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リアクション
4.恐竜騎士団の噂
「なにが風紀委員だ、ちったぁできるみてぇだが、大した事ねぇじゃねぇか」
ジガン・シールダーズ(じがん・しーるだーず)が、振り返る。そこには、風紀委員が三人、地面に突っ伏していた。彼らの搭乗に使われていた恐竜も、同じように倒れている。
「油断は大敵ですよ」
「けっ」
ノウェム・グラント(のうぇむ・ぐらんと)の言葉に、舌打ちで答えて、倒した恐竜を指でつんつんとつついているザムド・ヒュッケバイン(ざむど・ひゅっけばいん)に声をかけて移動を促す。少し残念そうなのは、そんなに恐竜のさわり心地がよかったからだろうか。
「っかし、こんな奴らにいいようにされてるってなると、余計にムカムカしてきやがった」
「ボクたちで、皆殺しにしちゃおっか。手始めにぃ、この三人を」
エメト・アキシオン(えめと・あきしおん)が倒した恐竜騎士団へ近づいていくのを、ノウェムが静止する。
「倒せば風紀委員の資格を失うのです。これ以上は無意味です」
「えぇぇぇぇ、殺そうよぉ」
不満気なエメトだったが、ジガンが次行くぞという声に反応すると、あっという間に倒した三人に興味を失ってジガンのあとを追う。
四人が移動の準備をしていると、遥か上空から鳥とは違う鳴き声が聞こえてきた。見上げると、空に巨大な影が浮かんでいた。そして、それは真っ直ぐジガン達の元へ向かってくる。
「でけぇぞ!」
突っ込んでくるかと思った影は、低空で速度を緩め停滞した。その大きさは、四人の想像よりもさらに一回り大きかった。
「従恐竜騎士を倒した程度でいい気になっているようだな」
巨大な翼竜、ケツァルコアトルスの背中から飛び降りた男が四人を見据えながら言う。
「従恐竜騎士?」
「そいつらは所詮は見習い。もっとも、その見習いを倒して随分と嬉しそうにしていたみたいでは、貴様等の力量など知れるというもの………大人しく連行されるというのなら、命ぐらいは保障してやるが?」
「はんっ、ふざけろっ! てめぇこそ自分の命の心配をしやがれ!」
「そうか。それは良かった。最近は腑抜けばかりでな、少し体が訛ってきていたんだ。そうやすやすと死んでくれるなよ!」
戦いの合図のように、ケツァルコアトルスが鳴き声をあげ、大きく羽ばたきはじめた。
巨大な体で行う羽ばたきで生まれた風は、さながら台風のようだ。それを追い風に、恐竜騎士が一足で飛び込んでくる。
「きゃっ!」
ジガンとノウェムを飛び越え、一番後ろにいたエメトに一撃。風が強すぎて思うように動けない中、恐竜騎士はさながら紙ヒコーキか何かのように風の中を自由に動き回っている。
「ちょろちょろ動き回ってんじゃねぇっ!」
逆風の中、ジガンが飛び回る恐竜騎士を追うが、近づく度に狙ったように強風が吹いてくる。ケツァルコアトルスはもう飛び上がっているため、必要な時に必要な場所に回りこんでは風を作る。
先ほど倒した三人組は連携も何もあったものではない力押しだったが、こちらは人竜一体とも言うべき連携だ。指示を出している様子も見られない。
「ジガン、ここは下がるべきです」
「逃げろだぁ? 冗談じゃねぇ!」
「そうだよぉ、あイつあたしの顔面に膝蹴りしたンだよぅ。このお礼をきっちりしてあげないと、皮を剥ぐだケじゃゆるしてあげないんだからァ」
ジガンはともかく、エメトはだいぶ頭に血が昇っているらしい。
倒すべきではあるが、しかし今の状況は圧倒的に敵の方が有利だ。完全に場を支配しており、これを覆すには風の発生源であるケツァルコアトルスをなんとかしなければならないが、自身が要なのを理解しているのか間合いの外から決して近づこうとしてこない。
なにか手を、ケツァルコアトルスを仕留められなくとも、せめて風が吹かないようにする手立てはないかとノウェムが思考を巡らせていると、出会った時のようにケツァルコアトルスが大きく鳴いた。
「むっ」
風が止み、恐竜騎士が距離を取る。
「仲間が来たか、遊びすぎてしまったようだ。これからが面白いところだというのに………野暮な話だ。残念だが、今日はここまでとしよう。運悪くまた俺に出会ったら、その時は覚悟しておくんだな」
恐竜騎士がケツァルコアトルスの足を掴むと、そのまま高く高く飛んでいく。その姿が完全に見えなくなるまで、そう時間はかからなかった。
「ちっ、逃げられちまったか」
少ししてやってきた夢野 久(ゆめの・ひさし)が、空を見上げながら零す。
「全く、逃げ足だけは早い奴だね」
そう言いながら、佐野 豊実(さの・とよみ)がため息をつく。
「なんだあんたら、あいつと知り合いなのか?」
「知り合いもなにも、あいつせっかく集めた兵隊を壊滅させてくれたのよ。百人近く集まってたのに!」
ジガンの問いに答えたのは、ルルール・ルルルルル(るるーる・るるるるる)だ。
「あいつだけではないが、翼竜に乗った恐竜騎士団の奴らは、人が集まってるところに襲撃をかけてきてやがるらしい。おかげで人の集まりが悪くてな」
「人を集めるとは、何をするつもりですか?」
「極光の谷って知ってるか? あそこで、奴らは自分達が使う恐竜の化石を発掘させてるって話だ。そこを奪いとってやろうと思ってな。そうすりゃ、奴らは恐竜の補充もできねぇし、俺達の力を奴らに見せ付けられる」
「なるほど、そいつも面白そうだな」
「あなた達も仲間になる?」
「けど、俺は誰かに命令されるのは御免だぜ」
「構わないよ。日時を教えよう。どうせ人が集まると奴らに襲撃されるしね」
豊実がジガン達に日程を伝える。
「来るか来ないかは自由よ。誰も来なくても、私達はいくけどね」
「そういう事だ。ま、縁があったらまた会おう」
立ち去っていく久達の背中に向かって、唐突にザムドが声をかけた。
「翼竜は、恐竜ではありません」
「?」
「放っておくんですか、あれ?」
鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)の問いかけに、橘 恭司(たちばな・きょうじ)は、
「その方がこっちにも都合がいい。日時は聞こえたんだろ?」
「あ、はい」
何故この人に仕切られているんだろう、と若干の疑問を残しつつ貴仁はさっきのジガンと久の会話から、カチコミの日時を恭司に伝えた。話を聞くと、恭司は一人考え込みだしてしまい声をかけづらい。
貴仁がキマクに足を踏み入れたのは、観光目的である。そのため、現在この場所が風紀委員と名乗る恐竜に乗った荒くれ者に支配されているなんて話は、ここに来てから知ったのである。
恭司は色々とやる事がある様子なのだが、貴仁は完全においてけぼりだ。この物騒な時期に寝床と食事を分けてくれた恩があるし、悪い人ではないのはわかっているのだが、ちょっと説明して欲しいなぁとは思わないでもない。
「戻ったぞ」
松平 岩造(まつだいら・がんぞう)がそんな二人に声をかける。
「この大きな荷物でいいだよな、ったく人をパシリに使わないでくれるか。こっちも色々やる事があるんだ」
岩造の持った大きな荷物は、金属のケースで見るからに重そうだ。
「中身は一体何だ、これは?」
「トラックの燃料だ。検閲があちこちであったからな、そいつは隠しておいたうちの一つだ。タンクにある分と、それで帰りの駄賃としては十分のはずだ」
「道理で、重たいわけだ………」
「そっちの取材は終わったのか?」
「ひとまず、ってところか。一応は風紀委員だからか、一般人には手を出さないという不文律があるようだ。もっとも、ここじゃ誰が一般人で誰がパラ実生なのか見分けかたなんてあって無いようなもんだがな。物取りや虐殺みたいなことは、今のところはしていないらしい」
「今のところはって、どういう意味ですか?」
「ああ、風紀委員。つまり、恐竜騎士団は十年前にとある国で大虐殺を行ったって話だ。裏は取れてないが、話によると風紀委員が自慢気に語ってたらしいな。言う程のものだったかはわからないが、そういう連中だという事だ」
「さすが、ジャーナリストですね!」
「ん、あ、ああ。仕事だからな」
岩造はぎこちなく笑ってみせる。ジャーナリストというのは、咄嗟に口から出たでまかせだ。
「ところで、お前の仲間が強制労働場に潜入してるって話は本当なのか?」
「ああ、それは間違いない。言い出したのはあいつだしな………。約束どおり、映像データのコピーは譲ってやるよ」
極光の谷は、風紀委員に逆らった者が放り込まれて作業をさせられているという。恭司とこうして、時折お使いを引き受けているのは、その中に潜入した仲間が記録しているという映像データを分けてもらう為だ。
少なくとも見回すだけではそこまで横暴とは言い切れない、むしろ以前より秩序を感じられるキマクの状態では、シャンバラ全体が風紀委員を歓迎しかねない。いいように使われている感じはしなくもないが、風紀委員の本当の顔を晒しているであろう極光の谷の内部の映像は手にしておきたいのだ。
「そうだ、キミ」
唐突に、恭司が貴仁に声をかける。
「あ、はい。なんですか?」
「ちょっと極光の谷の俺の仲間まで伝言頼んでいいか。身のこなしには自信があるんだろ?」
「はい、わかりまし………って、ええええぇぇぇえぇぇぇぇぇ!」
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