リアクション
【十二 戦い終わって】
優勝者インタビューの最中、ろざりぃぬの口から電撃発表が行われた。
曰く、このS−1クライマックス出場を最後に、現役を引退する、というのである。
この発表を耳にした時、ルカルカはようやく、ろざりぃぬが口にした『次はもう、無いかも知れない』という言葉の意味を、理解した。
結局勝ち逃げという形になってしまう訳だが、しかしルカルカは、それもまたひとの人生だと自らを納得させていた。
最後にリング上に全選手、スタッフが集合し、記念撮影が行われた。
中央には勿論、優勝トロフィーを掲げ、S−1王者のベルトを腰に巻いたろざりぃぬが立つ。
会場はこの後もしばらく、興奮冷めやらぬ雰囲気で大歓声が続いていた。
試合に出場した全選手が観客席内をそれぞれ練り歩き、観戦してくれた全ての観客に感謝の挨拶を述べたり、或いはサインに応じるなどして、多くのふれあいの時間を持つことにしたからだ。
ラウンドガールとして毎試合の間に観客の目を楽しませた美緒、フィリシア、ルーシェリア、悠里といった面々も、客席では引っ張りだこであった。
一緒に記念撮影をという声が非常に多く、選手と一緒になって撮影に応じる姿もそこかしこで見られた。
「やれやれ……優勝は叶わなかったが、興業としては、大成功だった」
ヴァンダレイが若干、不完全燃焼気味ではあるものの、運営スタッフとして無事に大会が終了したことを素直に喜んでいると、不意に背後から、声を張り上げてくる者があった。
「ヒャッハーッ! そんなに戦い足りねぇんなら、俺様が相手になってやるぜぇッ!」
炎魔人魔異都――今はもうマスクを脱ぎ捨てているから、マイトと呼ぶべきか。
するとその横から、コアがのっそりと首を突っ込んできた。
「何だ、ひとりだけ抜け駆けか? 私もまだまだ、全力を出し切れておらんのだ。ショウコ、もし良かったら我らのスパーリングの面倒も見て貰えないだろうか?」
コアは、ヴァンダレイの傍らで腕を組み、和やかな雰囲気に包まれている会場全体を見渡していた正子に呼びかけてみた。
すると正子は、やれやれと苦笑を浮かべつつ頭を掻いた。
「ヴァンダレイよ、うぬの意思を聞こう」
「知れたこと……相手に取って、不足は無い」
かくしてこの後、ヴァンダレイvsマイトvsコアの三つ巴スパーリングという、ちょっとしたエキシビジョンが披露される運びとなった。
これに気付いたローザマリアと涼介が慌てて周囲の観客に呼びかけ、一緒に楽しもうという空気が広がっていったのだが、その顛末は、ここでは記さないこととする。
* * *
魔女っ子ヒート・ろざりぃぬのキャラクターを脱ぎ捨てて、本来の姿に戻ったジェライザ・ローズは、佐那やフィリシアといった面々と談笑していたのだが、そこへ、妙な顔つきで歩いてくる淵の姿に気付いた。
「どうか、したのかな?」
「いやぁ……さっき、ちらっと見覚えのある顔を見つけたから、挨拶しようと思ったんだがなぁ」
ところが淵は、その人物に近づいたところで不意に自分の存在感が恐ろしく希薄になったような気がして、その瞬間の記憶が消し飛んでしまったのだという。
話を聞いていて、ジェライザ・ローズはまさか、と小さく唸った。
「その人物って、まさか……」
「うむ。多分、あの御仁だろう」
どうやら、行殺の悪魔の異名を持つラインキルド・フォン・リニエトゥテンシィがこの会場に居たらしい。
ところがその存在に、誰ひとりとして気付いていなかったのだという。
辛うじて淵が顔を見かけたことで、かの人物が会場を訪れていたことが認識出来た程度だった。
後で知ったことだが、夏のS−1クライマックスのスポンサーに、何故かラインキルドの名が連なっていたのだという。
下手に関われば自分の存在感が掻き消されていたかも知れず、ある意味、夏の怪談よりも怖い話であった。
『夏のS−1クライマックス』 了
当シナリオ担当の革酎です。
恐らく蒼フロではこれで最後になるであろう、プロレスシナリオのリアクションをお届け致します。
ただただ、皆様のプロレスLOVEな熱い魂に圧倒されるばかりでして、御期待に添えられる内容になっているのか甚だ不安ではございますが、取り敢えずは何とか、書き切ってみました。
今後、蒼フロでの執筆予定は何も確定しておりませんが、もしまたお目にかかることが御座いましたら、その時はどうぞ宜しくお願いします。
それでは皆様、ごきげんよう。