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リアクション
最後の戦い
「はぁ……はぁ……」
無制限ステージ。そこで戦っている契約者と穂波は全員満身創痍だった。
「ん……やっぱり、直接使おうとすると衰退の力が消える」
そう言って首を傾げるのは双子の魔女の一人零夏。契約者たちに衰退の力を直接使い武具を消そうとしたが、何度やっても出来ない。
「傷つけようとはしてないんでしょ? モノ消すだけじゃ魔女の枷には引っかからないって話じゃなかったっけ?」
「そのはず……」
零夏の衰退の力が契約者たちに効かないのは芦原 郁乃(あはら・いくの)がゴブリンキングからもらったペンダントに衰退の力を防ぐ効果があるからだ。その効果を穂波が契約者全体へと拡散させているために零夏の力が直接影響を与えるという状況を防いでいた。
「……主……これは流石に……」
蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)は現状が限界だと判断する。衰退の力の直接の影響は防げても傭兵団たちを強化されることは止められない。無限に強化される傭兵団を相手にするだけでも一苦労なのに一度倒しても無限に回復されるのだ。これでは魔女を先に倒す以外に勝ち目はない。けれどその魔女は一番奥の安全な場所にいる。スナイプするにも繁栄の力の結界が邪魔をする。そして何より魔女たちには傭兵団の団長が護衛をしていた。
「確かに手詰まりかも……」
このままでは勝てない。それは郁乃も認める。けれどその目は欠片も諦めてない。
「ミナちゃんがくればきっと……」
レオーナ・ニムラヴス(れおーな・にむらゔす)もまた諦めていなかった。粛清の魔女ミナ。彼女の援護があれば戦況は大きく変わるだろう。
「この状況で前向きなのは素直に尊敬しますよ。レオーナ様」
クレア・ラントレット(くれあ・らんとれっと)はそう言う。
「うん、ミナがくれば絶対に勝てる」
レオーナに郁乃は同意する。
「あらあら、随分期待されてるみたいだけど……流石に私一人じゃ恵みの儀式に勝てないわよ?」
ミナはそう言って郁乃達の前に立つ。
「それでも……衰退の力が切れるまではあなた達に指一本触れさせないから休んでいなさい」
そう言うミナの横に立つのは獅子の面被った女――。
「あなた、いつまでその仮面しているの? もう必要ないでしょう?」
「……それもそうか」
――ではなく男である佐野 和輝(さの・かずき)はそう言って獅子の面を外す。既に魔女から情報を受け取る状況は終わっている。そしてどんなか価値であれ恵みの儀式が終わるなら和輝の密偵は終わりを告げる。
「まあ、こういう訳だったと言っておく」
後ろにいる郁乃やレオーナに素顔を見せながら和輝はそう言う。
「やっと板挟みが終わったのね。おめでとうというべきかしら?」
和輝にそういうのは今は和輝の鎧となっているスノー・クライム(すのー・くらいむ)。
「どんな状況であれ私達は私達の仕事をこなすだけですよスノー」
スフィア・ホーク(すふぃあ・ほーく)はスノーの言葉にそう返す。
「スフィアの言う通りだ。そして今の俺たちの仕事は後ろにいる契約者を守ることだ。行けるな? スノー、スフィア」
「どんな攻撃からでもあなたを守ってあげるわ」
「情報収集はお任せください」
そうして魔女と和輝たちは傭兵団たちとの戦闘に入る。
「しかし、これだけの和相手によく耐えたな」
傭兵たちの数は魔法ステージや物理ステージより格段に多い。
「器の魔女……穂波の力が大きいのでしょう」
「でも……私達と粛清の魔女が加わってもこの数差じゃ勝てないんじゃない?」
「魔女が言ったとおりだろう。魔女一人じゃ恵みの儀式には勝てない。だから――」
「――癒しの力を」
「これは……」
レオーナは自分の体力が回復していくのを感じる。
「ミナホ様……」
クレアもレオーナと同様の感覚を感じながら同時にミナホが遠くからこっちを見つめているのを見つける。
「レオーナ様。今なら行けますよね?」
「うん。今なら負ける気がしないわ」
どんな思いでミナホがあそこにいるのか。それがレオーナやクレアにはわかるから。その思いを考えれば負ける訳にはいかない。
「ミナちゃんもミナホちゃんも、他の皆も、世の全ての女の子をハッピーにするんだから。負けてなんかられないよ」
「……結局、レオーナ様はどこまでもレオーナ様でしたね」
どこまでも不純物100%なのがレオーナなのだろうとクレアは思う。
「……こんなあたしは嫌?」
「思う所がないと言ったら嘘になりますけど…………もう慣れましたよ」
「ミナホさん、ここでいいんですか?」
鉄心は回復を終えたミナホに聞く。
「本当はもっと近寄って穂波ちゃんや契約者の皆さんに声をかけたいです。でも……あそこにいっても私は邪魔なだけですから」
「……そうですか。ミナホさんのことは俺とスープが必ず守ります」
「まかせるでござるzzzzz」
いつのまにかミナホの肩に幼竜形態で捕まり眠ってるスープ・ストーン(すーぷ・すとーん)。
「スープ君寝てるみたいですけど大丈夫ですか?」
「まぁ、こんなのでも一応いざとなったらやるやつですから」
(……地味に酷いでござる)
鉄心の言葉にちょっと傷つくスープ。
(まぁ、大体合ってるから文句は言えないでござるが)
少なくとも最後の砦としては期待されてるのだからそれを果たそうとは思うスープだった。
ミナホの到着した時に来たのはミナホたちだけではなかった。
「キング! 来てくれたんだ」
ゴブリンキングの姿を見つけて郁乃は喜びの声を上げる。
「コボルトロードにユニコーンのラセンさん……普通のゴブリンやコボルトたちを合わせたら結構な数になりますね」
マビノギオンが見る限りそのどれもが繁栄の力と衰退の力の強化を受けている。そして単純な数で言えば契約者達と合わせて傭兵団の数を超えていた。
「うさぁ……みんな手伝ってくれて嬉しいうさ」
これだけの数のゴブリンやコボルト、ユニコーンを集められたのはティー・ティー(てぃー・てぃー)のインファントプレイヤーがあってのことだ。
「みんなこの地が好きうさね」
村も森も人も。この地の自然とこの地に住むものたちが互いに好きあっている。だからそれを侵すものを押し返すためにこうして集まってくれたのだろうとティーは思う。
「そうですよね? アスターさん」
隣にいるラセン――本当の名はアスター――にティーはそう聞く。
ラセンはその質問に答えるまでもないとでも言うように傷ついた者達を癒やしに行く。
「さて、あなたが最後ね」
「負けを認めてください」
粛清の魔女ミナと器の魔女穂波は双子の魔女と傭兵団の団長の前まで進む。
「一奈姫、零夏姫。私を限界を超えて強化を」
団長の指示を受けて一奈と零夏は急いでその強化を行う。
「無駄よ……穂波」
「はい…………少し、眠っていてください」
しかしその強化はミナから衰退の力を受け取った穂波が全て吸収する。そしてそのまま団長を眠らせてしまう。
「ひっ……化け物……!」
穂波は悲しそうな様子で双子の魔女を守っていた結界を破り二人を眠らせる。
「…………きっと私はそうなんでしょうね。だから私は…………」
「それじゃ、私は傭兵たちと藤崎の組織から恵みの儀式に関するすべての知識と記憶を消してくるわね」
「お願いします。最後の魔女に関しては私達がどうにかします」
こうして長きに渡るニルミナスの戦いはひとまずの終わりを見せた。
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