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リアクション
●Wanderers (4)
レジーヌ・ベルナディスの呼びかけはついに通じた。
「小山内さん……小山内南さん、聞こえますか」
「はい。聞こえます」
たくみに戦闘を避けながら、レジーヌとエリーズ・バスティード、そしてクランジξ(クシー)は虜囚のいる場所を探し続けていた。
場所を変えながら懸命に呼びかけること数度、ようやくレジーヌは友人、小山内 南(おさない・みなみ)の声を聞くことができたのだ。
うん、うん、とレジーヌは、テレパシーであるにもかかわらずしきりとうなずいてみせ、そして笑顔になった。
「朗報です! 小山内さんは元気ですって! この方角に向かって進めば、南さんをはじめとする女性の囚人を救出することができそうです!」
「それは結構なことです、レジーヌ様」
エリーズの声色が変わることはないが、レジーヌの喜びが伝わったのか、幾分やわらいで聞こえた。
だが、クシーは嬉しそうな顔をしなかった。むしろその正反対だ。険しい表情で足を止めた。
「クシーさん?」
見た目こそ怖いものの、クシーはこの道中、一度もそんな様子を見せなかった。レジーヌにもエリーズにも、親切といえるほどに柔らかな態度をとっていた。それが突然、二酸化炭素がドライアイスになったかのように、硬直した姿を表にしたのである。
ふん、と鼻を鳴らしてクシーは言った。
「So sorry、悪イな。レジーヌ、エリーズ、アタシはこレ以上一緒に行ケナい」
「どうしたんです」
「知っテルと思うガ、クランジは、近クにクランジがいレバ判るノサ。SIS……つマりアタシの姉妹ガすぐ近くにイル」
「クシーさんが食い止めるから私たちに先に行けと?」
「Just like that(その通り)」
クシーは自分の右腕を取り外した。すらりと長い刀身をもった刃が現れる。
このような様子をしたクシーに、抗弁するのは恐ろしかった。だがそれでも、彼女には友誼を感じはじめていたこともあり、レジーヌは勇気を出して言った。
「駄目です。私たちの使命はエデン陥落の作戦を完遂すること……! ク、クランジを倒すことじゃないはずです」
「私もレジーヌ様の考えに同意します」
するとクシーはほんのわずか、目元を緩めて言ったのである。
「パイのチびすケやロー、ユプシロンやカッパ巻が相手なラそうしテも良かった」
三人が足を止めていた廊下、その真横の壁が円形に切り裂かれ、ごとんと音を立てて内側に倒れてきた。
「……けド、血のつながった……アタシと同ジ顔したアイツだけハ、例外ダ」
突然生まれた新しい通路から、クランジο(オミクロン)が一歩を踏み出してきた。顔はクシーと同じ。双子だからだ。しかし髪の色は真っ黒で、能面のように冷めた表情をしている。
「アイツを永遠に黙ラセルのはアタシだ……R U OK?」
オミクロンの刃が煌めいた。
彼女の隠し刃は左腕、円月のようにくるりと空を切る。
しかしオミクロンの隠し刀はクシーを狙ったのではなかった。その切っ先が向いたのは、レジーヌ!
「レジーヌを傷つけるのは許さない!」
されどエリーズが白の剣、抜くなり一閃しこれを受け止めた。
刃と刃は瞬時、ギチギチと鍔ぜるも、瞬く間にエリーズの剣のほうがバキっと中ほどから折れた。
だがオミクロンがもう一歩踏み込むことはかなわない。彼女目がけてクシーが雷光のような突きを繰り出し、オミクロンを大きく後退させていたからだ。
オミクロンの早業、これに対するクシーの超反応、いずれもレジーナを驚かすに充分であったが、さることながらやはり最大の驚きは、エリーズが表情と怒りの感情を取り戻していたことだった。
「エリーズ……あなた感情が……!?」
「聞いてレジーヌ! クシーの言う通り。私たちがいても足手まといになるだけ! それよりは捕まっている人たちを解放しなくちゃ!」
「で、でも……」
「巻き添エになるッ! 二人トモ、こコは大丈夫! 行ケッ!」
すでにクシーとオミクロンは、火花で周囲が明るくなるほどの切り結びを演じている。オミクロンが凪ぐ。クシーが流す。クシーが切る。オミクロンが受ける。めまぐるしいほどの攻防だ。
それだけの剣戟を演じながらも、クシーは短く振り返ってわめくように言った。
「そういや言ってなかったな、アタシがレジスタンスに参加した理由! それハこいつらが……最悪の嘘つキばカリだカラだッ!」
「裏切り者がなにを言うか!」
オミクロンが吼えた。しかしクシーの叫びはそれを上回った。
「ラムダをアンナ風にしたのはオマエらだっタろうガッ!」
「ち……違う。あれは必要な措置だったと……」
「Airhead! 頭カラッポか、テメーはヨ! だっタらη(イータ)のコとはドう説明するッ!?」
「それも曲解だ。クシー、お前は理想論を言っているに過ぎん!」
オミクロンは怯んだか、少しクシーから離れ、様子をうかがうようにじりじりと後退した。そんな姉から目を離さず、クシーはもう一度レジーヌに呼びかけたのである。
「行ケッ! Mate、行けッ!」
「Mate?」
「『友達』っテ意味! See Ya!」
クシーは叫び声を残すとそれこそ阿修羅のように斬りかかり、オミクロンを通路の向こうへ押し戻して行った。
「クシーさん……」
後ろ髪を引かれる思いに駆られながら、レジーヌはエリーズとともに道を急ぐ。