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食い気? 色気? の夏祭り

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食い気? 色気? の夏祭り
食い気? 色気? の夏祭り 食い気? 色気? の夏祭り

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新婚最初のデート

 世界一周の新婚旅行から戻った後、互いに仕事が忙しくてやっと2人の休みを合わせての夏祭りにルカルカ・ルー(るかるか・るー)は浴衣を前に浮かれずにはいられなかった。
「お揃いの浴衣も用意したし、夏祭りデートで一緒に行けるんだよね。新婚初めてのデート♪ 楽しんでこよう!」


 一方――


 ルカルカへ迎えに行くメールを送った鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)は、用意された揃いの浴衣を既に着付けていた。
「こんな感じでしょうか……揃いのは少々照れるが、ルカルカが嬉しいなら俺はそれでいい」
 涼しげな浴衣に身を包んだ2人は、イルミンスールにある夏祭り会場となっている村へ足を運んだ。


 ◇   ◇   ◇


 出店が並ぶ通路は人でごった返し、自然と真一郎とルカルカは密着して歩く事になった。はぐれないようにどちらかともなく手を繋ぐが、甘い雰囲気という祭りには程遠い。
「し……真一郎さん、食べ物は後にしよう……!」
「そうした方が良さそうですね。ルカルカ、こちらへ」
 真一郎が上手く出店の間を擦り抜けるようにルカルカの手を引いて人混みから抜け出す事が出来た。
「ふう……! でも、後にしちゃうと売り切れちゃうかな……ヤキソバとかき氷」
「今は昼時だからかと……先にお化け屋敷で遊ぶ事にしますか? あちらは逆に空いているようだから」
 お化け屋敷を始め、金魚すくいや射的等の遊び場を催している広場は人出が少なく、それ程混雑は見られなかった。ほぼ待たずにお化け屋敷には入場出来そうな事から2人も並ぶ。

「……悲鳴、すごいね」
「……あ、ああ」
 中から聞こえる「キャー!」「うわあああっ!」「もう帰るー!」という声が届くが、夏祭りのお化け屋敷――そんなに怖いわけが!


「ひゃっ! し、真一郎さん……!」
 中は意外と広く、2人並んでも余裕で通れる通路だが当然灯りはない。互いに手探りで壁を伝ってみるが、濡れた人の顔らしき感触にルカルカが悲鳴を上げて手を引っ込め、真一郎にしがみついた。
「……大丈夫です、ルカルカ」
 一見落ち着いている真一郎ではあったが、暗闇でルカルカの目に入らなかっただけで実は拳を突き出しかけていた。その後も上から降ってくるスライムっぽい物体に驚き、通路を横切るろくろ首に足止めを食らい、漸く出口らしい場所が見えてくるものの、2人は軍人らしく油断しないよう慎重に足を進める。
(最後にワーッと来るのが定番だよね、でもここまでチャンスがなかったんだよね……うーん……)
 ルカルカがぎゅっと真一郎の腕を組むと、それに応えるように身を寄せる真一郎の頬へチュッとキスをすると悪戯っぽく笑った。未だお化け屋敷の中は暗く、真一郎の表情は窺い知る事は出来なかったが彼もまた優しい表情を見せていた。

 余談ではあるが、無事にお化け屋敷を最後まで歩き通した2人が出口付近でのルカルカの不意打ちキスに出鼻を挫かれてしまった幽霊役が居た。


「お化け屋敷……叫び過ぎてお腹が空いたね、真一郎さん……」
「そうですね……出店の方へ行ってみましょう。そろそろ落ち着いている頃だといいのですが」
 手を繋いで出店へ向かうと漸く客足が落ち着いており、まともに通路を歩ける状態になっていた。
「真一郎さん、ヤキソバの屋台ですよ。一緒に食べましょう」
 屋台を指差して嬉しそうに買いに走るルカルカを見守るように真一郎が後に続いた。そこかしこに設けられた簡易ベンチに2人で座り、ヤキソバを食べる。
「ふう、やっとひと心地ついたね……あ! カキ氷の屋台もある!」
「ルカルカ、ヤキソバを食べたばかりだが……平気ですか?」
「ふふふ、ルカの胃袋は鋼鉄なのだっ! お兄さんミゾレカキ氷1杯くださーい!」
 取りあえず、1杯目は真一郎も目をつぶったものの2杯目に手を出そうとするルカルカを真一郎は流石に止めてしまうのだった。


 ◇   ◇   ◇


 夕暮れが祭り会場を照らし始め、売り切れの出店が店じまいをする所も増えてくると花火の案内が放送された。
「もうすぐ始まるみたいだよ、真一郎さん。とっておきの場所にそろそろ行こうか?」
「そうですね……向かうとしましょう。先に見つけておいたが、他に先客がなければいいですが……」
 大丈夫大丈夫! と花火会場に設けられた場所から離れた所へ向かっていった。

 気持ちの良い夜風が吹く小高い丘の上には誰もおらず、真一郎とルカルカは既に上がっている花火が真正面に見える場所に腰を下ろした。
「わあ……っ、綺麗」
「……ルカルカの方が、綺麗です」
 不意に聞こえた真一郎の声に、ルカルカの顔も一気に上気してしまう。そんなことない、とでも言うように首を横に振るルカルカを真一郎は抱き寄せた。


「相変わらず、ルカルカは忙しいですね」
「ん……でも毎日メールしてるからルカは平気だよ、ホントはずっと一緒に居たいけど、その分こうして会えた時は目一杯甘えさせてくれるもの……」
 次々と夜空を彩る花火がそんな2人を照らした。
「今は国が……ていうか、大陸そのものが大変な時期だから、真一郎さんと一緒にこの大陸の皆の未来を守って生きたいなって思うの……」
「ええ……それは、俺も同じです」

 不意に抱き寄せる力が真一郎の腕に籠もると、顔を上げたルカルカと見つめあう真一郎――

「愛しています」

 ゆっくり2人の距離が近付くと、花火をバックに唇を重ね合った。
 
 花火の音が遠ざかるような感覚の中、2人だけの世界が丘の上を包んでいくのでした。