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これが私の新春ライフ!

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●熱闘! ポートシャングリラ!

 さて再びポートシャングリラに舞台を移す。
 名高きその屋内遊園地には、『新春スペシャル! 新春恒例シャンバラ統一記念SWEタイトルマッチ!!』と書かれた看板が堂々と掲げられていた。その下には特設リングが用意され、白いマットが眩い光を放っていた。そう、プロレスの時間だ。
 まずはじめに賑やかしとして、茅野瀬衿栖による獅子舞がマット周辺をくるくる巡業した。噛まれた人は厄払いだ。
 そして客電が落ちた。ぱっ、とマットがライトアップされる。
「レディーーース・エンド・ジェントルメーン! 本日はポートシャングリラ特設リングへようこそっす! ただ今より『新春スペシャル! 新春恒例シャンバラ統一記念SWEタイトルマッチ!!』を開催致しまーす!」
 実況役、藤 凛シエルボ(ふじ・りんしえるぼ)が雄叫びを上げた。本来は照れ屋で寡黙な彼なのだが、プロレスの時だけは、別だ。
「さあ、本日はわたくし、藤凛シエルボが実況、解説は……」
フィーサリア・グリーンヴェルデ(ふぃーさりあ・ぐりーんう゛ぇるで)でお送りします」
 実は彼女、ノリノリの凛シエルボとは正反対でプロレスには興味がなく、内心気乗りしていないのだが、役割は役割、それなりにトークする気だけはあった。
「さあ、選手の入場っす!」
 赤コーナー、両手を挙げた状態で、目の辺りだけ隠す黄金マスク、そして白いコスチュームの女子レスラーが登場した。
「来た来たッ! やって来たッ! 正義の白百合、輝ける空中殺法! 伝説を継ぐ者! リリーマスクッ3号おおおッ!!
 その正体はレロシャン・カプティアティ(れろしゃん・かぷてぃあてぃ)だ。しかし、現在は役になりきっているのでリリーマスク3号と呼ぼう。
「経歴を読み上げるっす。『伝説の正義百合戦士、リリーマスク1号の子孫だと言われている華麗なる正義レスラー。キレのある投げ技、激突技には定評があり、必殺のビッグアホ毛ラリアットは抜群の破壊力を有する』とのことです! いかがっすか、フィーリアさん!?」
「えーと、正義のヒロインということですので、正々堂々たるファイトを見せてほしいですね。大技も楽しみです」
 善玉レスラー(ベイビーフェイス)ゆえか観客は大きな声援を彼女に送った。 
 そして青コーナー、右腕を振り上げ、黒いマスクに黒コスチューム、謎の覆面女子レスラーが登場した。
「なんだこの黒いオーラは! 迫り来るは暗黒星雲からの侵略者! ブラァァック★ボールキッカァアアアッ!!
 正体はネノノ・ケルキック(ねのの・けるきっく)なのだが今はただ、ブラック★ボールキッカーと呼ぼう。
「こちらの経歴は……『正体不明の機晶姫レスラー。冷血クールにして頭脳明晰、まるで一切感情を持ってないかのような戦闘マシーンで、容赦のない攻撃をする。蹴り技が得意』とあるっすね! フィーリアさんコメントを!?」
「……足に気をつけたいレスラー、といったところでしょうか。残虐ファイトが飛び出すかと思われます。怖いですね」
 登場するや否や、ものすごいブーイングがブラック★ボールキッカーに飛んだ。悪役レスラー(ヒール)にとっては、ブーイングこそが名誉、彼女はコーナーポストに登るやブーイングに対し「KILL!」と首を掻き切るポーズを取って、さらに会場を熱くさせた。
「さあ、ゴングです!」
 両者じりじりと近づいた。しかし静かな時間はごくわずかであった。
「今すぐ棄権するがいい……。死ぬぞ……」
 ブラック★ボールキッカーが冷たい言葉を吐いたが、 
「成敗して差し上げますわ」
 すぐさまリリーマスク3号、言葉と同時にチョップ攻撃を繰り出した。受ける。受ける。受ける。三回チョップを受けるもブラック★ボールキッカーは動じず、逆にローリングソバットをリリーマスクの胃の腑に決めた。
「くっ」
 軽くダウンするがすぐにリリーマスク3号は立った。即、組み付いてボディスラム、一撃でマットを揺らした。ところがブラック★ボールキッカー、綺麗に受け身をとって今度は、リリーマスク3号をロープに飛ばしたのだ。ロープに飛ばされて、ちゃんと帰ってくるのがプロレスの『熱さ』、戻ってきたリリーマスクにボールキッカーが蹴り技、今度も綺麗に決まった。さらに倒れた相手に飛びかかると、
「これぞブラック★レッグブリーカーでござーい!」
 強烈な関節技を決めたのだ。
「ゲエー! これは痛い! 痛いっすよ! リリーマスク3号苦悶の表情、これは決まってしまったっすかー!」
 マイクスタンドを握って凛シエルボは真っ赤な顔で叫んだ。一方フィーリアは、
「いいんじゃないですか」
 とクールなのであった。
 ここでリリーマスク3号、ロープブレイクで逃れた。ところがそのままリングから転がり落ちて、
「くそ〜、ぶっ殺してやるです〜!」
 なんとパイプ椅子を手に戻ってきたのだ。それがベイビーフェイスのやることか。
「オラオラー!」
 リリーマスクはボールキッカーを椅子で滅多打ちにした。ふらふらになった相手に、
「食らって吹っ飛ぶですー!」
 口汚く罵り、角のようなアホ毛を伸ばした。
「あーっと、リリーマスク3号、ボールキッカーの首をアホ毛でロックしたーっ!」
 そして、
「投げたー! 投げっぱなしジャーマン! これは大変危険な技っす!」
「おー、これは決まったでしょう」
 放送席はといえば、エキサイトしっぱなしの凛シエルボ、ますますやる気のなくなってきたフィーリアという図式である。
「それにしても何という凶悪非道! リリーマスク3号、凶器攻撃をためらわないっすね。しかもまた、倒れた相手にパイプ椅子攻撃を決めまくってるっす! これにはさすがにブーイングが飛んでるっすよー!」
 ところが、
「ワタシは負けない……。絶対に」
 ブラック★ボールキッカーが立ち上がった。静かな怒りを胸に秘め、ドロップキックでパイプ椅子ごとリリーマスク3号を吹き飛ばしたのである。
 そこから、壮絶なファイトが展開された。互いに死力を尽くした持ち技の掛け合い、場外乱闘すら経て、逆転に次ぐ逆転劇が行われたのだった。リリーマスク3号は反則を容赦なく食らわせるも、あくまでブラック★ボールキッカーはクリーンファイトに徹した。当然、ボールキッカーのほうが被害が大きい、しかし、
「B★BK! B★BK!」
 これは観客席からのコールだ。いつのまにか観客は、クリーンファイトのブラック★ボールキッカーの味方になっていたのである。
「み、みんな……ありがと……」
 ブラック★ボールキッカーは声援を浴び、はらはらと落涙した。そして、
「機晶姫にだって魂はあるんだーっ!」
 マイクスタンドを奪い取って殴ろうとしてきたリリーマスク3号に、ボールキッカーは強烈、延髄斬りをかけてその企みを粉砕した。さらに立ち上がらせて、リリーマスクの両腕を取ったのである……アホ毛で。
「あーっと、あれは人間風車ダブルアーム・スープレックスっすか!? いや、ちがう! アホ毛で行っているからダブルアホ毛・スープレックスっす!!」
 凛シエルボは絶叫していた。自分のマイクが奪われたので、フィーリアのマイクで絶叫していた。
「おーすごいすごい……あ、ところでレスラーは特別な訓練を受けてるからこんなことができるんですよ。良い子は絶対にマネしちゃダメですよー」
 隣の席では、フィーリアがぼんやりと独言していた。
 これは、決まった。投げられたリリーマスク3号は起きあがれずカウント3、かくてブラック★ボールキッカーの勝利で試合は幕を閉じたのだった。