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魂の器・第2章~終結 and 集結~

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魂の器・第2章~終結 and 集結~

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 序 空白の1日から混迷の1日へ

「やだ……アーちゃん、ボクは帰らないよ……!」
「グレッグ……頼む……」
「アーちゃん……!」
 空京の住宅地にて、チェリー・メーヴィスに自分が寺院と関係していると聞かされたアシャンテ・グルームエッジ(あしゃんて・ぐるーむえっじ)は今、自分の過去を知る為に動こうとしていた。次々と突きつけられる過去。自分は一体何なのか。
 その答えを求め――そして、この事件の顛末を見届けるために、動かなければいけない。
 ここからは1人で行こうとパラミタ虎に繭螺を送らせ、アシャンテはシャルミエラ・ロビンス(しゃるみえら・ろびんす)を振り返る。
「……シャルミエラ……お前も帰れ……」
 だが、シャルミエラはそれに対して直ぐに反対の意を示した。
「No、帰りません。私にはマスターを護る役目がございます」
「…………」
 アシャンテは彼女を見上げる。その瞳にははっきりと、何を言われても帰らないという意思が表れていた。2人は暫く見合っていたが――
 結局、先に折れたのはアシャンテだった。
「……分かった。一緒に行こう……」
「Yes、どこまでもついていきます」
 アシャンテが歩き出すと、シャルミエラはその後姿を不安そうに見つめた。本人は未だ気付いていないようだが、アシャンテの髪の先が紅く染まりだしている。それは、限界に近い証拠。
(マスターは……私がお護りします)
 シャルミエラは静かに、心中でそう強く思った。

 彼女達は、翌日になって診療所を再訪した。チェリーにもう1度話を聞く為に。
 だが、チェリーは夜に話した以上の事は知らなかった。しかしそのまた翌日、2人は新しい情報を得る――


 1 混迷の1日、後半開始。


 ――ライナスの研究所が狙われる――
 その情報がパラミタキバタンから伝えられたものだという話から、ラス・リージュン(らす・りーじゅん)はこの一件にチェリーが関わっているのではないかと考えていた。チェリーはアクア・ベリルの部下だった。そしてアクアは、ファーシー・ラドレクト(ふぁーしー・らどれくと)を呼び出している。しかも、何か知らないがアクアはファーシーを恨んでいるらしい。
 何とも、ものすごく面倒な事態になっていると感じるのは気のせいだろうか。何故、ここまでややこしくなったのか……何故だろうね。
「モーナさんの依頼、研究所関連のものが多いよね……」
 コネタント・ピーが、メモの内容をパソコンに清書しながら言う。
「これ、狙われてるって情報も付加して依頼の上書きした方がいいんじゃないかな。ライナスさんとパーツ開発したい生徒とか、まさか危険があるとは思ってないだろうし」
「……好きにすれば」
 一方、ピノ・リージュン(ぴの・りーじゅん)はさっきから、エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)に挨拶をして今度遊ぼうとか誘っていた。相手が校長だからか初対面だからか、ピノは敬語交じりにエリザベートに言う。
「はじめまして、だよね! 戻ってきたら、一緒に探索ですよね! よろしくお願いします校長先生!」
「よ、よろしくですぅ〜」
 今回の件がまだ完全に納得いっていないのか(そりゃそうだろう)、エリザベートはもにょもにょと返事をしていた。
「それじゃあ、依頼者名をラス君にして各学園に送っておくね」
「は!?」
 コネタントの話にこれっぽっちの関心も示さずにピノを眺めていたラスは驚いて彼を振り返った。
「蒼学名義で送ればいいだろ!」
「でもほら、これからエリザベート校長と研究所に行くわけだし、発掘にもピノちゃん連れて行くんだよね? 僕達はこの件について詳しくないし、どっちにしろ、集まってきた皆に説明するのは君になるんだよ。同じ名前の方が、その時に分かりやすくないかな」
「だ、だからって……!」
 というか、自分が説明するのか? そんなガラにもないことをするような羽目になっていたのか。いつの間に?
「というか、もう送ったよ」
「…………っ!」
 内心で汗だらだらだったラスは、その言葉で脱力した。説明……まあ、最低限にとどめてやろう。いざとなったらエリザベートに押し付けよう。
「危ない人達の情報、流したんですかぁ〜」
 話を聞きつけて、エリザベートが寄ってくる。何か、嬉しそうだ。
「だったら私、もう行かなくて良いですよねぇ〜」
「いえ、いくらなんでも大荒野までは伝わりませんから……」
 コネタントが言う。依頼を受けた生徒が到着して伝えるにしても、それ相応の時間が掛かる。
「やっぱり、行くんですかぁ〜!?」

                            ◇◇

 キマクの町中、少し外れた通り。
 4階部分の壁が崩れた古いテナントビルの前に人だかりが出来ている。ファーシーの護衛として同行してきた生徒達だ。上空からはまだ、ぱらぱらと砕けた壁が落ちてくる。彼等とファーシーは、地面に仰向けになったアクアの話を聞いていた。それを、静かに見詰めるカラスが一羽。蒼空学園から一行にこっそりと尾いてきていた諸葛亮著 『兵法二十四編』(しょかつりょうちょ・ひょうほうにじゅうよんへん)(以下リョーコ)の使い魔である。首に通話中の携帯電話とボイスレコーダーを提げていた。彼女は隠れてファーシー達の様子を伺いつつ、電話から送られてくる音声から状況の把握に努めている。
 リョーコ以外にも、遠く離れた高所から一対、近くの物陰から二対の眼が彼女達に注目していた。とはいえ、それが誰であるのかを説明するのはまだ早計か。
「あら?」
 生徒達から、彼女のパートナーである風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)が離れていく。ライナスの研究所にいる風祭 隼人(かざまつり・はやと)からの電話を受けてのものだ。通話状況の良いとはいえない弟からの報告を聞き終え、優斗はアクアの語った内容について話をしていく。彼女のこれまでの人生、望む『絶望』――
「それと、アクアさんはそちらに……」
「きゃあ!」
「……!?」
 そこで彼は、悲鳴を聞いて振り返った。電撃を滾らせた長い髪が宙に踊っている。ゆっくりと倒れていく、ファーシー。
「ファーシーさん!」
 電話を切って急いで戻る。目を閉じる彼女の口から言葉が漏れる。
「……たった一言でも、変われるのよ。誰かと一緒に生きていくことで、わたし達は……」

「何だ……?」
 隼人は眉を顰める。ファーシーの悲鳴が、聞こえたような気がした。5000年の時が生み出した、恨み。キマクでは、何かただならぬ事態が起きているようだ。だが、離れた場所に居る自分に出来ることは、彼女の脚が動く方法を模索していくこと。後に来るであろう彼女が、自由に歩けるようになるように。あちらで少々改善も見られたようだが、根本的解決には至っていないという事だった。
「歩行補助装置か……」
 そう呟きつつ、隼人は屋上から降りて研究所内に戻った。

 その頃、ライナスとモーナ・グラフトンの周りには漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)レン・オズワルド(れん・おずわるど)メティス・ボルト(めてぃす・ぼると)が集まっていた。月夜が、ここに来る前に書いてきたレポートをライナス達に見せている。以下が、その内容だ。
『魔法とは、魂が行使しているものだと考えられる。それは魂を原材料とし魂だけの存在と取れる魔鎧が魔法が使える事から間違いないだろう。これを前提に考えるなら機晶石をエネルギー源として使っているものの中で機晶姫だけが魔法を使えるのは、機晶姫のエネルギー源である機晶石に魂が宿っているからだ。
 しかし、魔法を行使する為のエネルギーの伝導を機晶姫の機械の体で行えるのは何故か? 機晶姫に使われている材質は元々そのエネルギーを伝導させる事が出来るからか? それとも機晶石がエネルギーを伝導させる独自の回路を独自に形成しているからか? この問題は今後も研究課題とする』
 ライナスはレポートを読み終わると、難しい顔で詰めていた息を吐いた。
「なるほどな……。確かに、魔鎧は『悪魔が手に入れた他の知的生命体の魂』だと言われている。そして、機晶姫だけが魔法を使えるのも然りだ」
「魔法を使う小型飛空艇なんて聞いたことありませんからね」
「……それはそうだろう」
 モーナの言葉に、ライナスは冷静に突っ込みを入れる。まあ確信犯的なボケなのだろうが。
「しゃべる小型飛空艇というのも……すみません」
 少し調子に乗っていたモーナは、ライナスの冷た〜い視線を受けて首を縮こめた。
「それはともかくだ……。イコンにも『動力』として使っているわけだしな」
「その、レポートの最後の部分……」
 彼が皆に見えるような位置に持っていたレポートの最下部を、月夜は指し示す。ヒラニプラからここに来る道中に聞いた、ファーシーの脚が動いた時の話を思い出しながら。
「もし、機晶石が独自の回路を形成するなら『魂の捩れ』というのはこの回路に異常があってエネルギーの循環が上手くいってない状態だと思う……。そもそもこの考察があっているか分からないけど」
「その辺りは、まだ調べてみなければ判断がつかないな。ファーシーが着いたら調べてみるか」
「ごめんね、多分、それ、無理だと思う。今回に限っては」
 そこで、モーナが言い難そうに手を上げた。
「ファーシーは、空京でそう言われて脚を触られた時点で魂の捩れとやらを治してるんだよ。脚がハネたの、その後だったっていうし。魔法か、一種の整体かは知らないけど」
「魔法……」
「そういえば、月夜は魔法と科学を一つの技術として扱う方法を知りたいって言ってたね」
「そう……。私は魔法を使う為のエネルギーを増幅、制御する為の方法を確立して、今使われている魔法や光条兵器を強化する事ができないかと考えてる」
 月夜はそう言って、自らの光条兵器を取り出した。刀真は、これからも戦い抜く為に強くなろうとしている。それなら、刀真の剣として自分も強くなる必要がある。
「……そして、この『黒の剣』も出来るなら強くしたい。その為の研究の手掛かりをライナスの研究から得られると思った……。だから話をしにきた」
「光条兵器か……。剣の花嫁については私は詳しくは無いが……素人目から見ても、それは難しい事に感じるがな」
 ライナスが困ったように言うと、月夜は光条兵器をしまって頷いた。
「それは分かってる……」
「まあ、もし私の作業の中で何か感じる所があれば幸いだ。だが、期待はしないでくれ」
「剣の花嫁も機晶姫もポータラカが関わっていますしね」
「……君は、さっきから余計なことを言いすぎだ」
 ライナスはモーナを窘めると、話を戻した。
「では、『捩れ』について今回は考えなくてもいいんだな? まあ、私としては魂が捩れたという現象自体に非常に興味を惹かれたからな。今後も研究は続けていくと思うが……」
「あ、はい。だから『捩れ』については……、これまでに全く動かなかった要因の一つとして、それがあったってことじゃないかな。エネルギーの絶対量が足りないってのは変わらないから、そう現状は変わらない。ただ、少し反応が起きるようになっただけで……」
「その『反応』が向こうでは役に立ったみたいだぜ」
 戻ってきた隼人が、そこで話に加わった。『反応』を利用して、歩行補助装置をつけたという事実を報告する。その話に、ライナス達は感心と驚きが入り混じったような表情をした。
「ほう……」
「……歩行補助装置? へー……ちょっと興味あるね」
 モーナはそう言うと、そうそう、というノリで隼人に確認した。
「それで、依頼は各学園に伝わった?」
「ああ、機晶姫用の強化パーツとイコンのパーツ開発に、あの、元巨大機晶姫内の発掘作業だったよな。あと、この近くにある廃研究所の探索についても伝えてきたぜ。人は多い方がいいだろ」
 何だそのついでっぽいノリは、と思いつつ律儀に答える。そこで、レンがモーナに言った。
「俺とメティスは機晶技師の研究所に行ってくる。餅は餅屋というしな。技術に関しては素人が口を挟むものでもないだろうし、護衛も、これだけ多くの契約者が詰めていれば大丈夫だろう。モーナ、構わないか?」
 依頼人である彼女は、それを軽く了承する。
「もちろんいいよ。頼むね」
「分かった……メティス」
 レンはメティスを促し、出入り口に歩を進める。メティスも頷き、彼の後を追った。
「……5キロ程度の距離なら、ヘリファルテを飛ばせばすぐに着くだろう」
「じゃあ俺も……」
 2人に続こうとして、隼人は足を止めた。そういえば、ライナスの出してくれた『機晶姫研究ノート』も未だ全ては読んでいない。もう一度読み直し、把握してからの方がいいのではないか。それに、今さっきの電話を聞いて協力者も追ってくる筈。
 彼等を待つ意味も含め、隼人はもう少し研究所に居ることにした。それに、一つ――モーナに言っておきたいこともある。
 それは――