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食い気? 色気? の夏祭り

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食い気? 色気? の夏祭り
食い気? 色気? の夏祭り 食い気? 色気? の夏祭り

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 食い気も色気もあなたとなら

「さあ、祭りだ!」

 賑わう夏祭りを前に高根沢 理子(たかねざわ・りこ)は突撃態勢に入った。彼女を連れて共に訪れた酒杜 陽一(さかもり・よういち)も出店が並ぶ一角を漂う祭り特有の食欲をそそる香ばしい匂いに次第にテンションが上がった。
「理子さん、取り敢えず食べたい物食べようか。せっかく来たんだからこういう機会に食べれる物食べておかないとな」
「勿論だよ、陽一とお祭りなんて何時以来だろ……あ、まずは定番のかき氷にしようよ。それに隣には焼きとうもろこしがある!」
 はしゃぐ理子に付いていく陽一も食べたい物に付き合った――が、後に胃袋の強さでは理子に負けるかもしれないと、多少の危機感を持つ新たな発見があったのでした。

「はい、陽一」
 かき氷、焼きとうもろこし、ホットドック、アイスクリームと続いた理子はラムネ瓶を1つ陽一に差し出した。
「へえ……昔懐かしの瓶ラムネか、これがあると祭りって感じがするぜ」
「うん、あの子が売ってたんだよ。どこかで会った気はするんだけど……」
 首を傾げる理子に、陽一もラムネ瓶を売る少女に視線を向けた。麦わら帽子を目深に被り、顔はわからないが他にラムネ瓶を買い求める客に応対する声は確かに聞き覚えがあった。
「うん、似たような容器だからかき氷のシロップも売ってますよ♪」
 瓶ラムネと一緒にシロップも売り込んでいたのは騎沙良 詩穂(きさら・しほ)であった。しかし、そうと解らない陽一はかき氷のシロップを見せてもらおうと近付いた。
「済みません、かき氷のシロップってどんなのが……? あれ? 君もしかして」
「詩穂……あ、違っ、わ、私は『瓶ラムネの少女』という者です、それ以外のお名前ではお返事しないもん」
「…………」
 陽一はじーっと『瓶ラムネの少女』の顔を覗き込もうとしてみたものの、意地悪はしないでおくかと苦笑を浮かべた。
「じゃ、改めてシロップも買おうと思うんだけど、どんなのがあるんだ?」
 えーっと……と、シロップの瓶が詰まった氷水から取り出した。
「ラムネ味のシロップです、シロップも氷水でキンキンに冷えていますから暑さを乗り切れること間違いなしです!」
 自宅用にシロップを1つ買った陽一は、詩穂へ「売り子頑張れよ」とひと声かけて理子の元へ戻った。陽一を待つ間に理子はみたらし団子とわたあめを両手に持ってそれぞれ食べている所だった。
「……理子さん、流石に腹を壊すんじゃないか?」
「でも美味しくて止まらないんだよね。あ、陽一の分もあるから心配しなくても大丈夫よ」
 理子が食べたり見たり色々回りたいと考えて、陽一はそれに付き合うつもりであったが――

 俺は理子さんの胃袋が心配だ――と、涙目になりかけた陽一だった。


 ◇   ◇   ◇


 胃袋が満たされた後、陽一と理子は広場に設けられたお化け屋敷や射的といった遊び場を巡っていた。
「お化け屋敷は人気みたいだね、あたし達も後で入ってみようよ」
「そうだな、今は混んでるみたいだし……金魚すくいからやってみようか」
 手近な金魚すくいの出店で、早速器とポイを手にした理子は出目金を追いかけつつ器の中に追い込むようにポイで素早く掬い上げ――!
「あ! ダメかぁ……陽一、お願いして……いい?」
 見上げるように甘えモードを発した理子に、陽一も断る理由はなかった。果敢にも器とポイを手に理子が狙った出目金を追いかけて、再度挑戦――!

「……あの金魚すくいのポイ、絶対何か細工してるんじゃないだろうか」
「ま、まあ出目金はダメだったけど、綺麗な金魚取れたし……陽一、ありがとう」
 小ぶりな金魚がビニール袋の中ですいすいと元気に泳ぐ姿に、理子も笑顔を見せる。そんな理子を見ながら陽一も自然と笑顔を見せながら、射的の景品に簪を見つけた陽一は足を止めた。
「陽一?」
「理子さん、もう1つプレゼントを贈るぜ」

 射的台の上で銃を構えた陽一は、真っ直ぐに簪に狙いを定めた。
(陽一、頑張って……!)
 集中力の邪魔をしないように理子は心の中で応援すると、引き金を引く指先に力を込めた陽一は簪を狙い、一発で射落とした。
「なんだなんだ、兄ちゃんすげぇなぁ。銃の扱いに慣れてんだろ」
「まあな、何ならもう1回挑戦してもいいんだぜ」
 勘弁しろ、と苦笑いするお店のオジサンから箱入りの簪を受け取ると近くのベンチで一度休憩に2人で座った。
「理子さん、ちょっと向こうを向いててくれないか?」
「え、……こっち?」
 そうそう、と陽一は射的でゲットした簪を結った髪にそっと挿した。夏の花である藤花で飾られた薄紫の綺麗な簪――。
「……似合うよ、理子さん。綺麗だ」
「あ、ありがとう陽一……どうしよ、すごく嬉しい」
 少しだけ、2人きりの世界になるも陽一と理子は次々と輪投げにお化け屋敷にと遊び倒していくでした。


 ◇   ◇   ◇


 すっかり陽が落ちて、祭り会場に設けられた花火鑑賞から離れた場所に陽一と理子は2人並んで座っていた。他の見物客から離れた場所にあるここは2人きりで見られる穴場らしい。事前に見つけておいた陽一が、理子を誘ったのだ。
「せっかくの花火だから、2人きりで見たかった」
 理子の肩を抱き寄せ、気持ちの良い夜風が吹く中で花火の打ち上げが始まった。

 ドーーーーーーーン……!

 ドーーーーーーーン……!

 打ち上がっては大輪の花を咲かせ、潔く散っていく花火を陽一と理子は暫く黙って見上げていた。陽一の背中へ手を回していた理子が不意にギュッと陽一の服を掴む。
「理子さん……?」
「ねえ、陽一……何だか、花火って少し切ない気持ちになるね」
 人の一生も、幾つもの世界や世界を呑み込んできた時の流れの中では一瞬で咲き散る花火のようなものかもしれない。

 花火から視線を外さずにいる理子の横顔を見つめる陽一は、彼女の言葉からそう感じた。
「花火は……一瞬で咲き散るけれど、俺はそんな限りある命を理子さんと一緒に咲かせていきたい。そう願ってるんだ」
 陽一も上がる花火を見上げながら理子を抱き寄せる腕に力を込めた。
「……うん、陽一となら一緒に咲かせる事が出来ると思う。いや、あたしもそう願ってる」

 限りある命――

 いつか散ったとしても、それが子供たちという次の花に繋がっていく筈だから――

 それを知る2人だから一瞬の命を思い切り咲かせる花火に心を寄せ、祭りの終わりを告げる最後の花火が上がるまで、見届けたのでした。