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“蛍”シリーズ【第七話】、【第八話】、【第九話】、【第十話】

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“蛍”シリーズ【第七話】、【第八話】、【第九話】、【第十話】

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 同時刻 空京大学付近

『助けてもらった恩は忘れてねえ! けど、それとこれとは話が別だぜ!』
 垂の駆る禽竜は、豪雨のように襲い来る機銃弾とミサイルを振り切り続けていた。
『上等ッ! ソレぐれえの方が撃ち墜とし甲斐があるってモンだろうがッ!』
 絶え間なく発射される機銃弾とミサイル。
 その張本人であるところの“ヴルカーン”bisはいつにも増して激しい砲撃を続けている。
 
 洪水のように襲い来る砲撃を紙一重で避け、振り切りながら垂は確信する。
 この戦場に立った時から、法二は理解しているのだ。
 もはや弾薬を出し惜しみする必要はない。
 そしてもう、撤退時のことを考える必要もないと。
 だからこそ垂はこの相手と正面から相対し、真っ向から戦うことを決めたのだ。
 
 あらゆる機銃弾を避け。
 あらゆるミサイルを撃ち墜とし、あるいは叩き落とし。
 禽竜の圧倒的な機動力をもって、“ヴルカーン”bisの圧倒的な火力に打ち勝つ。
 ――それが垂の選んだ戦い方だった。
 
 “ヴルカーン”bisの弾薬切れが先か。
 それとも、垂の身体が加速に耐えきれなくなるのが先か。
 
 “ヴルカーン”bisの左腕にあるクローはさっき破壊した。
 ゆえに残りの武器は残弾数のあるものだけだ。
 
 激しい砲撃と空中機動の末。
 漆黒の機体の胸部に搭載されたガトリングガンが渇いた音を立てて空転する。
 それに続き、肩部、腰部、そして脚部に取り付けられたハッチが音を立てて開く。
 だが、ハッチの開閉音に後に続く噴射音はない。
 そして最後に、右手に握った150mmライフルのマガジンが落とされる。
 
『……どうやら弾切れ。まさに打ち止めならぬ撃ち止めってやつだな』
 通信機越しにフッと笑った声を出し、垂もまた力尽きた。
 ゆっくりと地面へと降りた禽竜はそのまま燃え尽きたように動かなくなる。
 
 “ヴルカーン”bisは首を巡らせ、カメラアイで禽竜をじっと見つめた後、彼方へとピントを合わせる。
『いるんだろ? テメェとの決着もここでつけてやらァな』
『ありがと。あなたやっぱり、とっても律義な男みたいね』
 
 法二が彼方へと通信を送った相手――ローザはすました声で答える。
『ほとんど豆粒にしか見えないけどね。何かパーツをパージしたでしょう? 大方、マガジンかしら?』
『御名答。随分と目ざといじゃねェか? えェ?』
『ありがととでも言っておくわ。で、単刀直入に聞くわね。チェインバー内に残ってるのは一発ってところかしら?』
『またまた御名答だ。ったく、ツクヅク目ざとい女だぜ。テメェはよォ』
『それもありがととでも言っておくわ。マガジンを抜いても装填済みの一発はチェインバー内に残る。軍人として常識よ』
『おうよ。そンで、テメェは今どこにいる?』
『3200ヤード強……およそ3kmの彼方といったところかしら。ライフルの有効射程と比して実に十倍の距離。狙撃の世界記録と比しても実に500m以上多いところ――スナイパーとしての私の極大射程よ』
『ハッ! 上等じゃねェか! ンなモン、オレなら一発で十分だ』
 
 互いの微笑が通信機を震わせる。
 直後、彼方より飛来した巨大な光条が“ヴルカーン”bisの半身を吹き飛ばす。
 そして、遥か彼方で、150mm弾の直撃を受けた戦艦が撃沈したのが確認されたのも、まったくの同時だった。