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食い気? 色気? の夏祭り

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食い気? 色気? の夏祭り
食い気? 色気? の夏祭り 食い気? 色気? の夏祭り

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 機晶姫姉弟の再会

 イルミンスール近郊の村で行われている夏祭り――

 その夏祭りの催し物の1つ、お化け屋敷にて相田 美空(あいだ・みく)は待ち人が来るのを静かに待っていた。お化け屋敷の中を歩いていく通行人が悲鳴を上げていても、その悲鳴をどこ吹く風で受け流し、パートナーである相田 なぶら(あいだ・なぶら)が連れてくるいっちゃんこと金襴 かりん(きらん・かりん)、さんちゃんことアンネ・アンネ 三号(あんねあんね・さんごう)へのサプライズが出来る瞬間を狙っていた。


 ◇   ◇   ◇


 夏祭りより数日前――

「ん? 【5周年記念】スペシャル番組『パラミタ大陸』に映ってるあの人……カルロット!? ちょ、録画録画、どこだリモコン……! あっ!」
 更に大声を上げてテレビに釘付けになったエミン・イェシルメン(えみん・いぇしるめん)は一緒に映り込んでいたアンネ・アンネ 三号を発見した。パートナーであるかりんが諦めずにずっと探していた彼女の弟――!
「かりん……! かりん! 見つけた、弟の三号を見つけたぞ!」

 離れ離れになっていた姉弟が出会う、これは感動の再会にしてやらねばと彼女達を取り巻く周囲の人々は方々へ連絡を取り合い、無事に再会を果たせるようにその用意を整えた。


 ◇   ◇   ◇


 舞台は夏祭り会場となり、結和・ラックスタイン(ゆうわ・らっくすたいん)はアンネ・アンネ 三号とアヴドーチカ・ハイドランジア(あう゛どーちか・はいどらんじあ)を連れて訪れた。
「エミンさん……? え、じゃあかりんさんのパートナーってエミンさんだったんですか?」
「自分もびっくりしました! 結和さんがかりんの兄弟のパートナーだったなんて」
 互いに連れているアンネ・アンネ 三号とかりんも漸く出会えたものの、お互い言葉がぎこちない。それを見かねたアヴドーチカが三号に代わってかりんへ挨拶した。
「初めまして。話は聞いているよ、私の名はアヴドーチカ・ハイドランジア……ご覧の通り『花妖精』だ」
 アヴドーチカの言葉で、エミンは軽く目を伏せたがテレビに映ったのはアヴドーチカで、彼女の苗床となったのであろうカルロットという女性ではないのだ。エミンの様子に気付いたのか気付いていないのか――アヴドーチカは付け加えるように自己紹介をした。
「知っているだろう、花妖精がその人の姿をしている意味を……自分はその墓、亡骸を肥として生まれたのだろう。……ま、なんだ。三号が見つかるきっかけになったのなら万々歳さね、私の事なんざほっといて感動の再会でもなんでもしとくれ」
 緊張する2人が話し出せる流れを作りつつ、アンネ・アンネ 三号とかりんを2人にするべく結和とエミン、アヴドーチカはその場を少し離れたのでした。

「あの……こんにちは、と言うのも、変な話かな……。電話でも伝えたけれど、僕は過去の記憶がないんだ」
 表情にあまり変化のないかりんだが、たどたどしく話すアンネ・アンネ 三号も彼女が自分との再会を喜んでくれている事を感じ取り、それが嬉しいと思う自分がいる事に少し戸惑うものの、アンネ・アンネ 三号へ伸ばされたかりんの両手は、その頬を優しく包んだ。
「三号、みつくん……ああ、ずっと……ずっと、会いたかった」
 紡がれる言葉は穏やかで優しげな声がアンネ・アンネ 三号の耳に響くと、このまま美空に言われた通りお化け屋敷へ案内してもいいものかどうか迷いも起こった。

 アンネ・アンネ 三号とかりんから少し離れた場所では彼らを見守る結和とエミン、アヴドーチカ、そして美空の願いでアンネ・アンネ 三号とかりんを迎えに来たなぶらが居た。
「そういえば、彼らの姉さんってのはどこ行ったんだ。来るって言ってたんじゃなかったのか?」
 アヴドーチカが見回して、美空の姿がない事をなぶらに訊ねた。
「来てるんだけど、まあ……サプライズの為、ここにはいないけどねぇ。今は感動の再会の時間だからこの後にかな……?」
 美空が狙っているサプライズを思うと、なぶらの声はどうも歯切れが悪くなってしまう。そんな彼の様子には気付かず、アンネ・アンネ 三号はかりんをお化け屋敷へと誘った。
「あの……立ち話もなんだから、ちょっと歩こうか。僕の事もちゃんと話したいから……」
 アンネ・アンネ 三号の言葉にかりんも頷いて並んで歩き出した。その向かう方向にあるものは――美空の待つお化け屋敷であった。


 ◇   ◇   ◇


「結和の話だと、僕はイルミンスールの倉庫で埃を被っていたらしいんだ。恐らく、機能停止していた所を火事場泥棒等に拾われて売り捌かれたのだろうと思う……」
 アンネ・アンネ 三号は自分に解る範囲で身の上話をかりんに話した。かりんも彼の話す唇の動きから話す内容を理解して時折相槌をしていく。
「再起動までの記憶がないのは……多分、事件の影響……だと思うんだ。かりんに会うのは遅くなったけど……これからもっと、一緒に過ごしてみたいと思うよ」
 表情の変化が乏しいかりんだが、アンネ・アンネ 三号の言葉は嬉しかったのか――そっと頭を抱き寄せた。

「……まるで恋人同士みたいに見えますね、かりんさんて結構愛情表現が深いのでしょうか」
「……僕の影響を受けているのかもしれません」
 結和の素直な感想に、エミンは心当たりのある原因を言ってみるのだった。


 ◇   ◇   ◇


 さりげなくお化け屋敷の方へやってきたアンネ・アンネ 三号とかりんだったが、なぶらが
「中で美空が待っているから」
 と、2人に告げて先に入るよう促した。
「さきに、入っている……? レニちゃん、待ちきれなかった……?」
 首を傾げながら入るかりんに、アンネ・アンネ 三号となぶらは僅かに顔を見合わせてしまうのだった。

 先を歩くアンネ・アンネ 三号とかりんは暗いお化け屋敷の中をゆっくり進んでいった。あまり怖いと思わない様子を見せる2人に幽霊役やらトラップを仕掛けて発動させるスタッフも、殆ど上がらない悲鳴に困惑を隠せなかった。その分、後から入った結和やエミン、なぶらやアヴドーチカは2人の分も悲鳴を上げて逃げ回ったというのはまた別の話である。

 美空が待っているはずだというろくろ首がある場所に差し掛かると、灯篭の上にボォーッと下から明かりで照らされた美空の生首が浮かび上がった。
「レ……レニちゃん! そんな、……こめん、ごめんね……わたしが、あなたを、たすけられなくて……っ」
 美空から事前にサプライズを聞いていたはずのアンネ・アンネ 三号も浮かび上がる美空の生首には流石に驚いたらしく、一瞬言葉を失ってしまった。泣き続けるかりんを慰めるように傍らにいると、追い付いてきた結和達も美空の生首にはギョッとしてしまう。
「かりんさん、大丈夫ですか……? 気持ちはわかるけれど、落ち着いて……ね?」
 背中を摩りながら泣いているかりんを宥めていると、サプライズ成功とばかりに美空が両目を開けた。
「…………」
「……え? レニちゃん……?」
「あ、あのねぇかりん……これは美空なりの再会の演出なんだよ」
 なぶらが事態を飲みこめずにいるかりんへ必死に説明を始めた。

 せっかくの再会なのだから、何かサプライズを演出したい。その為に目を付けたお化け屋敷で生首サプライズを仕掛け、かりんには知らせずに連れてきてほしいとアンネ・アンネ 三号となぶらへ頼んでいたのだ。その結果、かりんは驚きアンネ・アンネ 三号は怖がった事でサプライズは成功し、美空は満足したらしい。
「……」(ついでに、いっちゃんやさんちゃんの怖がった顔も見たい……と言うのは内緒)
 うっかり通訳しそうになったなぶらだが踏み止まった。そんななぶらと美空を結和が心底感心してしまった。
「なぶらさん……よく美空さんの言いたい事がわかりますねぇ、凄いです」
「いや、パートナーだし……付き合いもそれなりに長いし、はは……は……」
 乾いた笑いを零すなぶらだが、少々悪ふざけが過ぎた――

「もう、レ二ちゃん……わたし、本当に……あなたが首を刎ねられた時、止められなかった事を、ずっと、後悔して……ずっと……もう、知りませんっ」
――かりんが拗ねてしまった。その時、美空の頭をカーン! とバールで叩き、良い音を出したアヴドーチカが心底呆れた顔で見下ろしていた。
「……全くこのお気楽共めが! それが百年ぶりにやっと生き別れの姉弟を見つけた相手にすることか!」
 更にカンカンとバールで軽く叩くアヴドーチカと、拗ねてしまったかりんを宥めるアンネ・アンネ 三号と、賑やかな再会になった夏祭りの1日はこうして過ぎて行った。


 ◇   ◇   ◇


「みつくん人形は……アンネ・アンネ 三号に上げるけど、もうレニちゃんに、人形は……あげません」
 再会した3人の姉と弟――喧嘩するほど仲が良いという地球の言葉はきっとパラミタにも当てはまるのだろう。ぎこちなかったかりんとアンネ・アンネ 三号が口げんか出来る程に打ち解けるのも、そう遠くないかもしれなかった。