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“蛍”シリーズ【第七話】、【第八話】、【第九話】、【第十話】

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“蛍”シリーズ【第七話】、【第八話】、【第九話】、【第十話】

リアクション

 同時刻 迅竜 ブリッジ
「已むを得ないわ……総員、退艦準備。すぐに脱出して」
 艦長席でルカルカが告げる。
 既に迅竜は不時着状態。
 ハッチを開け、そのまま外に出ることができる。
 
 だが、ルースの言葉はそれとは裏腹だった。
「無理です……! 不時着した時に艦体が半分埋まったような状態になってたらしい! このままじゃハッチが開きませんよ!」
「なんとかならないの!」
「なんとかするにしても、少しばかり時間が必要です!」
「……このままじゃ……。……どうすれば……」
 ルカルカが言葉に詰まると、接近警報が鳴り響く。
「……っ!」
 地上に接したブリッジの窓。
 そこに向かって金色の“シルト”が突撃してきたのだ。
 思わずルカルカが目を閉じかけた瞬間、横合いから飛びこんだ機体が金色の機体を押さえ込む。
「真一郎さんっ!」
 
 ブリッジを救ったのは、唯一無事に残った竜系列の戦力として迅竜に搭載されていた鎧竜だ。
「俺が時間を稼ぐ。その間に艦長……ルカ達は脱出してくれ」
「で、でも……もう鎧竜の稼働時間は……」
「構わん。クルーさえ無事なら、なんとかなる」
「で、でも……」
「愛する者を守りたい。その理由ではだめか?」
「……」
「感謝する、艦長。ルカルカ、愛している……ずっと」
 
 最後の言葉を交わすルカルカと真一郎。
 その間にも、鎧竜は金色の機体が繰り出す打撃を受け続ける。

『可奈、お前だけでも脱出してくれ』
『それがね。私達より先に脱出装置が暑さにやられちゃったみたい』
『……すまない』
『いいよ。だって私、真一郎くんのパートナーだし』
『……』
『鎧竜の耐久力ももうないね……さよなら、鎧竜』
 
 機体温度は危険域まで上昇。加えて度重なるダメージで満身創痍。
 もはや鎧竜は立っているのが不思議なくらいだ。
 だが敵は、それでもなお鎧竜に攻撃を加え続けた。
 
『……鎧竜、感謝する。せめて最後まで共に戦おう』
『……だね。最後までよろしく、鎧竜』
 
 パイロット二人がそう告げた直後。
 金色の拳を受けた鎧竜の装甲に、遂に罅割れが走る。
 その罅割れは全身に広がっていき、遂には鎧竜の機体すべてを覆う。
 
 ここぞとばかりに敵は金色の拳を叩き付けた。
 そして、鎧竜の装甲は粉々に砕け散った。
 最初は打撃を受けた胸部。
 次いでその衝撃が伝染するようにして、全身の装甲が砕け散っていく。
 
「真一郎さぁん!」
 もはや立場も忘れ、涙を流しながら声を上げるルカルカ。
 彼女は泣き崩れかけたまさにその時、信じられないものを見て唖然とする。
 落涙も慟哭も忘れ、ただその光景に見入るルカルカ。
 
 彼女の視線の先では、新たな装甲に身を包む鎧竜が、紛れもなく二本の脚で自立していた。
 砕け散った装甲の下から現れたのは、新たな装甲。
 眩い輝きを放つその装甲のおかげで、あたかも鎧竜は輝きの中に立っているようだ。
 
 鎧竜は今までの満身創痍が嘘のように力強く立つと、平然と胸板で金色の拳を受け止める。
 信じられないことに、金色の拳の方が鈍い音を立てて欠けたのだ。
 
 直後、右拳を繰り出す鎧竜。
 その拳は、金色の機体をいとも簡単に殴り飛ばした。
 
 一連の状況を見ていたルカルカは、イーリャのとある言葉を思い出した。
 
 ――高熱に晒しながら、とてつもなく強い力で鍛え上げる。
 
 図らずも鎧竜は、リブラリウムを超えるリブラリウムを得る為の鍛造条件を満たしていたのだ。
 
 見れば砕け散ったのは表面。
 それも薄い膜のような状態だ。
 装甲に問題はないらしい。
 
「真一郎さん!」
『心配かけたな。もう、大丈夫だ』
 
 とはいえ鎧竜は稼働時間も限界に近い。
 ちょうどその時、タイミング良く享から通信が入る。
 
『待たせた。ここは任せてもらおう』
 救援に現れたのは漆黒の“シルト”。
 もといそれを改修した、シュバルツ・グリューヴルムヒェン・“シルト・ヴァヴァンドルン”。
 
 装甲をパージし、漆黒の“シルト”は早速真の姿を現す。
 スリムな機体の首にはマフラーに見える布状のパーツが見て取れる。
 
 放熱索にも見えるそれは、安定翼の役割を果たすパーツだ。
 機体の各部に小型かつ強力な浮遊機晶石が組み込まれたことで規格外のライトウェイトを実現したこの機体にとって、安定翼は不可欠のパーツ。

 漆黒の機体は凄まじい速度で敵へと走り寄る。
 陸上を走るのは勿論、なんとこの機体はその超軽量を活かし、爆風に乗ったのだ。
 そのまま漆黒の機体は、安定翼をフル活用して『空を走る』。
 
 一気に敵の懐へと肉迫した漆黒の機体は、銀色の機体を攻撃していく。
 思わぬ展開で地上部隊は抑えられた。
 
 だが、それでも空中部隊が残っている。
 その時、ブリッジのレーダーが接近する機影を知らせる。
 
「この機体は……?」
「ダリル、どうしたの?」
「とんでもない速度でこっちに近付いてくる機体が二機。だが、こんな速度はあり得ない……レーダーの故障――」
「いいえ。あり得るわ。あの二機なら――」
 
 その言葉に応えるように、二機が現れる。
 一機は鳳凰、もう一機は“フリューゲル・ラーベ”だ。
 
『待たせたな、艦長! いっちょこいつらを片付けるぜ、ぅおらああああああ!』
 垂の気合とともに加速する凰竜。
 禽竜を遥かに超える加速性能。
 本来ならばパイロットは到底耐えられない。
 だが、“フリューゲル”由来のイナーシャルキャンセラーが組み込まれたことで、なんとか耐えられるだけの状態にはなっていた。
 
『速いっ!?』
 驚愕の声を上げるアイン。
 彼と彼の僚機を翻弄しながら、鳳竜は更に加速していく。
 
『いくぜ――』
 垂はコクピットに取り付けられた誤動作防止用の透明カバーの下にある赤いスイッチに目を向けた。
 そして、カバーを叩き壊してスイッチを押し込む。
 
 すると鳳竜のターボファンエンジンにとある物質が流れ込む。
 ニトロの数倍の燃焼力と爆発力、そして加速力を持つ液体――火竜の体液を受けたエンジンは一気に出力を上げる。
 それに伴って機体は加速。
 それだけではない。
 エンジンから豪炎を噴出したまま、機体は飛び続けているのだ。
 
 噴射される炎は火竜の体液によって生み出される超高熱の炎。
 あたかも炎の翼を広げたかのような姿で飛ぶ凰竜は、すれ違いざまに銀色の機体を次々と溶断していく。
 
『う、うわあああ!』
 恐慌状態へと陥ったアイン。
 彼の乗る機体は咄嗟にプラズマライフルを乱射し、その一発が迅竜へと迫る。
 
 だが、まるで瞬間移動するように現れた漆黒の“フリューゲル”。
 それが広げた漆黒の翼によって、光条は湾曲してまるで見当違いの方向へと飛んでいく。
 
 これがこの機体の新たな力。
 得られたイナーシャルキャンセラー技術を、イーリャが独自の解釈によって改良したものだ。
 慣性制御の進化系ともいうべきこの装置が、大型化した飛行ユニットの翼に取り付けられたことで、漆黒の機体は更なる機動力を獲得した。
 その結果、慣性制御の影響で重力が偏向し、それに伴って光の屈折が起きることで漆黒の翼が生えたように見えるのだ。
 この姿はまさにラーベ(ワタリガラス)の名に相応しい。
 
 彼等の雄姿に触発され、奮起した者がいる。
 アマテラスに搭乗する和麻だ。
 
 彼は機体を駆り、銀色の機体へと肉迫する。
『俺は……俺達はまだ負けたわけじゃない』
 必死に食い下がる彼に向け、真一郎と航から声が飛ぶ。
 
『そうだ。たとえ継人類でなくとも、たとえ新型機でなくとも、君は生き残ってこられた。だから、自信を持て!』
『ああ。お前は何度も俺に喰い下がってきた。その強さを見せてやれ!』
 
 その言葉に後押しされるようにアマテラスは光刃を振り抜く。
 その刃は銀色の機体の刃を払い、胴をあらわにさせる。
 
『俺だって……迅竜機甲師団のパイロットだ!』
 裂帛の気合とともに光刃を振り抜くアマテラス。
 そして光刃は銀色の機体を一刀両断する。
 遂に和麻は、自らの努力によって掴み取った力で大金星を挙げたのだ。
 
 更に、突如として空の彼方から飛来した何かによって、またも銀色の機体が撃墜される。
 
『あなたは……!』
 
 驚愕の声を上げるルカルカ。
 それも無理もない。

『生きていたんですか! 良かった!』
『ごにゃ〜ぽ! あの程度で死ぬはずなんてないんだよ!』
 撃墜され、戦死したと思われていた裁。
 その裁が無事な姿で救援にかけつけたのだ。
 
 味方が撃墜され、自分達が押されているのが明らかにわかる数々の光景を前に圧倒的不利を悟ったアイン。
 ならびに金色の“シルト”のパイロット――フィーアは一目散に撤退していった。