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昔を振り返り今日を過ごし未来を見よう

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リアクション

 15年後、2039年。ツァンダ東の森、ジーバルス一族の里。朝5時過ぎ。

「今日も快晴! 日課のランニングとトレーニングよ!」
 目を覚ましたソラン・ジーバルス(そらん・じーばるす)は窓を開け、外を確認した後、子供達と共に一時間ほどのランニングとトレーニングに繰り出した。

 ランニング中。
「ん〜、朝のランニングは最高ね(昔から変わらない日課だし目的も健康と夜のお楽しみの体力向上のためだけど……今は……)」
 物思いに耽け走るペースが少し落ちたソランを
「カカ、遅いぞーー」
 獣人双子の片割れの少年シンクが抜き去った。
「こら、シンク、カカを抜こうなんざ百年早いんだからね!」
 ソランがペースを上げ息子を追いかけ、追い付くと抜いて
「まだまだよ」
 ソランは勝ち誇った顔で息子に言った。
 他の子供達は二人のやり取りを呆れたり面白がったりと楽しそうに眺めていた。
「みんな、行くよ」
 ソランは改めて皆に声をかけた。自分とハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)の子供である双子のシンクとコハクともう一人と姉のニーナ・ジーバルス(にーな・じーばるす)とハイコドの間に生まれた二人の子供に。ちなみに五人の中で双子が一番年上である。
「……(今は昔と違うのは子供達と一緒に日課を楽しんでいる事ね。一人よりもずっと賑やかで面白いし)」
 ソランは走りながら子供達に囲まれたこの幸せをひしひしと感じていた。
 ランニング後のトレーニングも終えて子供達と賑やかに自宅に戻った。
 丁度、戻ったのはハイコドが過去からの手紙と出会っている時であった。

 ソランが子供達と戻って来る少し前。
「……新聞でも取りに行くか」
 目を覚ましたハイコドは新聞を取りに玄関に向かう。
 その通り道に幾つか部屋を横切り
「……家が静かなのはこの時くらいだな」
 ソランと子供達が留守中の家内を見回して苦笑いをする。子供五人いれば毎日賑やかな事は想像に難くない。
「……ニーナはまだ寝ているのか」
 ニーナが眠る部屋に続く二階の階段をちらりと見たり。
「あぁ、そうだ新聞」
 思い出したようにハイコドは意識を新聞に向けた。

 玄関。

「……新聞と……何だこれ、少し古ぼけた封筒だな。しかも厚い」
 新聞の他に分厚い少し古ぼけた手紙が出て来た。
 早速、宛名と差出人を確認する。
「……両方共俺か……古ぼけているという事は……ああ、そう言えば書いてたな……確かイルミンスールの企画で……ついでに幾つか手紙を一緒に入れてたな……だから……」
 しばし心当たりが思いつかなかったがすぐに頭によぎった。15年前に魔鎧の仲間と共に参加し今の自分に宛てた手紙を書いた事を。
「……あれから15年経ったのか」
 ハイコドは手紙を見やり改めて15年という月日を感じていた。
 その時、
「ただいまーー」
 ハイコドを視認したソランと子供達の元気な声が割って入ってきた。
 ハイコドは声に振り向き
「あぁ、お帰り」
 愛すべき妻と子供達を迎えた。
「ハコ、おはよう! で、その手紙は何なの?」
 ソランは朝の挨拶早々旦那が不審な手紙を持っている事に目ざとく気付くなり
「……女の匂いは無いみたいね」
 くんくんと鼻を手紙に近付け浮気チェック。
「おいおい、この手紙はシンクとコハクが生まれたばかりの頃に書いた15年経って届く魔法の手紙だ」
 ハイコドはソランと子供達に向けて軽く説明をするなり手元から手紙が消えた。
 そして
「へへん、トト、油断大敵だ!」
 手紙はシンクの手に。どうやら奪われたようだ。
「よーし、シンク家に入ってトトの手紙を見るわよ! ほら、みんなも行くよ!」
 ソランはシンクに言うなり他の子供達と共にドタドタと家に入っていった。先に家に入ったシンクはすっかりソランの言う通り手紙を開封し、手紙の一つを読んでいた。

 騒がしい家族の後ろ姿を見ながら
「……見せずに取っておこうかと思ったんだがな」
 ハイコドはぼそりと溜息混じり洩らした。
 その時家の方から
「ハコーー」
 近所迷惑になりそうな自分を呼ぶソランの大声に
「分かった、分かった、今行くから静かになー」
 ハイコドは急いで家に入った。

 家内。

「トト、手紙ありがとう。今、家族と一緒で幸せだし、トトの事嫌いじゃないからな」
「今の生活は楽しいけど、恋人が居るかどうかなんて書かなくても……しかも“15年前の父は(マトモなら)君の恋人を認めようとか自分が暴走してたらぶん殴ってやってくれ”とか……もうお父さんは」
 手紙を読み終えたシンクとコハクは書かれていた幸せかどうかの問い掛けと子供達を愛しているという言葉に答えた。ついでにコハクは少し内容に呆れていた。
「シンク、ありがとうな。コハク、書いた事は大目に見てくれ」
 ハイコドは双子にそれぞれ言った。
「当然だ」
「仕方無いなぁ(男親ってこういうものなのかな)」
 シンクとコハクは嬉しいと呆れで答えた。
 それからハイコドは
「…………(元気でやってるか? 子育てはうまくいってるか? 妻たちを泣かせてないか? またどっか体を義手とかにしてないか? ……今の人生は楽しいか? もしも取り返しの付かない事に遭ったら悔やむな、読んでいるお前が出来る最善策を行え家族が死んでも愚かな事をするな、してたら自分で自分を殴れ)」
 自分に宛てた手紙を読んだ。
 読み終わるなり手紙を置き
「……(……五人の子宝に恵まれ子供達は健やかに育って妻たちも美しい……15年経った今も家族に囲まれ俺は幸せだ……って、肉体よりも精神の方が歳を取っているなこれは)」
 ハイコドは15年前の自分の問い掛けに苦笑混じりに答えた。
 その時、
「ハコ、何よ、この手紙、自分が死んでたら自由に生きて欲しい事とか謝罪とか……」
 ハイコドが自分の血印を押して妻達宛に書いた手紙を読み終わったソランは手紙を旦那に見せつけ
「あと、“今幸せかい? ただ一言、愛してる”って、こんな当たり前な言葉を残してどーするのよ! しかも何か辞世の句っぽいし」
 文句と怒りに満ちていた。その感情はハイコドが嫌いというのではなく愛しているからこそ。
「……ソラ」
 ハイコドは応戦する言葉が思いつかず、たじろぎながら妻の名前を口にするのが精一杯。
「あと、一つ、シンクとコハクの名前の由来は小学生の時の作文書くときに教えてるから! ハコったら折角の手紙に何書いてるのよ」
 ソランは駄目出しまでした。子供達の手紙を読み、そこの書かれた双子の名前の由来に溜息した。その内容はハイコドが灰色でソランが空で寒色で幼少時に嫌な事が多かったから、双子には暖色系で明るくというものであった。
「……その時は……」
 ハイコドはぐぅの音も出ない。よく考えると自分の名前の由来調査は学校の課題でよくある事。書いた当時そんな所まで考えが及ばなかった。
「……っていうか、ソラ、さすがにそこまで言う事は……」
 ハイコドは言い過ぎだと何とか反撃しようと言葉を継ぐも遮られ
「ハコ、もし私達を残して死んだらその死体にデコピンするからね!」
 ソランはデコピンの動きをしながらニッと先程まで文句を言っていた口を笑みの形にした。
 そうやってバタバタとしていると騒がしさから二階で眠っていたニーナが目を覚まして降りて来た。

 手紙読み終了少し前、二階のとある部屋。

「……ん……」
 賑やかな妹と子供達の喧噪で気持ちよい眠りからゆっくりと瞼を震わせ
「……騒がしいわね。何かあったのかしら」
 目を覚ますなりゆっくりと上体を起こし
「……小鳥の囀りで目を覚ませれば気持ちいい朝だったけど……こういう朝も気持ちいい朝ね」
 ぐぅと気持ちよく伸びをした。
 それから
「……あの騒がしさだと起きたのは私が最後みたいね」
 ニーナはベッドから起き上がり身支度を調えて階下に降りた。
 手紙を読み終えたソランによってあれこれとハイコドがせめられている最中であった。
 その微笑ましい光景を眺めながら
「……随分経ったのねぇ」
 ニーナはふとハイコドと結婚してから随分の年月が経た事を感じると同時に
「……しかたないことなのよね(私やソラ、ジーバルス一族は肉体が老いにくい。だから技術を後の世に伝えやすい。そう古代で作られた一族……30少し前から実年齢よりも肉体と外見年齢が10年若い……その代わりに他獣人族より平均寿命が10年程短い……もしかしたらハコくんより先に死んでしまうかもしれない)」
 白髪が増え始めた夫を見つめほんの少しだけ苦しくなる。考えてもどうしようもないけれど。
「……(その上、私は皆と違って一生老いる事は無い、でもそれでいいのかしら?)」
 『T・アクティベーション』を有するニーナは一生老いる事は無い。それが少しだけ寂しい。夫と同じ歩幅で老いる事が出来ないから。
 しかし
「……でも、ま、今は、あの人と妹と子供達……そして一族の長として里を愛し、生きていきましょう」
 目の前の賑やかな家族の光景を見やり自分が背負っている里の者達を思い、ニーナの口元はゆるんだ。先の事はどんなに考えても分からない。今目の前にあるのは愛してやまない夫と妹と子供達。それで今は十分。
「……」
 ニーナはそっと家族の輪に入り、旦那の元へ。

「あぁ、起きたか。今丁度……」
 ハイコドはニーナが目を覚まし、降りて来た事に気付くなり手紙を見せながら一緒に読もうと誘おうとしたが
「……」
 これからの幸せを願うニーナに口を塞がれ、誘う言葉は失った。
 そっとニーナの唇が離れると
「……」
 ハイコドが言葉を発する前に
「……」
 ソランがキスを重ね再び遮った。
 そしてソランの唇がゆっくりと離れると
「……愛してる」
 そう言ってハイコドはニーナとソラン、二人の妻にお返しのキスをした。

 キスが終わった途端、
「もう、朝から熱いなーー」
「見ているこっちが恥ずかしくなるよ」
 子供達はわぁわぁと熱々の両親を冷やかした。
「これは独楽の計ね」
 と言ってニーナが『回転眼』で子供達をくるくると回転させ、
「わぁぁぁぁ」
 しっかりとお仕置きをした。
 それを見ながら
「……今日も楽しそうだな」
 ハイコドはぼそりと呟いた。

 本日、快晴、ジーバルス家は今日も賑やかだ。