校長室
そして、蒼空のフロンティアへ
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★ ★ ★ 海京の人工ビーチで、村主 蛇々(すぐり・じゃじゃ)は、リュナ・ヴェクター(りゅな・う゛ぇくたー)とアール・エンディミオン(あーる・えんでぃみおん)と一緒にピクニックをしていました。 海京の市街からは一段低くなった場所が、綺麗な白砂を敷き詰めたビーチになっています。太平洋を眺めることができる、海京市民の憩いの場所の一つです。 消波ブロックを超えて静かに波が打ち寄せてきます。海面下では、浜辺の砂が海に流れ落ちないようにハイテクの回収機構が隠されているのですが、見た目では自然の海岸そのものです。 「さあ、お待ちかねのお昼にしょ♪」 持ってきたバスケットを持ちあげて村主蛇々が言いました。さっそく、広げたビーチマットの上に、自分で作ってきたお弁当を広げます。 今日のピクニックは、みんなが自分の手で作ったお弁当を持ち寄って堪能しようという主旨なのです。 村主蛇々が持ってきたのは、雑穀米から作った大きめのおにぎりと、こしあんでつつんだおはぎにきな粉をたっぷりまぶした物です。 「白米じゃないのか? にしても、デザートもあんこに御飯とは……。それに、きな粉もよけいじゃないのか?」 この取り合わせはないだろうと、アール・エンディミオンが言いました。 「えー、そんなことはないもん。おはぎは、デザートじゃなくて御飯だよ。それに、いろいろ混じった御飯は、ビタミンとか豊富で健康にいいんだよ。ほら、塩味と、あんこ味と、好きな方を選べるでしょ。きな粉も栄養があるんだよ」 まあ、食べてみてよと、村主蛇々が言いました。 「甘い物は、疲れたときにいいんだよねー」 そう言ってリュナ・ヴェクターがバスケットから取り出したのは、フワフワのシフォンケーキでした。水筒には、これまた甘い味のミルクティーが入っています。 「というわけで、あたしはシフォンケーキとミルクティーでーす」 「こっちは、食後用というか、メインのお弁当じゃないなあ」 「なあに? じゃあ、あんたは何を作ってきたの?」 今ひとつの評価に、村主蛇々がアール・エンディミオンに聞きました。 「俺か? 俺は、オーソドックスにこれだ」 アール・エンディミオンの持ってきたバスケットの中にみっちりと入っていたのは、サンドイッチです。中身は、BLTに、ハムたまご、ポテトサラダなどです。きっちりと形を揃えてミミを切り落とされ、厚みもほぼ均等です。とってもきっちりかっちりと作ってありました。 「へえー、地味だけど、ちゃんと作ってあるわね」 「美味しそうです」 村主蛇々とリュナ・ヴェクターが、アール・エンディミオンのお弁当を見て、そう評しました。 「あたりまえだぜ」 俺が作ったんだからなと、アール・エンディミオンが自慢しました。 「それじゃあ、食べよ。いただきまーす♪」 「いただきます」 村主蛇々の音頭で、一同がお昼にしました。 「うん、みんな美味しいよ」 まずはサンドイッチを食べて、村主蛇々が言いました。 味がシンプルで、ちょっと重たい御飯物は後回しです。最後に、デザートでケーキということにしました。みんなてんでバラバラに作ってきたわけですが、案外バランスがよかったようです。 和気藹々と昼ご飯を食べていると、遠く沖の方で何かが光りました。続いて、巨大なキノコ雲がたちのぼります。 「なんだろ?」 村主蛇々が首をかしげます。 「何か落っこちてきたみたいだが、爆発? 演習かなあ」 「さっきイコンが飛んでたから、それじゃないのかなあ」 アール・エンディミオンの言葉に、リュナ・ヴェクターが言いました。海京では、イコンの訓練は珍しくありません。きっと今日も、誰かが訓練をしているのでしょう。それも含めてが、ここ海京の海の景色です。天御柱学院の者たちは、その程度では動じません。 「ああ、美味しかった」 リュナ・ヴェクターに食後のミルクティーを紙コップに注いでもらいながら、村主蛇々が言いました。 「ケーキが入るのか?」 ちょっと食べ過ぎじゃないかと、アール・エンディミオンが村主蛇々に聞きました。 「もちろん、デザートは別腹だよ」 いつも通りと、村主蛇々が答えました。 のんびりと、村主蛇々たちがバカンスを楽しんでいると、何やらたくさんの漂流物が波に運ばれてビーチに辿り着きました。はっきり言って、ゴミです。いったい、誰が海に不法投棄をしたのでしょう。 「くそう、イコンで本気の攻撃をしてくるとは、空気の読めない馬鹿者共め……」 ゴミの一つが、ふらふらと立ちあがりました。ゴミではなく、ドクター・ハデスたちだったようです。高天原咲耶も、ペルセポネ・エレウシスも、機晶戦闘機アイトーンも、怪人デスストーカーも、アレックス・ノースも、ガルム・コンスタブルもしっかりと流れ着いています。ハデスの発明品と合体して守られていたために、ドクター・ハデスだけ逸早く意識を取り戻したようです。が、さすがに合体は解け、ドクター・ハデスが立ちあがると、ハデスの発明品はボロボロ地上に崩れ落ちました。 「だが、しかし、俺たちはナラカを通ってさえ蘇ってきた。オリュンポスは不滅だ。これからは、生まれ変わった新生ネオオリュンポスとして、一から世界征服をしてやる。待ってろよ、世界!」 なんだか、捨て台詞のようなものを、ドクター・ハデスが海にむかって叫びました。 「蛇々おねえちゃん、あれ……」 「しっ、見ちゃいけないんだよ」 そう言って、村主蛇々はリュナ・ヴェクターの目を手で塞ぎました。