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リアクション
「変態微笑みデブ。
もの凄く期待出来る名前ね……」
絵に描いたような嫌な上官が見られるとあってやってきたリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)がごくりと唾を飲み込む音に、キアラ・アルジェント(きあら・あるじぇんと)は嘆息で返した。
「マジシャレになんないスよ?」
「ふむ。もしかしてその変態微笑みデブ君の階級が上の方だから?」
「そうっスね。ウチって中隊だから、少尉は結構上の方」
「……正直なところ。
軍自体良く分からないけど、階級ってもっと分からないわ」
素直に言うリカインに、キアラは「じゃあ基本から」と軽く説明を始めた。
「中隊って言うのは、軍隊の編成単位っス。比較的ちっちゃくて、大体二百人くらい。ウチは今ー……、三百手前?
教導団とかは民間出資の学校だけど、軍隊って考えたら七万とか居るから、比べ物になんないっスね。ただでっかい軍隊って、動ける人と、動いてない人も合わせてなんスよ。会社でゆーとこの非常勤みたいなのから、契約社員みたいに期間限定で任務についてる人も居るっスね。
うちの場合は私とトゥリンちゃん以外は地球のどっかの国の軍人と一部がそのパートナー。出資も地球の軍隊で、そん中から向こうとこっちと両方でオッケー貰えた一部の人しか入れないんで、三百人全員がやる気満々のアクティブて思っちゃって」
「その一番上がアレ君」
「んー。
あの人は所謂――エリート組。ウチでは大尉って呼ばれてるし、階級章も大尉のままだけど、本来の所属だともっと上だし、また昇格の噂があるんスよね。結局広告にするつもりなのかなぁとか? 若きカリスマ、ヒーロー、あの国が好きそうな要素が――、うぇっ。
ジゼルちゃんの話だとCGSC(*米陸軍指揮幕僚大学)にも行ってるっぽいからそのうち将官になったりして。…………よく考えたら変態に刃物状態とか超怖いんスけど。
……んで、ウチの階級制度は米軍とかと同じで、次にくるのが中尉のトーヴァお姉様」
キアラが出した彼女のパートナートーヴァ・スヴェンソン(とーゔぁ・すゔぇんそん)の名前に、遠野 歌菜(とおの・かな)は月崎 羽純(つきざき・はすみ)とキョロキョロ周囲を見回した。
「トーヴァさん、今日は居ないんですか?」
「お姉様だったら、アルケリウスお兄様と一緒にトゥーゲドアって街に。なんかの調査があってお兄様の弟の手伝いするって言ってたっス。
私が行っても役に立つ訳じゃないし。アルお兄様にはお姉様を、お姉様にはお兄様を任せるってゆーか。そんな感じ? 弟は知らない」
早口で言うのは気に入らない話題だからかもしれないが、キアラの言葉を聞き、『お兄様』アルケリウスと同じ緑色の目を見れば分かるのは、彼女の中ある二人への信頼だ。
歌菜と羽純は自分達の協力がきっかけで、彼等が互いの関係を円滑に進めている様子に安堵していた。
「えーとそれからぁ、お姉様と同じ階級がシュヴァルツェンベルク中尉。
フツーの会社で言ったら担当部署が違うってゆーか、お姉様は兵士を纏めるのが主な仕事、んでシュヴァルツェンベルク中尉は内勤みたいな事やってる……のかなぁ? あの人の事はキアラよく分かんない。隊長と仲良さげなんだけど、友達って訳じゃないみたいだし、兄弟っていうのともなんか違うよーな……。
つーか中尉クラスまでは基地に居なくていいんスよ。
あ、うちの場合女の子は超少なくて、一番居るときでも10人くらいなんで別っスけど、基本兵士って基地住んでるんスよ」
「大、中……ということは、此処で件の微笑みデブさんの登場なんですね」
大人しく聞いていた枝々咲 色花(ししざき・しきか)は、得心したようだ。
「うん、少尉も二人。
一人はストヤノフ少尉って、ココでは珍しくすっげー良い人。
で。そこと同じ階級なのが……チュバイス少尉」
「だったら序列からいえばキアラ君は手を出しちゃいけないはずだけど」
「なんスけど、階級って全部が全部って訳じゃないトコもあるんスよね。
例えば少尉二人のいっこ下の階級のコワルスキ曹長とか、現場主義ってゆーの? そういうのだから、階級は低いけど、年齢とか経験から言うといっちばん上なんスよ。
国で予備軍役だったのを無理言ってパラミタまできてもらったみたいで、新人教育とかするから皆超尊敬してて、あの人にタメ語で喋るのなんて隊長くらい。
ストヤノフ少尉も、私と話よく合うんスよ。ホントはそんな階級じゃないんだケド、服の事とかで盛り上がっちゃう」
「例外があるって事ね」
綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)が聞き直すのに、キアラは両手の人差し指をぴっと立てた。
「そこ。そこポイントで!
最近気付いたんだけど、隊長は最近、キアラに甘い!!
特に今はお姉様が留守だからって、失敗しても結構色々見逃してくれてんスよね!
だから今回も怒られない!!」
勢いよく言ってみたものの、皆の視線を一身に浴びると一気に消沈して、キアラはもごもご続けた。
「……気がする。
だって悪いのあっちだもん」
「そうね、ジーマの余りの(以下、倫理に真っ向叛逆する言葉が続いた為、アイドルSAYUMINのイメージを損なわないよう検討された結果、台詞が検閲削除された事を報告致します)には、呆れ果てて物がいえないわ」
「……人の想いの詰まったプレゼントをただの嫉妬で巻き上げるなんて最低だと思いますわ。
それ以前に、その暗い情熱を少しはマトモな方向へ振り向けるのであれば、少なくともここまで嫌われてはいなかったはず……」
アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)は、彼等の自業自得なのだと息を吐き出す。
「ありがとう、なんとなく分かったわ。
でも例外はあるものの基本階級が絶対なら、やっぱりキアラ君は危ない橋は渡らない方がいいでしょう」
リカインが纏めるのに、キアラはしょんぼりと肩を落とした。
しかし、リカインは「でも――」とそのまま言葉を続ける。
「部外者で、軍人でもない私達なら常識に則って失礼な行為に『お返し』するのは特に問題ない、そうよね皆」
「キアラちゃん、私達に任せて下さい!」歌菜が笑って、拳で胸を叩く。
「そうそう、ホワイトデーは男の甲斐性の見せ場!
リア充がやられるだけだと思うなよ! 俺達が成敗してくれる!」
紫月 唯斗(しづき・ゆいと)がそう言って、キアラの背中を叩こう――としたのをキアラは巧妙に避けた。相変わらず男嫌いは治っていないらしい。
「ありがとう!
皆、あいつらをやっつけちゃって!」
こうしてキアラに要請を受けた彼女の友人達は、微笑みデブ軍団を撃退する為に立ち上がったのである。
「ところで……天照さんは何処へ行ったんでしょう…………」
動き出した皆けワンテンポ遅れていた色花は、一緒に着た筈のパートナーの高天原 天照(たかまがはら・てるよ)が居ない事にやっと気がついたらしい。
*
さて。料理教室の数日前の朝の事である。
「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス(どくたー・はです)!
ふむ、もうすぐホワイトデーか。
今年は咲耶からクリスマスに眼鏡と白衣をもらったり、バレンタインに(一応)チョコ(?)をもらったりしたから、
ホワイトデーに何か返すとするかな」
起き抜け、洗面所の鏡に映った自分が、気付けば妹高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)のプレゼントでフルコーディネートになっている事に気付いたハデスは、ふと彼女へのお返しを思いついた。
それはとても珍しい事だった。
そしてプレゼントもまた彼のセレクトにしては相当に珍しいものだった。
「咲耶、いつも世話になっているな。
こ、これは、その礼だ……」
こほんと畏まって咳払いしてから白衣から取り出したのは、繊細な装飾が施されたお洒落なイヤリングだったのである。
「わぁ、綺麗なイヤリング!」
(えっ……、に、兄さんが、私にこんなプレゼントを?
も、もしかして、ようやく私の気持ちに気付いて……!)
感嘆の声を上げ、心の内でそんな風に思う咲耶。だが彼女の喜びの時間は本当につかの間だった。プレゼントとプレゼントの見た目こそは珍しかったが、その中身は矢張りハデスだったのだ。
(ん? なんだかこれ、見覚えのある……)
そんな風に思いながらも無邪気な笑顔で鏡を見つつ、イヤリングを付けた瞬間――。
「フハハハ!
さあ、咲耶よ!
その『ユニオンリング』で我が発明品と合体し、『メカ咲耶』になるがいい!」
[了解シマシタ。合体ヲオコナイマス]
「きゃ、きゃあっ、なんですか?!」
ハデスの 発明品(はですの・はつめいひん)の機械音声が下された命令に従う声に、パニック状態の咲耶の姿が半サイボーグへと変化していく。
「って、なんか身体が勝手に動くんですけどっ!?
や、ややや、きゃああああああああ何処行くんですかああ〜!!!?」
機械とリンクしたおもちゃのリモコンで操作している咲耶の姿が遠くなっていく様を見守りながら、ハデスは喉の奥をくっと鳴らしていた。
「嬉しいか咲耶よ。
これぞ、俺からのプレゼントだ!」
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