマスは子敬に、

「先生、イコンを隠す準備は?」
「ええ、整っていますよ。本来ならイコンを起動させて戦ったほうがよいかとは思うんですがね……ダイソウトウ殿の操縦能力では仕方ありません」

 と言って、子敬は懐からスイッチを取り出し、

「ぽちっとな」

 とボタンを押す。
 すると、イコンの関節部各所から水蒸気が噴き出し、空圧で各部のボルトが外れ、

ガラガラガラガラ!!

 大音を立ててイコンがバラバラになって崩れ落ちた。

「きゃあーっ! い、い、イコンがあー!」

 アタッチメント取り付けと整備にいそしんでいたベアトリーチェが思わず悲鳴を上げた。
 子敬はまあまあと手を上げて、

「心配ありません。隠しやすいように分解しただけです。破損はしていませんから、いつでも再構築できますからね。さあみなさん、パーツを持って散開です。とにかく逃げるんですよー!」

 と、まず子敬が自分の持てるパーツを抱えて走り去っていった。

「パスワードの上に組立が必要なんて、状況が悪くなっているような気がするんですが……」

 と言いながら、やむなくベアトリーチェもコハクも美羽も各々パーツを抱えた。
 テノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)は腕力に任せて大きめのパーツを三つほど選び出し、

「ったく、まかり間違えばニルヴァーナはダークサイズの支配下かよ。教導団の立場がねえぜ……」

 と言いながら、なぜかその一つに納豆をかける。

「ジョークが通じねえっつっても、アナザ・ダイソウトウもこいつの臭いには辟易だろうぜ」

 そして、パーツを持って走ってゆく。
 ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)がトマスに言う。

「トマスも早くなさい。アナザ・ダイソウトウが追ってくるわ」
「分かってる。さあ、ハッチャンもクマチャンもパーツを持って……」

 とトマスが指示する途中で、突然頭上で何か巨大なものがぶつかる音がした。
 見上げると、天井には多くな穴が開いており、その穴からは空ではなく、巨大なイレイザーの顔が見えていた。
 そしてそのイレイザーの首元に足をかけて立っているのは、

「ダイソウ、いや、アナザ・ダイソウトウか!」
「どこまでも……お前たちは私の予想の斜め上をゆく戦い方をするというのだな。私に渡る前にイコンを破壊するとは……」

 アナザ・ダイソウも恐るべきだが、トマスはいつかかってくるともしれないイレイザーを警戒しながら、

「もう追いついてきたのか……」
「どうなってんの? なんでイレイザーが!?」

 ハッチャンがトマスに叫んだ。
 トマスは警戒を切らさないようにハッチャンに目をやり、

「アナザ・ダイソウトウがアルテミスたちと融合できたのは、イレイザーの魂を触媒に使っていたからなんだ。ちょうどクマチャンがイレイザーと融合しているのと同じようなものだろう。追い詰められたアナザ・ダイソウトウは、それを解除したんだ。すると、アナザ・ダイソウトウと、アルテミスたちの肉体を利用したイレイザーに分かれた!」
「うわ、理屈が全然わかんないけどとにかくすごい……閣下は? アルテミスは? ダイダル卿は? ほかのみんなは?」
「すまない、分からない。僕たちも退避するしかなかった」

 アナザ・ダイソウはニヤと笑ってトマスを見、

「解説ご苦労。さて、イレイザーを前にして、お前たちには策も何もあるまい。イコンを再度組み立て、私に差し出せ」

 トマスも負けじと、

「冗談じゃない。たとえバラバラになっても、これはみんなの汗と涙の結晶。君にだけは絶対に渡さない!」
「くっくっく。謎の闇の悪の秘密の結社ダークサイズの言葉とは思えぬな」
「そんなことはない! ダークサイズは正々堂々と心優しく正しい悪の組織。おまえこそ『ダイソウトウ』の名にふさわしくない! 懐の狭い甘っちょろい悪人なら、『サンオントウ』で十分だ。この際名前を変更したらどうだ!」

 ザーさん、ダイソウトウ(仮)、ダイソウB、そしてここにきてサンオントウ。トウしか合ってない。
 ミカエラの瞳がきらりと光る。

「待ってトマス。サンオントウなんて、名前としての通りがいまいちね。なんだか語呂が悪いわ。グラニュートウとかコンペイトウとか、ジョウハクトウなんてどうかしら」
(甘いのばっかりじゃないか!)

 とツッコみたいのを、超人ハッチャンは空気を読んでぐっとこらえている。
 アナザ・ダイソウは無表情のまま、二人を見下ろし、

「あの大総統にしてこの幹部あり、か。これではニルヴァーナ征服など夢のまた夢、と言ったところか」

 しかし、名前いじりで時間を稼ぎながらトマスとミカエラはアイコンタクトで会話している。

(イレイザー相手では到底勝てない。逃げ切れるかどうか)
(いいわ。私の【歴戦の防御術】のスキに、できるだけパーツを回収して逃げて)
(ダメだ! ミカエラ一人じゃ……)
(いいのよ。行って)
(……)

 トマスが言葉につまった直後、ミカエラが飛び出す。
 イレイザーがミカエラに顔を向ける。
 トマスを逃がすために死ぬくらいはなんでもない。
 むしろこういう死に方を求めていたのかもしれない。
 ミカエラの胸に去来する、トマスと過ごした日々。
 彼女は【ウイングソード】を抜き、高く跳躍する。

(トマス……生きなさい……)

 ミカエラがソードを振り上げ、イレイザーへ特攻する。

「はああああ……うっ!?」

どしん!

 イレイザーに到達する直前、ミカエラの背中を蹴って彼女を踏み台にして蹴り落とし、アナザ・ダイソウに抱き付く一つの影。

「グルルァーォ♪ クオォォ〜ン♪(ダイソウトウの裸だわぁ〜。裸のダイソウトウだわぁ〜)」

 ヴァルヴァラは血にまみれたアナザ・ダイソウの顔と体をべろべろ舐める。

「ら、ラッキー! ミカエラ!」

 突き落とされたミカエラを助け、二人は脱出に成功した。

「な、なんだこのヒョウは……」
「グルルグル、ピニャーオ♪(あら、アナザーの方なの? まあいいわ。むしろいいわ。二人目のダイソウトウ〜。あははぁ、ダイソウトウのお肌だわぁ。固くて大きいのねぇ〜〜)」
「うおお、やめろ……おのれ、私のイコンがああああ!!」

 ヴァルヴァラに全身舐められながら、イコンのパーツを逃してしまうアナザ・ダイソウ。
 そして、超人ハッチャンとクマチャンを残し、モモは意識不明、ダイソウトウたちの安否は……


つづく


担当マスターより

▼担当マスター

大熊 誠一郎

▼マスターコメント

お待たせいたしました、大熊誠一郎です。

ダイソウトウが死のうが知ったこっちゃない勢いのアクションが多くて笑いました。
これほんとにダイソウトウ死んじゃうんじゃないかと、自分がひやひやしています。

アナザ・ダイソウトウが合体の触媒にしていたイレイザーが現れました。
イコンはバラバラになりました。
キャノンモモは意識不明です。
ダイソウトウ、アルテミス、ダイダル卿、キャノンネネはどうなったんでしょう。

マジで次どうなるんだろ。
また次回お会いしましょう