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【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~2009年~

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【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~2009年~
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第2章 眠りし女王 13

 休憩中、仲間たちはそれぞれの場所に陣取って水分補給や治療や体力回復に努めている。その間、壁にもたれかかりながら物憂げな顔で下を向いていたのはサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)だった。
「サビク」
 そんな彼女に声がかかる。
 静かに顔をあげたサビクの前に立っていたのは、燃えるような赤い髪の娘――サビクの契約者であるシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)だった。
「隣、座っていいか?」
「…………うん」
 サビクが消え入りそうな声で答えると、シリウスは彼女の隣に腰をおろした。
 サビクは――かつてこの奥にいるはずのアムリアナ女王に仕えていた剣士だった。
 彼女にとって、アムリアナ女王というのはかけがえのない存在である。アムリアナ陛下を守り、意を叶えることが彼女の作られた理由であり、存在意義だ。
 今回、この作戦に参加したのも、その意義が彼女にささやきかけたからだった。
 それまでは、アムリアナ陛下のためと思って、作戦活動に専心していた。だが、もうすぐ彼女のもとに着く――そう思うと、サビクは急に、その足が立ち止まりそうになるのだった。
「怖いのか?」
 シリウスがこぼすように言った。
 怖い? 陛下に会うのが、怖い?
「あぁそうだ……ボクは怖いのさ」
 立ちすくむこの心の正体を改めて感じて、サビクは瞼を閉じた。
 闇の世界が視界を覆う。その奥で見えるのは様々な過去の記憶だった。
 生まれたとき。陛下に仕えていたとき。戦いの瞬間。陛下の声――
 様々なものが、サビクの心にささやきかけてくる。
 それだけ、これだけ輝かしい記憶があるからこそ――サビクは震えるのだ。
「何、ビビってんだよ」
「!?」
 シリウスの言葉が胸に突き刺さって、思わずサビクは彼女を睨みつけた。
「じゃあ、何を言えばいいんだよ!」
 突然の絶叫が反響し、皆の視線がサビクに集まる。だがサビクはそれに気づかず、ただひたすらに心の中を吐き出すように喚いた。
「お久しぶりですか! お会い出来て嬉しいですか! また、あなたと共にいますか! どれだけ言葉を重ねたって、忘れられてたらそれでおしまいじゃないか!」
「かもな」
「だったら……会わないほうがまだ……まだ……っ」
 サビクは嗚咽を呑み込むように、再び顔を伏せた。
『忘れられていたら』――考えないようにしていたそれが自分の言葉として口を出たことで、はじめて現実感を帯びて突きつけられたような気分だった。
 いや、逃げていただけだ。実際は、ずっとそれに怯えていた。
 どうしようもない現実。どうしようもない時間の経過が、サビクに重くのし掛かる。
 だが――
「そのときは、オレがもらってやるよ」
「え……っ」
 隣にいたシリウスはそんな恐怖も不安も吹き飛ばすような笑みで、サビクを見ていた。
「そのときはオレがお前をもらってやる。本物のシャンバラ女王と比べたら、不足どころじゃないかもだけどさ……でも、ちったぁマシになるかもしれないだろ」
「いや、それは……」
 不足だとも言えず、サビクは困ったように口をつぐんだ。
「だから、心配せずに会ってこい。信じてりゃ、少しは叶うもんだ」
 シリウスは笑って、サビクの手を取った。
 それをぎゅっと握り締める。少なくとも自分は傍にいるんだと、そう、言い聞かせるように。
「――うん、分かったよ」
 サビクはその手の温かさに、不思議と恐怖ですくんでいた足が落ち着きを取り戻してきたような気がした。