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そして、蒼空のフロンティアへ
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蒼空学園学園祭へ



「どうして、母校っていうのは、こんなに懐かしいものに変わっちゃうんだろう」
 誰もいない教室の机を指先でなぞりながら、綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)がつぶやきました。
 明日の学園祭で行うステージの下見に来たのですが、なんだかステージだけではなく、昔、自分たちの使っていた教室などを順に巡ってしまっています。
 蒼空学園を卒業してからまだ二年だというのに、なんだかずっと昔のことのようです。
 数年すれば、今通っている空京大学も卒業です。その後で空京大学を訪れたら、また同じような思いを感じるのでしょうか。
 自分が通りすぎてしまった場所というものは、どこか色褪せてしまっているようで、何かが物たりない感じです。そのたりないものが自分自身であると気づくのは、いつのことでしょうか。
「いたいた。どこに行っちゃったのかと思いましたわ」
 ふらりと姿を消した綾原さゆみを探して、アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)がやってきました。
「この校舎は、撲殺魔が現れるという怪談があるんですから、気をつけませんと」
「そういえば、そういうのもあったわよねえ」
 懐かしい七不思議を思い出しながら、綾原さゆみがアデリーヌ・シャントルイユに言いました。
「思い出に浸るのもいいですけれど、今はアイドルなんですから」
「そうだよね。アイドルだよね」
 アデリーヌ・シャントルイユに言われて、綾原さゆみがまた別の思い出に浸っていきました。
 そういえば、アイドルになったきっかけもアデリーヌ・シャントルイユだったと綾原さゆみが思い出します。
 引っ込み思案なアデリーヌ・シャントルイユに少しでも自信がつけばと、レイヤーだった綾原さゆみがコスプレに誘ったのがきっかけだったわけです。いろいろな動画をネットにアップしたのがスカウトの目にとまったのですが、人間、何がきっかけで人生が変わるか分からないものです。
「蒼空学園にいたときもいろいろあったけれど、まだまだ、いろいろと面白いことが起こるわよね」
 二人にはと、綾原さゆみがアデリーヌ・シャントルイユに微笑みかけました。
 確かに、蒼空学園にいたときの思い出は楽しいものだったなあとアデリーヌ・シャントルイユも思います。二人の思い出は色褪せないと信じますが、二人の間に流れる時とは、はたして同じ物なのでしょうか。吸血鬼のアデリーヌ・シャントルイユとしては、そう考えずにはおれません。思い出が色褪せたとき……。
 ともあれ、現在アイドルとして活動中の綾原さゆみにとっては、芸能生活は思いっきり現在進行形です。
「さあて、じゃあ、そろそろ音合わせしましょうか」
「ええ」
 綾原さゆみはアデリーヌ・シャントルイユの手をとると、ステージにむかって走っていきました。