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第四回葦原明倫館御前試合

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第四回葦原明倫館御前試合

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決勝

   審判:紫月 唯斗

○第一試合
セリス・ファーランド 対 緋柱 陽子

「野郎ども! 泣いても笑ってもこの三試合が最後だ! 覚悟決めやがれ!!」
 マイク片手に唯斗が吼える。
 試合会場は、観客の声援で揺れた。

 会場の盛り上がりに比べ、当の二人は淡々としたものだった。
 投げつけられた錘をセリスはふわりと躱した。まるで空を飛ぶようだった。そのまま、振るった木刀は、陽子の頭部を打つ。
 陽子は意に介さず、手元に戻った武器を再び、セリスの顔面目掛けて飛ばした。木刀に巻き付き、セリスは身動きが取れなくなる。咄嗟にセリスは木刀を手放し、地面を蹴った。
 あっという間のことだった。セリスは陽子の鳩尾に、拳を叩き込んだ。苦痛に陽子の顔が歪み、唯斗がセリスの勝利を宣言した。

勝者:セリス・ファーランド


○第二試合
北門 平太(宮本 武蔵) 対 セリス・ファーランド

「大丈夫か?」
 平太(武蔵)が声をかけた。「さっき試合を終えたばかりだろう?」
「心配してくれるのか?」
 意外だった。平太はともかく、武蔵はそういうタイプではないはずだ。
「万全の体調の奴と戦いたいからな」
 セリスは笑った。
「それなら分かる。だがもし怪我をしていたとしても、それを相手に言うか?」
 平太(武蔵)は束の間考え込み、
「ないな」
と答えた。

 しかし実際、セリスの疲労はピークに達していた。それは平太(武蔵)も、陽子も同じだろうが。
 小細工は必要ない。否、出来ない。
「真正面から、行くのみ」
 セリスは大上段に構え、木刀を振り下ろした。バキリ、と音がした。平太(武蔵)の左肩に、木刀が食い込んでいる。にやり、と平太(武蔵)が嗤った。
「一度ぐらい、決めさせてもらおう」
「なっ――!?」
 平太(武蔵)の木刀がセリスの鳩尾に突きこまれた。焼け火箸を当てられたようだった。実際には熱ではなく、冷気によるダメージだったが。
 立ち上がろうとしても、足に力が入らない。平太(武蔵)は左肩をだらりと下げたまま、嗤い続けている。
「武蔵さん!!」
 悲痛な声が観客席から聞こえてきた。忍野ポチの助だ。
「……まだ倒れんよ」
 平太(武蔵)は呟いた。「だから、そんな声で俺を呼ぶ必要はないぞ、ワン公」

勝者:北門 平太(宮本 武蔵)


○第三試合
緋柱 陽子 対 北門 平太(宮本 武蔵)

 陽子は眉根を寄せた。
「貴方、その傷で戦えるのですか?」
「心配か?」
「試合で死なれては迷惑なので」
「気にするな。ここまで来て死ぬなら、本望だ」
「助かります。手を抜く必要がないということですね」
 平太(武蔵)は、にやりと嗤った。

 平太(武蔵)は左手をだらりと下げたまま、片手で正眼に構えた。本当に左手が使えないのか、一見した限りでは分からない。
「……試してみるしかありませんね」
 陽子は錘を投げつけ、平太(武蔵)の右腕に絡ませるとぐいと引っ張った。平太(武蔵)は舌打ちし、引っ張り返そうとする。しかし、ここに至っても左手を使わないところを見ると、動かないのは確かだろう。
 遠慮するつもりは毛頭ない。陽子は平太(武蔵)の左側頭部へ蹴りを淹れた。庇うことのできない平太(武蔵)は、黙って受けている。観客からは悲鳴が上がった。
 陽子は間髪入れず、縄を引っ張った。頭部への攻撃で意識が飛んだのか、平太(武蔵)はあっさりと倒れた。陽子は馬乗りになり、首に手をかけるとぐいぐいと締め付けた。平太(武蔵)の顔から血の気が引いていく。
「ストップ! ストップだ!」
 審判の唯斗が慌てて陽子を引き剥がす。平太(武蔵)は、嗤ったまま気絶していた。

勝者:緋柱 陽子


「まったく! あれほど言ったじゃありませんか!!」
 医務室でぷんすか怒っているのは、救護係の高峰 結和だ。ベッドでは左腕を吊り、顔中に膏薬を貼り、首にも包帯を巻いた平太(武蔵)が寝ている。だがまだ、意識はあるようだ。
「まあそう言うな。小僧は頑張ったぞ」
「私は貴方に言っているんです!!」
 平太(武蔵)は首を竦めた。
 武蔵が無茶をするのは想定内だった。故に結和は、平太にストレッチとウォーキングを勧めていた。平太は真面目にこなしていたようで、確かに以前に比べ、武蔵の活動時間は飛躍的に延びている。
 だが、その分、武蔵が無茶をすれば意味がない。結局、去年より重症だ。医務室では治療が限られているから、このまま病院送りだろう。
「それは小僧に任せる」
 武蔵はにやりとして、――消えた。
「あ、逃げた……もうっ!」
 この怒りをどこに向ければいいのやら。結和はちょっと口をへの字にして、寝ている平太――の中にいる武蔵――を睨みつけた。平太は痛みも感じずに眠っているようだ。
「あの……」
 おずおずとベルナデット・オッドが入ってくる。
「へーたは……?」
「大丈夫ですよー」
 心配かけぬよう、結和は微笑んだ。「でも念のため病院に行ってもらうので、ベルナデットさんが付き添ってくれますかー?」
「は、はいっ」
 ほっとしたベルナデットが頷くと同時に、表彰式のアナウンスがあった。