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“蛍”シリーズ【第七話】、【第八話】、【第九話】、【第十話】

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“蛍”シリーズ【第七話】、【第八話】、【第九話】、【第十話】

リアクション

 紅生軍事公司 香港支社 イコン整備施設
 
 修理の完了したHMS セント・アンドリューに座乗し、ホレーショ・ネルソン(ほれーしょ・ねるそん)は防衛任務についていた。
 仲間の一人であるグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)と連絡を取り合うホレーショ。
 
 歴戦の艦長である彼だからこそ冷静を保っていられるものの、戦況は圧倒的に不利だった。
 
『ねぇねぇ。ジュンリューっていう機体を壊しちゃえばボク達の勝ちなんでょ? でしょ?』
 
 先程、いきなり無線を入れてきて、ドライと名乗った少年。
 それが今、彼と相対している金色の“カノーネ”のパイロットだ。
 
『その通り。よく心得ているな、少年。戦闘において勝利条件を常に明確にし、それを見失わないことは大切なことだ』
 
 英国紳士の余裕で返すホレーショ。
 それに対し、ドライははしゃいだように言う。
 
『おじさん、良い人だねぇ。だから、痛みを感じる間もなく消し炭にしてあげるよ!』
 
 彼の言葉を合図に、金色の“カノーネ”と、それが率いる銀色の“カノーネ”が大量のミサイルを放つ。
 既にセント・アンドリューは満身創痍。
 
 ホレーショが静かに目を閉じようとした時だ。
 突如として接近を知らせるビープ音が鳴り響く。
 猛スピードで地上を走る何かが、こちらに近づいてくるのだ。
 
 その何かは香港の市街地を縫うようにして巧みな走りを見せる。
 そして、セント・アンドリューの前に割り込むと、ミサイルの雨と相対した。
 
『その機体は!』
 
 割り込んできたのは、背部に加速用のブースターを、そしてそれ以外の全身に大量の重火器を増設された漆黒の機体。
 その機体はすべての砲門を開くと、一斉に発射する。
 
 向かってくるのがミサイルの雨なら、迎え撃つこれはさながらミサイルの雨。
 すべてのミサイルは撃ち落とされ、セント・アンドリューは事なきを得る。
『礼ならローザに言いなァ! アナコンダん時のお返しだって伝えとけ!』
『既に改修は済んでいたようだな。ミスタ=アサマ、ミズ=ミツイ』
『おうよ。コイツがオレらの新しい“カノーネ”――シュバルツ・“カノーネ・アングリフ”ってんだ。覚えときなァ!』
 
 だが、それも束の間。
 新たな警報が鳴り響く。
 
『かっこつけちゃって! ばっかじゃないの、この勝負……ボク達の勝ちだ!』
 
 ミサイルの嵐を間一髪で切り抜けた金色の機体は、予め用意しておいた伏兵とともに反対側へと回っていた。
 そして、香港支社の敷地内へと狙いを定める。
 
 一斉に砲撃する金色と銀色の機体。
 それにより、敷地内にあったイコン整備用のドックはすべて破壊され、更地と化した。
 
『あははは! これでもうジュンリューは壊れちゃったね。だいたい生意気なんだよ、マイスター・スミスによって、その為に生み出されたボクを差し置いて砲戦機を扱おうなんて! ジュンリューだの、なんとか“アングリフ”だの全部ひっくるめて、システムから何までボクが一番さ!』
 
 高笑いするドライに向け、ホレーシュは静かに言う。
 
『少年。君は三つ勘違いしている』
『え?』
『一つ、まだ勝敗は決していない。一つ、盾竜は壊れてなどいない。そして、最後の一つ――』
『何言ってんだよ、おじさん。残ってるのはもう、戦艦整備用のドックだけだよ。イコンが入ってるドックなんてもうどこにもないよ。さ、残ったドックもおじさんも、みーんなまとめて消し炭にしてあげるね』
 
 ホレーショの言葉を遮るように言うドライ。
 そして金色と銀色の機体は一斉にミサイルを放つ。
 だが、今度はそれらを遮るように轟音が鳴り響いた。
 
 重厚な開閉音を響き渡らせながら、戦艦整備用ドックのハッチが開く。
 それと同時に、再び轟音が鳴り響いた。
 
 開いたドックのハッチから発射された大量のミサイル。
 それがすべてのミサイルを迎撃したのだ。
 
『――イージスシステムの扱いに関しては我々NAVYの方がプロフェッショナルだ』
 
 直後、銀色の機体の一つが爆散する。
 咄嗟に敵襲へと応じた銀色の機体はミサイルを一成発射する。
 
 だがそのミサイルも、大量にミサイルによって、一発も漏らすことなく迎撃される。
『あわわ……嘘だ。認めない。それが……そんなイコンがあるなんて……!』
『少年、人の話は最後まで聞きたまえよ。特に先人や年長者のものはな。そして、覚えておくといい。先人曰く、事実は小説より奇なり』
 
 ドックから飛び出した機体……否、艦体。
 それこそが改修を終えた盾竜の姿だった。
 
 迅竜ほどではないにしろ、紛うことなき飛空戦艦。
 そのコアユニットとして組み込まれた盾竜。
 
 飛空戦艦のパーツを流用した装備と、コアユニットとなるイコンの二つからなる規格外のイコン。
 これこそが盾竜改め、艦竜。
 
 搭載された火器の量は倍以上。
 そして艦竜は、四門に増設されたオート・メラーラ127mm二連装磁軌を一直線に繋げる。
 
『パーティの時間だ。女王陛下は宴の席に着いた』
 ホレーショの合図に応じるのは、艦竜のパイロットとしてメインシートに座るローザ。
 そしてその相棒たるフィーグムンド・フォルネウス(ふぃーぐむんど・ふぉるねうす)
 
 彼女達の操縦に応じ、艦竜はオート・メラーラ127mm二連装磁軌に大電流を送る。
 それに応じ、“カノーネ・アングリフ”が砲撃を開始し、銀色の機体を一直線に並ぶように誘導する。
 並行して漆黒の機体は新たに用意されたメインアームを構えた。
 身体中の火器が究極の連射力を手に入れたおかげで、一発必中の役割に徹することができた武装。
 ――200mmボルトアクション・カノンを構える。
 
 そしてトリガーは引かれた。
 艦竜と“カノーネ・アングリフ”。
 二つの大口径火器が放った砲弾は、銀色の機体を幾つも貫通してもなお勢いは衰えないまま、彼方へと飛んでいった。