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夏最後の一日

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夏最後の一日

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 昼、空京。

「今日は誘ってくれてありがとう。おかげで格安で色々買えたわ」
 ベルネッサ・ローザフレック(べるねっさ・ろーざふれっく)はきゃらきゃらと楽しそうに誘ってくれた三人に声をかけた。
「でしょう、そう思って誘ったのよ。まぁ、ショッピングはついでなんだけどね」
 ディミーア・ネフィリム(でぃみーあ・ねふぃりむ)はベルネッサの楽しそうな様子に満足しつつもそれが目的ではない様子。
「武器とか防具とか銃弾とか……特に武器がベルネッサと同型だったからまとめ買いの方がお得だからね。それに今日は荷物持ちがいる事だし。ね?」
 セラフ・ネフィリム(せらふ・ねふぃりむ)はそう言うなり自分達の後ろを歩く人物に振り返った。
「……ねって、可愛らしく言っても随分重たいんですけど(買い物って言ったら普通は服とかだろうに武器って可愛げも何もないない……というかこれを平気で持てているというと僕も随分と力がついたんだな……)」
 三人娘の専属荷物持ち化している湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)は文句を言いつつも荷物持ち出来る事に驚いていた。何せ昔は頭でっかちのモヤシだったので。変わったのはベルネッサに会って随分鍛えられてきたからだ。
「ほらほら、まだ数軒回るんだから頑張ってちょうだいな。せっかく、ベルもいるんだから」
 セラフが悪戯な笑みを浮かべながら凶司をからかう。全ての荷物を凶司に持たせる気満々である。
「……はいはい(……というか荷物全部僕に持たせる気だな。今日一日三人の専属荷物持ちか)」
 凶司は即答。胸中では今日の自分の役割を察しつつも一目惚れしたベルネッサの前でだらしない姿は見せたくないと荷物を抱え直した。
「凶司もまだ大丈夫みたいだから、ベル、あっちの店に新型が出るって聞いたのよ。見てみない?」
 ディミーアが少し離れた店を指さしながら言うと
「それは気になるわね……凶司」
 乗り気であるが、大量の荷物を抱える荷物持ちの凶司に悪い気がして振り向いた。
 当然凶司の返事は
「これくらいの荷物僕にとっては大した事はありませんから」
 決まっている。この一択だ。想い寄せている女性のためなら尚更。
「それならお言葉に甘えるわね、凶司」
 ベルネッサはにこぉと笑って頼る事にした。
「それはもう」
 凶司は荷物持つ手に力が入った。
 三人娘は荷物持ちを連れ回し、あちこちの店で物騒な買い物をして回った。途中迷子の妹捜す者とやり取りもしたり。
 買い物に一段落付いたところで屋外のカフェで一息吐く事にした。

 屋外カフェ。

「ふぅ、結構買ったわね。格安って言葉って魔法の言葉よね。ついつい買いたくなるもの」
 ベルネッサは冷たい飲み物で喉を潤しながら買った物に視線を向けた。本日の買い物に大満足のようだ。
「だね。そう言えば、今日で夏が終わるのよね」
 ディミーアはうなずき、喉を潤すなり夏空を見上げた。
「本当、時間が経つのは早いわね」
 セラフもしみじみとしながら飲み物に口を付けた。
「……確かに(……昔の自分が今の自分を知ったら驚きだろうな。まさかこんな姿になっていると思っていないだろうし)」
 凶司は頷きながらこれまでの事を振り返っていた。
 ここで
「実はベルを誘ったのはショッピングをしたかったのもあるんだけど、進路について話したかったから」
 ディミーアが本日のメイン料理をこの場に出す。これからの話を切り出しやすいようにとショッピングとセットにしたのだ。
「進路?」
 買い物の事しか聞いていなかったベルネッサは思わず聞き返した。
「そうそう、色々考えてるんだけどね。ただの傭兵に戻ってもつまらないし……」
 セラフは進路話という真面目な話にしては軽い口調で言った。
「私たちも就職するつもりよ。いい年なんだし」
 ディミーアも言った。ただし台詞の“私たち”の前に“凶司が”がつくのだが。
「……つまり?」
 ベルネッサが先を促すと
「一芸生かしてみようかなってね」
 セラフは悪戯っぽい笑みを浮かべながら言った。
「色々やってみた結果、本格的に兵士や紛争地域の人に希望を与える『戦場のアイドル』を目指してみようかなと。最前線まで慰問コンサートや航空ショーを開きにいける芸人はそういないし、話題にもなると」
「もちろん、御触り本番は厳禁な清純派路線でいくからっ!」
 ディミーアとセラフはこれまでの経験から自分の進むべき道を見付けたのだ。
「それはいい事だと思うわよ。きっと見た人は希望を持つはずだわ」
 二人の立派な進路にベルネッサは手を叩いて賛成を示した。
「そう言ってくれると嬉しいなぁ」
 セラフは嬉しそうに笑い
「実はね、ここからが相談なんだけど……私たちと組んでみない?」
 ディミーアは先程の軽いものから真剣な表情に変え、訊ねた。
「私と?」
 予想外の事にベルネッサは思わず聞き返した。ただの進路報告だけかと思いきやまさか自分まで巻き込まれるとは。
「そうそう、これはディミーアと相談済みでね。是非、ベルと組みたいと思って、それもあって今日誘ったんだ。真面目な話だけじゃつまらないと思ってショッピングとセットにして」
 セラフはディミーアの顔を見てから言った。
「今なら荷物持ち参謀兼メカニックもついてくるわよ。どう?」
 ディミーアはそう言いながら凶司の方を見やった。
「ディミーアとセラフの話はとても素敵だと思うし共感も出来るから組んでもいいと思うけど……」
 ベルネッサの返答はイエスだったが、凶司も一緒に危険地域に連れ回す事を躊躇うようであった。色々冒険をして凶司がやわな男ではないと分かってはいても元々傭兵だった自分とは違うから。
 ここで
「ベル!」
 凶司はベルネッサの名を呼び
「凶司?」
 ベルネッサの言葉を中断させこちらに向かせた。凶司も分かっていた。ベルネッサが自分を連れ回すのを躊躇っていると。
「……」
 凶司は一度気持ちを落ち着けてからじっと自分を見つめる緑眼を真っ直ぐと見て
「僕がいくところは、あ、あ、貴方の隣でしゅっ……スイマセン」
 格好つけようとして噛みまくりで台無しに。
 だからといって諦めて話をここで終わりにするような事はせず
「でもついていく気は本気ですよ。ディミーアではないですが、傭兵に参謀や軍楽隊がいてもいいでしょ?」
 自分の思いを伝える。なぜなら卒業後の進路は凶司としては一目惚れをしたベルネッサについていく一択だから。
 言い終えた凶司は
「……」
 じっとこちらを見て自分の覚悟を見定めているようなベルネッサの目を見据えた。
 数秒後
「……凶司、期待してるわ」
 ベルネッサは表情を柔らかくしふっと笑った。
 それに対して凶司は
「……貴方の期待に応えられるよう頑張りましゅ……」
 これまた格好良く返答しようとするも緊張で噛んでしまいまたもや台無しに。
 しかし思いは伝わり
「えぇ」
 ベルネッサは笑いながら答えた。

 それを見守る二人、
「これでみんな揃って今までと同じにやってけるってことね」
「そうね。それが何においても一番大きいわね」
 ディミーアとセラフはどこか安堵していた。卒業して状況は変われどみんなとは一緒。それがとても嬉しくて幸せだった。
 この後、休憩を終えると再びショッピング再開となった。
「……(卒業してもみんなずっと一緒にいられるならやっぱりそれが一番だよな……)」
 凶司は荷物持ちとして三人娘の最後尾を歩きながら先のディミーア達と同じ幸せを感じていた。