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「……未来の自分への手紙かぁ。何年後にしようかな?」
 ミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)は便箋を手に持ち、じぃと見ながら可愛らしく小首を傾げていた。
 考えた結果
「……5年後にしよう」
 宛先を決定。
「……5年後、ミーナ、どうなっているのかな? 大好きな先輩と一緒だったらいいなぁ……それで先輩と……」
 ミーナは恋人である真田 佐保(さなだ・さほ)の姿を思い出しほわんと笑みを浮かべて今よりもずっと幸せになっている未来を想像した。
 そして、
「……確か便箋の匂いを嗅げば……何かいいにおいがする〜」
 便箋の特性を思い出したミーナはそっと鼻に近付け優しい匂いを嗅いで想像した未来をさらに鮮やかにしていった。

■■■

 5年後。

「ほら、綺麗になったよ」
 仕事の尻尾トリマーを頑張り腕を振るうミーナ。
「ありがとう、この子とても嬉しそう」
 ミーナにお願いしたお客はすっかり上機嫌のペットを抱えてお店を出て行った。
「来てくれてありがとうです」
 ミーナは嬉しそうに去って行く客の後ろ姿に挨拶をして客のペットに手を振って見送る。
 ミーナの仕事はそれだけではない。
「あっ、今日はお手伝いが入ってたんだ」
 慌てて尻尾トリマーの仕事を終わらせて葦原明倫館に向かった。

 葦原明倫館の入り口前。

「遅れてごめんなさい。仕事で忙しくて……」
 ミーナは入り口の前に突っ立っている人物に向かって手を振りながら駆け寄った。
「大丈夫でござるよ。ミーナ殿は評判が良いでござるからね」
 佐保は笑顔でミーナを迎えた。
「頑張って助手をしますから」
「いつもすまぬ」
 やる気満々のミーナに佐保は申し訳なさそうに言った。そうミーナのもう一つの仕事は先輩助手だ。
「謝らなくていいですよ。ミーナ、力になれてとっても嬉しいんだから」
 謝る佐保に笑顔を向けたミーナはさっさと明倫館に入って行った。
 そして、講師をする佐保の助手として頑張った。

 そんな忙しい毎日が更に忙しくなる出来事があった。パラミタの技術で佐保との間に子供を得た事。実はミーナと佐保は結婚していたのだ。

「……可愛いですね」
 ミーナは眠っている赤ちゃんの頬を突いたり頭を撫でたりしてからにこぉと隣の佐保に笑いかけた。
「ミーナ殿にそっくりでござる」
 佐保もまた我が子の小さな手に触れながらミーナに笑みを返した。
 しばらく我が子の寝顔を堪能した後、
「……ミーナ殿とこうしていられて幸せでござるよ」
 佐保は子供を見つめながら口元を綻ばせ、気持ちを洩らした。
「ミーナも大好きな人と結婚出来てとても嬉しいしお仕事も充実しているのにその上、新しい家族も出来て幸せです。これからも一緒に歩いて行きます」
 ミーナはそっと佐保に寄り添い笑顔を向けた。
「それは拙者も同じでござるよ。ミーナ殿とこの子と共にずっと一緒に歩いて行きたいでござる」
 佐保はミーナの優しい言葉と笑顔にすっかり心は満たされるのだった。
 そして
「……」
 二人は寄り添ったまま静かに寝息を立てる我が子を愛おしそうに見ていた。幸せを噛み締めながら。
 その時、
「!!」
 二人はびっくり。突然、我が子が目を覚まし泣き出してしまったのだ。
「あぁ、起きてしまったみたいでござる」
 佐保は急いで抱き上げ必死にあやし始めた。
「お腹空いたのかな? それともおむつかな?」
 ミーナは何とか泣いている原因を考え、
「おむつは大丈夫みたいでござるよ」
 佐保は素速くおむつを確認し、違う事をミーナに知らせた。
「だったら……」
 ミーナは急いで我が子に飲ませるミルクを準備しに行った。
 その間も我が子は泣き続け
「泣きやむでござるよ」
 佐保は必死にあやしていたが効果は無かった。

 すぐに
「持って来ましたよ!」
 ミルクの入った哺乳瓶片手にミーナが戻って来た。
「ほら、ミルクですよ〜」
 ミーナが哺乳瓶を近付けると我が子はぴたりと泣き止み大人しくミルクを飲み始めた。
「お腹が空いていたのですね〜」
 ミーナはミルクを飲む我が子の姿に思わず顔を綻ばせた。
「泣き止んで良かったでござる」
 佐保もミーナと同じくほっと胸を撫で下ろしていた。
 ミルクを飲み終えた所でゲップさせ食事を終わりにさせた。
 食事が終わった途端、我が子は再びウトウトと眠りの世界へ。
「お腹が満たされて眠ったようでござる」
「可愛いです〜」
 我が子の寝顔に佐保とミーナは顔を綻ばせ、しばらく見ていた。赤ちゃんはいるだけで周りを幸せにするようだ。

 二人は仕事に子供の世話にと今までよりもずっと忙しくて辛い事も多かったが、それ以上に楽しい事や嬉しい事もあって充実した日々を送った。

■■■

 想像から帰還後。
「……やっぱり佐保先輩はミーナのお嫁さんです〜♪」
 ミーナは嬉しそうな表情で想像した内容をもう一度頭の中で再生した。恋人同士の今も幸せだが想像した結婚した後の日々も素敵で胸がいっぱいだ。
「それに先輩にそっくりな可愛い赤ちゃんもいてミーナ尻尾トリマーや先輩の助手で大忙しで……でも毎日幸せそうで」
 自分が想像したものではあるが、パラミタの技術で大好きな佐保との間に生まれた赤ちゃんの姿や充実した毎日にほんわりするミーナ。
 しかし
「あ……手紙書かなきゃ!」
 ミーナは手紙を書き終えていない事をようやく思い出して書き始めるのだった。