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リアクション
七階・死返(まかるがえし)の間
二体の機晶ゾンビ改がゆらりと構える七階。
「どうなってんだ……。お袋と、親父じゃねぇか」
クローン技術により再現された両親を見て、花澤 愛音羽(はなざわ・あねは)が思わず息を呑んだ。
「ここは私に任せて、皆さんは上へ行ってください」
佐々布 牡丹(さそう・ぼたん)が機晶ゾンビと対峙する。他の契約者たちが七階を横切っていくなか、愛音羽だけはその場から動けずにいた。
「愛音羽も行ってください。この先に、あなたを必要とする人がいるはずですから」
牡丹の一言で、彼女の脳裏に妹の存在がよぎった。
零に囚われた妹・愛華羽。自分が助けに行けば、今ならまだ間に合うかもしれない――。
「悪い。ここは、あんたに任せるよ」
牡丹の手を握ると、愛音羽はそのまま振り返ることなく両親のクローンを横切っていった。
「人のクローンを作る技術、ですか。真っ当な研究を進めていれば善い結果が出せたのに……許せねぇな!」
牡丹が吐き捨てた台詞の後半は、怒りによって荒い語気に変わる。
一緒に来てもらったディシプリンシスターズを見やると、彼女たちは無言で頷き合い、機晶ゾンビへと立ち向かった。
無を有へと修理する牡丹だが、今回ばかりは有を無へと破壊していく。戦い慣れていない身体を鼓舞しながら彼女は思う。――自ら戦闘に身を投じたのは初めてかもしれないな、と。
ディシプリンシスターズとの連携が取れている分、牡丹のほうが優勢だ。しかし、部屋の奥にある培養槽から機晶ゾンビは次々と生み出されていく。
(……これじゃキリがない)
牡丹は攻撃対象を培養槽に切り替える。マイスターとしての素質を活かし、機晶ゾンビの量産を止めるのが狙いだ。
操作で無防備になる間は【機晶解放】を施したシスターズに守ってもらう。
ゾンビの攻撃を受け、一体、また一体と戦線を離脱するシスターズ。彼女たちが身を挺しているうちに、牡丹はかろうじて培養槽を停止した。
それはあくまで一時的な処置にすぎなかったが、培養槽と連動していた機晶ゾンビたちは、電源を絶たれたロボットのようにその場に立ち尽くしていた。
「――愛音羽のお父さん、お母さん。聞こえますか?」
牡丹は、状態の良い二体に向けて【機晶脳化】を使い、人間だったころの記憶を取り戻させる。《C‐ウイルス》により機晶石と化した両親の脳。無意識の底に沈んでいた記憶が、再構築された。
牡丹はこのまま記憶を読み取ることもできたが、敢えて両親から答えを聞き出す。
「娘に対する、謝罪の気持ちはありますか?」
その問いを耳にした瞬間。
ふたりの顔は、悲嘆と悔恨でくしゃくしゃになった。
「こんなことに……巻き込んでしまって……。あいつには……申し訳ないことをした」
父親がそう告げると、母親も同意するように頷く。
「私たちは……八紘零を神だと信じました……。でも……奴は悪魔です……。命を弄ぶ……悪魔……」
「そうでしょうね」
「……お願いです。私たちは……愛音羽に会わせる顔がありません……。だから……このまま葬って……」
「はい。そのつもりです」
牡丹は、機晶石になったふたりの脳を停止させた。
「やっぱり私は――。壊すよりも直すほうが性にあっていますね」
牡丹は振り返ると、ディシプリンシスターズの修理に向かった。
その時。彼女はかすかな声を聞いた。
愛音羽の両親が、機晶脳化で同調した牡丹に、最後のメッセージを送る。
『ありがとう。あなたのおかげで、人として睡ることができます』
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