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【ニルヴァーナへの道】月軌道上での攻防!

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第九章 目覚め

「皆で……帰る、ぞ。……ん?」
 尋人は、目を瞬かせる。
 白い天井が見える。
 知らない場所だ。
 自宅でも、学校でもない。
「あ……」
 すぐに、気づく。
 アルカンシェル内の、医務室であることに。
 辺りは静かだった。揺れも少ない。
「気づきましたか」
 濡れタオルを持って少女が現れる。
 彼女のことは知っている。
 ゼスタと同じパートナーを持つ、友人の友人。
 アレナ・ミセファヌスだ。
 彼女の微笑を見て、ああ、終わったのだと気づく。
「身体、動きますか?」
 アレナが濡れタオルを差し出してきた。
「何ともない」
 そう強がったが、実際は酷い貧血状態と同じような状態だった。
 ベッドの傍にある大切な剣を引き寄せて、握りしめる。
「あの……顔、拭いた方がいいと思います」
 言いにくそうにいい、アレナが手鏡を渡してきた。
 血でもついているのかと思いながら尋人は鏡を確認した。
「……あーっ!」
 思わず声を上げた後、タオルで顔をごしごしと擦る。
 尋人の両の頬には大きくバカと書かれていた。ゼスタの字に間違いない。
「ゼスタ……っ」
 文字は意外と簡単に落せた。
 怒りも感じたけれど。
 ゼスタが無事であり、悪戯が出来るほど元気だということに気づき、彼を守れたんだと、尋人は理解した。
「心配してましたよ、ゼスタさんも、ご友人も、みんな」
「……皆、無事? アルカンシェルの状態は?」
「契約者の皆さんは、皆、無事です。アルカンシェルは制御室が無くなってしまいましたが、他は大丈夫です。各機器を手動で操作して、飛んでいます」
 宇宙に投げ出されてしまった物と人の回収も済んではいるが……命は戻らなかった。
 反逆者のジェファルコンは殆ど何も残らなかった。残骸のごく一部が発見され、回収された。遺体は発見されなかった。
 そんなアレナの説明に、尋人は大きく息をついた……。

「バカなんだから」
「はいはい」
 亜璃珠ちび亜璃珠の治療を受けていた。
「みんなだいじょうぶだよ、優子もね。意識が戻ったら呼べっていわれたけど、どうする?」
 ちび亜璃珠もちょっとぐてっとしている。
「そう、良かったわ。呼ばなくていいわよ、艦長が……こんなことで、ブリッジを離れるわけにはいかないでしょ」
 亜璃珠は大きく息をついた。
 治療を受けても、完全に治りきらず、身体の節々がとても痛む。
 イコンの一撃を受けて、はるか下の階まで飛ばされた亜璃珠は、遊撃に出ていたアルコリア達に助けられた。
 優子から話を聞き、援護の為に向かっていたとのことだ。
 そのアルコリアは……。
「かわいいあるちゃんとあそぼー」
 医務室できゃはきゃは走り回っていた。5歳児のままの姿で。
 でも、彼女はいつの間にか姿を消していて。
 パートナー達と、宇宙の見える場所に出て、外を眺めながら呟いていた。
「救えるなんて思ってませんよ、救われたなら自ら救われようと努力した結果だと思いますよ」

「お水持ってきました。他に何か必要なものはありますか?」
 アレナは友人達を最優先で治療した後、医務室で微笑みを絶やさずに、皆を世話して回っていた。
 その微笑みは心が温まっていくような、穢れのない優しくて純粋な少女の笑みだった。
「みんな、仲良くした方が嬉しい、んです。笑顔でいられることって、すごく幸せなこと。戦うのは、誰かが、誰かを傷つけない為に、です」
 友人達に、アレナはそう言って微笑むのだった。

 ルシンダは「ごめんなさい」としか言わなかった。
 誰とも目を合わさず――ミケーレとさえも目を合わさずに、龍騎士団の帰還を待ち、合流後は団長の傍を一時も離れずに、ただエリュシオンへの帰還を望んだ。
 からのテレパシーの呼びかけに関しては(何も申し上げることは出来ません。誰かに話せば、広まってしまうものですから……。公には出来ない理由があります)と、返事があった。
 傍で彼女を注意して見ていた者は、なんとなく気づいていた。
 彼女は普段から、感情を殺し演技をしているようであったこと。
 そして自分の意思とは関係なく、時々、何者かの意思で操られているようであったことに。