リアクション
茨ドームへ 「アンシャール、発進します!」 イルミンスールのイコン発着枝から、遠野 歌菜(とおの・かな)と月崎 羽純(つきざき・はすみ)が乗ったアンシャールが発進していきました。エナジーウイングを美しく広げて、イルミンスールの森の梢の上へと舞いあがります。 茨ドーム跡で不穏なエネルギー反応があると言うので、その調査のための発信でした。 「今ごろ、あんな場所で何が起こっているんだろうね」 「さあ、行ってみれば分かるさ」 はたして、茨ドーム跡にまで行ってみると、以前焼け野原となっていた場所は、森の他の場所と同じように緑に被われていました。森が復活したと言えば聞こえはいいですが、特別に植林したわけではないので、どう見ても不自然です。ぱっと見は、周囲の丈高い樹木と遜色がありません。もっとも、以前の巨大なドーム状の茨の森とは見た目から違っているようですが。いくら世界樹の加護があるとはいえ、本来であれば、もっと若い木が生えているはずなのですが。 「確かに、森の中にいくつもの熱源反応があるな」 センサーを確認して、月崎羽純が告げました。 「突入するわよ」 エナジーウイングを収納すると、アンシャールが森の中へと降り立ちました。 梢の間に滑り込むようにして着地したつもりが、何やら一瞬周囲の光景がゆらいで違和感を感じます。地面に降り立つと、周囲は厚い霧に覆われていました。 「何、これは……」 森の木々に隠されていた場所――いいえ、霧に覆われていた場所の真の姿を見て、遠野歌菜が驚きました。 そこで蠢いていたのは、何体ものリーフェルハルニッシュでした。 地面は一面に湿地帯に変えられていて、黒蓮の花が咲きそろっていました。 それら黒蓮の花をせっせと摘み取っているのは、少女の姿をしたサテライトセルです。 リーフェルハルニッシュは、茨ドームの事件で現れたゴーストイコンの一種と種別されていましたが、その後のヴィマーナ艦隊との事件を経て、ベースは鏖殺寺院がゴーストイコンを改良して使っていたタンガロアというイコンであることが判明しています。そのタンガロアを寄生型イレイザー・スポーンが複製して作り出したゴーストイコンが、時空転移で変質を起こした物がリーフェルハルニッシュです。黒い機体装甲に、細かな象眼の模様を浮かびあがらせた騎士型のイコンです。 同様に、サテライトセルはニルヴァーナの時空港遺跡にあった汎用の作業用機晶姫がベースとなっています。等身の低い少女の姿をしており、ポンチョ型のマントを羽織って宙を浮いて移動します。このサテライトセルは、ヴィマーナやリーフェルハルニッシュのメンテナンスと操縦を担当していたものです。 パラミタにある物は、共に茨ドームでのイコン戦ですべて破壊されたはずです。初期化されたおかげで生き残り、パートナーとして保護されたサテライトセルの一人をのぞいてですが。 おそらくは、他にも生き残ったサテライトセルがいたか、あるいは、誰かがサテライトセルを修理したのかもしれません。その一体のサテライトセルが、黒蓮を栽培し、他のサテライトセルやリーフェルハルニッシュを修理したのでしょう。 アンシャールに気づいたリーフェルハルニッシュが、一斉に武器を構えました。 「これ以上の破壊活動は許さないんだもん」 「いや、破壊ではなく、生産活動みたいだが……。だが、このまま放置するわけにもいかないな。はあ……。早く終わらせるぞ」 「了解、羽純くん、アンシャール、行くよ!」 月崎羽純の言葉に、遠野歌菜が攻撃を開始しました。槍で剣を払いのけると、素早く空に飛びあがりました。 歌でイコンと自身の能力を高めながら、遠野歌菜が、直上からマジックカノンで敵イコンを撃ち抜きます。 「次だ」 サブパイロット席の月崎羽純が、性格に敵の弱点をポイントして射撃指示を送ってきます。それに素早く対応しながら、遠野歌菜が次々に敵イコンを破壊していきました。 数が多いとはいえ、第二世代以前のイコンなど、アンシャールの敵ではありません。破壊されたリーフェルハルニッシュは、粉々に砕けて湿地へと沈み、霧となって消滅していきました。 破壊されたリーフェルハルニッシュからは、わらわらとサテライトセルが脱出していきます。 すかさずアンシャールの槍を振り回して攻撃しようとした遠野歌菜が、すんでで攻撃を止めました。木々の間に逃げ込んだサテライトセルを倒すためには、周囲の木ごと破壊しなければなりません。それでは、周囲の森にとっては痛手です。 「まずいな、アンシャールでは強力すぎて、周囲の森まで傷つけてしまう……」 目につくリーフェルハルニッシュをすべて破壊した時点で、月崎羽純が遠野歌菜を止めました。 「下りて戦おうよ」 遠野歌菜が息巻きますが、敵イコンを本当にすべて破壊したかどうかは分かりません。また、サテライトセルはたいしたことはないものの、数が多いので、一体も逃さずに倒すのは難しそうです。さてどうしたものかと思案していると、地上のサテライトセルたちに変化が現れました。 散らばって逃げだそうとするサテライトセルたちが、何者かの攻撃で吹き飛ばされて消滅しました。まるで、光の杭に突き飛ばされたかのようです。 「茨ドームで何かあったと聞いて駆けつけてみれば、懐かしい物が復活していたものだな」 光条の軌跡を曳き残すランちゃんのチャージでサテライトセルたちを弾き飛ばしたヒーク・オリエンスが、やれやれという顔で言いました。がっしりとした体躯の、癖のある金髪翠眼の武骨な騎士です。 「そこの方、地上は我らに任せて、センサーでサポートをお願いします」 メイちゃんで敵を粉砕したアリクビ・オッキデンスが、遠野歌菜たちに呼びかけました。豪奢な赤髪をゆらして、次々にサテライトセルを叩き潰していきます。 現れたのは、五千年前にイルミンスールへと侵攻する自爆型イコンの迎撃戦で、当時イコンと思われていたイレイザー・スポーン浸食型変質ヴィマーナ母艦に乗り込んでこれを停止させた騎士たちです。メイちゃんたちのマスターである彼らの復活で、メイちゃんたちも、ギフトをベースとした光条兵器としての本来の力を取り戻したようです。 光条兵器であれば、森を傷つけることなく、サテライトセルだけを攻撃することができます。 「味方か。よし、地上は任せちまおう」 「えーっ」 これで楽ができると月崎羽純が言いましたが、遠野歌菜はちょっと物足りなそうでした。とはいえ、リーフェルハルニッシュ相手に無双した後ですから、これ以上は環境破壊になりかねません。 「止水鳴動!」 アリクビ・オッキデンスが、先端に光条の塊を宿したメイちゃんを沼状の大地に振り下ろしました。文字通り大地が唸り、光条につつまれた水滴が反動で散弾のように空にむかって跳ね上がりました。宙に浮かんでいた周囲のサテライトセルが、水に貫かれて墜落します。 「北方向、逃げる敵を感知」 サテライトセルの動向をセンサーで確認していた月崎羽純が言いました。すかさず、遠野歌菜がスモークディスチャージャーから、発煙弾をマーカー代わりに一発だけ発射します。上空を遥か遠くへと飛んでいった発煙弾が、敵の方向を指し示しました。 「こちらですね」 黒髪の美青年であるイックリーク・メリーディエが、手に持ったコンちゃんを前方に突き出しました。コンちゃんの先端からのびた光条が、樹木を傷つけることなく貫き、脱出しようとするサテライトセルを破壊しました。光条兵器だからこそできる攻撃方法です。 三人の騎士たちに追い詰められて、サテライトセルが沼の中央へと押し集められます。 そして、待ってましたとばかりに、待ち構えていたイビ・セプテントが、光につつまれたケンちゃんを高々と掲げました。金髪を肩口で切りそろえた、碧眼の快活な少女です。 「我望むは静寂。切り裂け、空音」 イビ・セプテントがケンちゃんを振り下ろすと同時に、放たれた光波がサテライトセルだけを切り裂きました。バラバラと残骸を撒き散らしながらサテライトセルたちが倒れた後は、一瞬の静寂だけが周囲をつつみ込みます。 「敵殲滅を確認。終わった、終わった」 「下りて、確認しようよ」 全センサーに敵の反応がないことを確認すると、遠野歌菜たちもイコンから降りてきました。 下では、騎士たちと、人間の姿に戻ったメイちゃんたちが、沼地を調べ始めていました。それに、遠野歌菜たちも加わります。 「特別おかしなところはもうないようだが、イルミンスールに報告して、ここの後処理を進言した方がいいな」 「そうね。今度こそ、完全に後片づけしなくちゃ」 すでに脅威はなくなったことを月崎羽純と遠野歌菜たちが確認しました。けれども、黒蓮をこのままにしておくわけにはいきません。刈り取りはしても、種が残っていればまたは生えてくるかもしれません。しばらくは監視対象にした方がいいでしょう。 「それは、私たちがやりましょう」 イビ・セプテントたちが、言いました。 「じゃあ、私たちは報告に行くね」 アンシャールに戻ると、遠野歌菜と月崎羽純は、報告のためにイルミンスールへと戻っていきました。 |
||