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バレンタイン…雪が解け美しき花びら開く…

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第5章 お〜いで、こっちのミツも甘いよ〜

「ミツバチが誘う植物園・・・ここみたいだね」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)はマップを手に探し、花から蜜を取っている可愛らしいミツバチが描かれた看板を見上げる。
 頭にはクナイ・アヤシ(くない・あやし)からもらった獣耳の形をした黒い帽子を被り、キョロキョロと辺りを見回す度に耳がフリフリと揺れる。
 カーキーカラーのフードつきトレーナーの上に、暖かそうなブラックのハーフコートを着て、黒のカーゴパンツを穿いたスタイルだ。
「春といってもやっぱり寒いですね」
 ひゅうっと吹く風に震えたクナイが、黒いフリースのタートルネックの上に着た白のゴングコートの端を掴む。
 風邪をひかないように暖かそうなブラウンのコーデュロイパンツを穿いている。
「ちょっと屈んで」
「はい。―・・・こうですか?」
「うん・・・。巻き直したよ。マフラーが取れかかってたね」
「ありがとうございます、北都」
 彼からもらった白いマフラーを大事そうに片手で撫でる。
 鮮やかなイエローグリーンの花の蔓の形をした門をくぐっていく。
「あの花、何かな?キレイだねぇ」
 北都が見つけたその花は細長い花びらと、短い花びらが順番に咲いている。
「Edelweiss・・・エーデルワイスって花みたいですね」
 木目柄の小さなプレートを見下ろしたクナイは、確認するようにその名前を繰り返し読む。
「これは花びらじゃないみたいですね。総苞・・・つまりは葉です」
「えっ、そうなの!?」
 美しい純白の花びらに見えたそれが葉だと聞き、北都は思わず大きな声を上げてしまう。
「頭花の真ん中にあるのか雄花で、周りにある小さいのが雌花みたいですね」
 プレートの文字をゆっくりと読み上げて北都に教える。
「へぇ〜この部分が花なんだね」
「開花の時期はまだですけど。2月の花言葉には含まれているようですからね」
「そうなんだ?」
 話を聞きながら北都は首を傾げ、蝋で作られた本物でない葉の先につんと触れる。
「これは本物の花みたいだね。―・・・ミツバチがきたよ、ソリットビジョンだねこれは」
 レモンのように爽やかなフリージアの香りを楽しんでいると、絵本の世界にいるようなミツバチが飛んできた。
 ソリットビジョンのオレアリアの花に止まり、小さなバケツにたっぷりと蜜を汲んでいる。
「何だか甘い匂いがするよ。本物じゃないのに不思議だね・・・」
 蜜を入れたバケツを両手で持ち、ミツバチは北都の目の前を飛んでいく。
「まさかと思うけど、本物なんて飛んでないよね」
 周りに飛んでいるミツバチに紛れていないか警戒する。
「セルフサービスの蜜をもらってきましたよ」
「パンにつけて食べるのかな。いただきます・・・はむっ。うん、えぐみがなくて美味しいっ。これってちょっとしかもらえないのかな?」
「他にも来る人が沢山いるみたいですからね。仕方ないですよ、北都」
「う〜ん、そうなんだね。あれ・・・ハチがこっちに飛んでくる。さっきのと違ってずいぶんリアルだね・・・」
「それは本物のミツハチですよ!」
「えぇええ!?虫嫌いっ、こっち来ないでーっ」
 北都は突然現れた大嫌いな虫を見た北都は、クナイの懐に顔を伏せてしがみつく。
「大声を出してしまうと攻撃されると勘違いされて向かってきますよ!」
 抱きとめたクナイは慌てて北都の口を片手で塞ぎ、彼が刺されないようにそっとその場を離れる。
「離れましたから、もう大丈夫ですよ」
「ぷはぁ〜、びっくりしたーっ。(まさかまたどこかにいないよね!?)」
 手を離してもらい大きく息をすって、近くに他のハチが潜んでいないか小動物のようにオロオロと周囲を見回す。
「よかった・・・もういないみたい」
 危険な生物がいないと分かるとクナイから離れる。
「―・・・そろそろ出ますか?」
 怯えていた北都がすぐ自分から離れてしまい、残念そうに思いながらも微笑む。
「うん、そうだね」
「次はどこへ行きたいですか?」
「観覧車に乗りに行こう」
 先に待っている人々の後ろに並び、50分ほど順番を待ち観覧車に乗る。
「ライトアップされた夜景もいいけど、こういう風景もいいね・・・」
 窓の向こうに見える夕日が沈み、雲がピンクからグレイッシュパープルに変わっていく景色を眺める。
「そうだ・・・!渡しそびれるかもしれないから渡しておくね。はい、これ」
「―・・・もしかしてバレンタインのチョコですか?」
 箱の中を見ると羽根を象ったホワイトチョコレートが入っている。
 北都は他のパートナーの分も用意してあるのだけど今年は彼の分だけ特別に作った。
「ありがとうございます」
 チョコのお礼に北都の頬に軽くキスをし、そのまま首筋に唇を落とす。
「え?クナイ、ちょ・・・っと、くすぐった・・・・・・んっ」
 吸血幻夜を使えない守護天使の彼が、どうして首筋にキスをしたのか分からず戸惑う。
「え、ちょっと・・・。すぐ下に着いちゃうから・・・っ」
 クナイの右手が服の裾から忍び込んで脇腹を撫でられ、慌てて北都がストップをかける。
「別の場所でなら、続きをしてもいいですか?」
「か、考えておく・・・」
 彼にそう耳元で囁かれ、ぽつりと小さな声で呟いて身だしなみを整える。
 戸惑いの表情はあったが、それが拒絶じゃないと分かりクナイはほっと息をつく。
 観覧車から降りた北都は、暖かいところから肌寒い外へ出たから少しくらい顔が赤くても、周りの人にはばれないだろうと平静を装う。
 しかし北都の首筋に付けたキスマークが、後ろを歩くクナイからしっかりと見える。
「(どうやらまったく気づいていないようですね、フフッ)」
 そのことを彼に教えず、黙ったままクスリと微笑んだ。