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【終焉の絆】時代の終焉

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【終焉の絆】時代の終焉
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第4章 語られない真意

 少し前。
 人質が閉じ込められていると思われる第五研究室へ突入するため、国頭 武尊(くにがみ・たける)ジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)は潜入の機会を覗い物陰に身を潜めていた。
 二人のいるところからは事務室の窓が見える。
 そこでは真っ青な顔色の優子がロザリンドに介抱されていた。そのロザリンドも負傷しているのがわかった。
 もう一人、歌菜もいたがこちらも同様だ。
 ラズィーヤと話し合いに出向いたが、うまくいかなかったのだろう。
「ラズィーヤの真意なんて興味ないが、神楽崎をあんなふうにしたのは許せん」
「国頭、余計なことは考えるな」
 様子を覗う国頭 武尊(くにがみ・たける)の傍らには、倒したテロリストの衣服に身を包んだジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)がいた。見張りを一人倒して奪ったものだ。
 そして、二人は開いていた非常口から忍び込んだ。

 それぞれ潜入した契約者達は、第五研究室のある廊下の左右の角から様子を覗っていた。
 レンとセレアナが人質がいると当たりを付けたその部屋の前には、ラズィーヤの姿もあった。
「レンの言った通り、ラズィーヤもここにいたな。探す手間が省けたぜ」
「──国頭、開始だ」
 静かに告げたジャジラッドが、様子を見に来たテロリストを装い廊下に出る。
 近づいてくるテロリストに気づき、ラズィーヤは顔を向けて……。
「あら、どちら様ですの? そのお召し物、ちょっと窮屈そうですわね」
 ジャジラッドの巨体は良くも悪くも目立つ。
 ジャジラッドがニヤリと凶悪な笑みを浮かべた直後、辺りをまばゆい光が覆った。
「光術……きゃあっ!」
「全硬貨命中! 少しは効いたか?」
 武尊はジャジラッドを盾にラズィーヤに見つからないように廊下に出ると光術を放ち、自販機を破壊して持てるだけ持ってきた硬貨を全力で投げつけたのだ。
 コントロール、威力共に兼ね備えた硬貨はラズィーヤの全身を打った。
「クソッ、思ったより効いてねぇな。中に何か着込んでやがるな」
「……ゴホッ、ずい分と、乱暴ですのね……!」
 ヒュッと武尊の頬をかすめたのは、ラズィーヤがドレスのスカートの中に隠し持っていた剣だ。
「どっちがだ。誰も彼もがお前の思った通りに動くと思うなよ」
「ふふっ、それはどうかしら。……でも、そうですわね。あなた達がここにいるせいで、中の人達の寿命は縮んでしまいそうですわね」
「オレの目的は人質救出じゃない。ラズィーヤ……おまえを始末することだ」
 武尊とジャジラッドは攻め込む機を覗った。
 何より、ここにいるのは二人だけではない。
 それを証明するように、もう一方の角から足音を殺して現れたベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が、光条兵器のラスターハンドガンをラズィーヤに向けて構えた。
 最初に撃ったのは、剣を持つ手だ。
 それから、ドレスの裾からわずかに覗くヒールの位置から推測した両足。
 背後からの奇襲に、ラズィーヤは悲鳴を上げて倒れ伏すしかなかった。
 ベアトリーチェは一瞬つらそうに目をそらすが、すぐに気持ちを切り替えてゆっくりとラズィーヤに歩み寄る。
「ラズィーヤさん、どうしてこんなことをしたのですか? わけがあるなら話してください」
「そういえば……あなたのパートナーも、中に……いましたわね。そんなに……死んでほしいんですの……? 何にでも、首を突っ込めばいい……というものでは、なくてよ」
「そうやって隠してしまうから、皆気になってしまうんじゃないですか」
「鈍感な子も……嫌いでは、ありませんわ……」
「ごまかさないでくださいっ」
「……ベアトリーチェ、対話の時間は終わりよ。こうしている間にも、囚われた人達は苦しんでいるんだから」
「ま、待ってセレアナさん!」
「私の邪魔をしないで。邪魔をするのなら、誰であれ排除するわ」
 底冷えのする声で言ったセレアナは、ラズィーヤがまだ動くほうの腕で剣を掴もうとするのを見ると、その腕を踏みつけた。
 骨が折れる鈍い音がした。
「あああああっ。……ふ、ふふふっ。人の忠告には……耳を貸すものですわよ。……本当に、ダメな子達ね……」
 うっすらと笑みを浮かべるラズィーヤの細い首を、ジャジラッドの左手がおもむろに掴みあげる。
 ラズィーヤの顔が苦痛に歪んだ。
「おしゃべりな口だ。それが人を惑わす」
 ジャジラッドはためらいなくその手でラズィーヤの喉を握り潰すと、力をなくした彼女の体を無造作に落とした。
 誰が見ても放っておけば死ぬ状態だった。
「もういいでしょう! 早くこの扉を開けましょう!」
 ベアトリーチェが泣きそうな声で固く閉ざされた扉を指した時、天井付近のスピーカーから優子の切羽詰まった声が響いた。
『そこにいるのは国頭か!? 他の人でもいい、ラズィーヤさんの下着を今すぐ脱がしてくれ! 頼む!』
 声の雰囲気とその内容のちぐはぐさに、誰もが呆気にとられた。
 ただ一人、ラズィーヤだけが口元に笑みを浮かべている。
 もう手遅れだというように。
『ラズィーヤさんは万が一に備えて、情報漏洩を防ぐために下着に自爆装置を仕掛けているんだ。彼女は頃合いになったら自決して扉を破壊するつもりに違いない!』
「ラズィーヤさん、本当ですか!?」
 ベアトリーチェは問いただしたが、喉を潰され、話すことができないラズィーヤは、血まみれの両腕で自身を抱きしめるようにして目を閉じた。
 それが優子の言葉を肯定しているように見えた。
『自爆装置はラズィーヤさんが息を引き取った直後に作動する。それに巻き込まれておまえ達を失うなんて認めない!』
「私が死んだら、セレンも死んでしまう……!」
 自分の死よりも恋人でありパートナーでもある者の死を拒否したセレアナが、いち早く行動に出た。
 ラズィーヤの手を引き離してドレスを脱がそうとするが、死を目前にした者とは思えない力で抵抗してきた。
「あなた達も見てないで早く!」
「……チッ。ぱんつくれても見逃さないつもりだったが……神楽崎にああも言われちゃあな」
「これ使え。テロリストの装備についてたナイフだ」
「借りるぜ、ジャジラッド」
 武尊はラズィーヤをうつ伏せに転がすと、ナイフで一気にドレスを切り裂いた。
「硬貨を防いでたのは金属製のコルセットかよ。締めてるのが単なる紐で良かったぜ」
「急いで、いつ息を引き取ってもおかしくないわ!」
「くそっ、下手に手荒らにして死んだら諸共にドカーンかよっ」
「だから立ち去るように言っていたのですね。離れて、扉を爆破したら人質をすぐに助け出せと……。それとも、こういう展開も想定していたのでしょうか……」
 ベアトリーチェも加わり、手早く下着を脱がせていく。
 さすがにこれではラズィーヤの抵抗も意味はなく、下着はすべてはぎ取られてしまった。
「手間かけさせやがって。おい、ラズィーヤ。何でもおまえの思う通りになるなんて……死んだのか」
「間一髪だったな」
 武尊とジャジラッドのやり取りに、ベアトリーチェが息を飲んだ。
 そこに、テロリストの乱入に備えて見張りをしていたレンがやって来た。
「テロリストが来る気配はもうないな。早く扉を壊そう。全員でやれば何とかなるだろう。……ラズィーヤも馬鹿な奴だ。一人で背負いこんで……」
 レンは、まるで眠っているようなラズィーヤの体に、そっとコートをかけて覆い隠した。
「ベアトリーチェの光条兵器が中心だ」
 ベアトリーチェを真ん中に、契約者達がそれぞれ構えた。
「セレン……今、助けるわ。囚われの姫君なんて、セレンのキャラじゃないでしょう……? それに……そんなに簡単に死ぬような子じゃないでしょう? 勝手に死ぬなんて絶対に許さないんだから……」
「いいか……いくぞ!」
 レンのかけ声で、全員が今出せる最高の力で強固な扉に挑み、破壊した。