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白い機晶姫【サタディ】を捜せ

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白い機晶姫【サタディ】を捜せ

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五章 生きるということ


 映像はそこで途切れていた。
 立体映像を見終えたサタディは、ゆっくりと自分の手を見下ろした。
「……今、全てを思い出した」
「記憶が戻ったんですね……!?」
 サタディは、全ての記憶を取り戻した。自分の記憶だけでなく、大廃都の歴史をも含め、全てを思い出したのだ。
 歌菜は大粒の涙を流しながら、サタディに抱き付いた。
「前回の戦い……私達の言葉に応えてくれて、ありがとう。
 私、本当に嬉しかった……!」
 歌菜の傍らで羽純が屈み込み、サタディと視線を合わせる。
「歌菜の話に耳を傾けてくれた事、応えてくれた事に感謝する。ありがとう。
 そして、すまなかった。力が及ばず、助ける事が出来なかった事に……無事でよかった」
「………………」
 サタディは怒りと悲しみと喜びが入り混じった複雑な表情で皆を見つめると、こう告げた。
「……私こそ、すまなかった。私は……私たちは、取り返しの付かない事をしてしまったようだ」
 機甲虫の襲撃で、アルト・ロニアは壊滅した。その機甲虫を先導していたのは、誰であろう、サタディだ。人間に捨てられた悲しみと憎しみをサイクラノーシュの力で増幅されていたと言えど、この事実は決して揺るがない。
 そしてまた、人類が大廃都から過去の遺物を継続的に発掘していたという事実も……決して消えはしない。
「償う機会を私達にください。私達は、サタディ達と友達になりたいんです」
 サタディは悲しげな表情で俯き、己の手をじっと見下ろした。
 もはやこの手は清廉潔癖ではない。アルト・ロニアの人々の血で穢れ切っているのだ。
「安易に頷ける問題ではない……。この街に住んでいた者たちは、私を決して許しはしないだろう」
「……サタディさん。人は誰しも、何かしらかの咎(罪)を胸に抱え生きています」
 これまで黙していたエレナ・リューリク(えれな・りゅーりく)が、サタディに言った。
「わたくしもまた然りです。かつて、わたくしは愛する者を手に掛けた一族を誅戮し尽くした事があります。
 復讐。ただそれだけの為に、敵対者も、その家族も、一人の例外もなく命を奪いました。それが赦されざる事とは思っています。そしてそれは、命を奪った者が背負わねばならない咎の十字架なのです。
 アルト・ロニアの人々からすれば、サタディさんを感情的に受け入れる事は出来ないでしょう。それもまた、貴方の背負う十字架なのです」
 そう。アルト・ロニアにサタディが居る事は、ここに住む人々に辛い記憶を蘇らせる事に他ならない。
 エレナの言葉を引き継ぎ、富永 佐那(とみなが・さな)が告げる。
「人類は大廃都を掘り返しました。それもまた、事実です。
 私達の行為が許されない事も、償いきれない事も分かっています。ですが……それでも、お互いをもっとより知る事は出来るのではありませんか?」
 誰もが罪を抱えている。人間も、機甲虫も。
 種族に隔たりなど無い。誰もが『平等』だ。全ての生命は罪を犯して生きている。
「すぷー……?」
 ずっと眠っていたスープ・ストーンが起き上がった。ソフィア・ヴァトゥーツィナ(そふぃあ・う゛ぁとぅーつぃな)がメロンパンを差し出すと、スープはそれを囓った。
 カリカリ、モフモフ。カリカリ、モフモフ。
 サタディは、もう一方の手で掴んでいるメロンパンを見た。メロンパンは食べ物だ。食べ物には全て原料が存在する。原料、それは動物であったり植物であったりするが、本質は変わらない。
 つまり、『命』だ。
「……そうか。そういうことか」
 一方の手は血に染まっているが、もう一方の手は命に溢れている。
 これまでは、人を殺してきた。だけどこれからは、命を育む事だって出来る。誰かと手を繋ぐ事も。
 それが、『生きる』ということだ。
 サタディは、顔を上げた。
「……了解した。出来るだけのことを、やってみよう」