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昔を振り返り今日を過ごし未来を見よう

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昔を振り返り今日を過ごし未来を見よう
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リアクション

 現在、2024年。温泉街、昼。とある温泉宿の一室。

「うわぁ、良い眺め」
 シェリエ・ディオニウス(しぇりえ・でぃおにうす)は部屋に入った途端窓の外に広がる素晴らしい景色に釘付けに。
 その姿を見て
「……(やっぱり、秋は紅葉のシーズンで間違ってなかった。こんなにシェリエが喜んでくれているんだ。しかし……)」
 フェイ・カーライズ(ふぇい・かーらいど)はデートのチョイスを間違っていなかったと確認し満足していた。実は仕込みは素敵な景色だけではない。
 とっておきがまだ一つある。
「シェリエ、景色もいいが温泉はどうだ」
 フェイはそのとっておき披露しようと恋人に声をかけた。
 すると
「温泉? 確かここは露天風呂があるとか」
 振り返ったフェイは宿の女将が言っていた事を思い出した。
「それもいいが、ここは個室に温泉があるのだ……つまり二人きりで楽しめる温泉が」
 フェイはそう言いながら温泉を見せた。これこそが仕込みであり本命である。
「わぁ、これならのんびりと温泉に浸かりながら紅葉を堪能出来るわね……贅沢ねぇ」
 シェリエは温泉と広がる紅葉に目を輝かせながら言った。
 何より
「さすが、フェイ。こんな素敵な宿でフェイと過ごせるなんて」
 シェリエはこの宿に誘ってくれた事とフェイと一緒に過ごせる事が嬉しかった。
「良かった。シェリエが喜んでくれて(紅葉と言えば温泉という発想も間違っていなかった)」
 シェリエの笑顔に満足した所で
「では早速、入らない?」
 フェイは次の作戦へ。これをするために温泉のある個室を予約し今紹介したのだ。
「今から? まだ日も高いのに?」
 想定外の誘いにシェリエは頓狂な声を出した。お風呂と言えば夜なのにまだ日は高いし何より今一緒に入るという心積もりもしていなかったので。
「確かに後でもいいけど、どうせなら明るい内の方が楽しめると思わない?」
 フェイは負けずに更に言葉を継ぐ。今この美しい風景をシェリエと一緒に満喫したくて堪らないのだ。
 結局
「……そうね、夜だとこの綺麗な紅葉も暗くて見えなくなるわね」
 フェイの言い分も一理あるとシェリエは押し切られる形で誘いを受けた。
 それによって二人はまったりと貸し切りの温泉に浸かり紅葉鑑賞を楽しむ事に。

 部屋内の温泉。

「……綺麗」
 シェリエはまったりと紅葉を楽しんでいた。
 その横では
「……」
 フェイも紅葉を楽しんでいたが、視線は風景から紅葉を楽しむ恋人の横顔に自然と行き
「……(やっぱりシェリエは綺麗だなぁ……ってこれだとまた同じじゃないか……)」
 シェリエの横顔の虜に。すぐにこれでは夏のあの時や秋の祭りと同じだと既視感を感じまくる。
「……(でも)」
 それでも
「……(綺麗だなぁ。肌も髪も……)」
 目が離せず、恋人を愛おしそうに見つめるばかり。
 その時
「……フェイ、あんまり見られると困るんだけど」
 視線に気付いたシェリエが恥ずかしそうに言った。
「……それはシェリエのせいだ」
 フェイは真面目な顔で一言。
「……ワタシのせい?」
 シェリエが訳が分からぬ顔で聞き返した。
「シェリエがあまりにも綺麗だから私が見とれて……しかも普段は見られない姿だからしょうがない」
 フェイは大真面目でシェリエを食いいるように見つめた。見つめすぎて穴が開くほどに。
「……もぅ」
 シェリエは恥ずかしそうにフェイの視線を逃れようと体ごと顔を背ける。
「……分かった。何か話をしながら紅葉を眺めようか。ここからなら結構いい景色が見られるんだ」
 フェイはちらりとシェリエを一瞥してから
「……ホント、今日まで多彩な紅葉みたいに色々な出来事があったな」
 何とか頑張ってシェリエから紅葉に視線を向けて改めて紅葉を楽しみ始めた。それによってこれまでの思い出が次第に蘇ってきた。
 ちらりと体ごと顔を背けたままの恋人に向かって話し始める。
「……初めて出会った時は他の姉妹と一緒に父親の楽器探しをしてたっけ。その頃のシェリエの印象は、綺麗な髪の子だなって思ったくらいかな(本当はもう一つ三姉妹で怪盗ってどこの猫目な怪盗姉妹だよって心の中でツッコんだ事かな)」
 初めて会った時の事を口にするが、胸中でもう一つの印象をつぶやいた。
「……」
 シェリエはフェイに背中を向けたまま静かに耳を傾けながらも回顧していた。
「……楽器集めもそうだったけど、それが終わってからも色々な事件で顔を合わせて……一緒に行動して友達になって……シェリエの事が友達以上に思うようになって……そのせいで色々悩んで……」
 募るシェリエへの思いに苦しんだ日々を。今も思い出せる。好きで好きでたまらないのに簡単に打ち明けられない事を。なぜならシェリエはカノジョではなくカレシが欲しいと言っていたから。
「……フェイ」
 背を向けていたシェリエがそろりとフェイの方を見た。
「あ、でも、結ばれた今はそれもいい思い出になったと思ってるよ。むしろその苦しみは必要だったとさえ思う。だって……」
 フェイの声から切なさが消えたかと思いきやようやく自分を見てくれたシェリエを抱き寄せた。
「フェイ!?」
 いきなりのフェイの行動に戸惑いシェリエの声が跳ねた。
「今はこうして一緒にいるだけですごく幸せに感じられるから」
 フェイはシェリエを抱き寄せたまま耳元で囁いた。
「……これからもこうして二人で幸せを共感していきたいと思ってる。この先成長して、いつかおばあちゃんになっても……それでも一緒にいてくれるかな?」
 腕に感じる愛しい人の肌の体温で悩み欲しくて堪らなかった幸せが今こうしてある事を感じる。決して手放したくないものが。
「……ワタシはそのつもりだけどフェイが迷惑なら諦めるわ」
 シェリエは振り返り、ほんの少し意地悪を見せる。恥ずかしい思いをしたお返しとばかりに。
「……シェリエ……迷惑なんか……」
 フェイはこれ以上言葉を重ねるのは無粋とさらにシェリエを引き寄せ、彼女の唇に自分の唇を重ね、そのまま口付けを深めながらそっとシェリエの身体を撫で触れる。
 シェリエは這うフェイの手の感触に驚いたようにピクリと身体を震わせ
「ちょ、ちょっと、フェイ!?」
 自ら唇を離して自分が映る黒い瞳を見上げたシェリエ。恥ずかしさもあって頬が赤く染まっていた。
「大丈夫、ここなら誰にも見られないから……それとも、部屋で『する』方がいい?」
 フェイは甘く意地悪く耳元で囁く。
「……もう……意地悪」
 意地悪なフェイに軽く口を尖らせるなりシェリエはフェイにキスをした。意地悪な事をもう言わせないと言わんばかりに。
 そのままフェイとシェリエはまったりと誰にも邪魔されない二人だけの時間を過ごしたという。