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プリズン・ブロック ~古王国の秘宝~

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プリズン・ブロック ~古王国の秘宝~

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ロイヤルガードとカリアッハ


 ロイヤルガードによる魔女カリアッハの取調べが行なわれる。
 魔女は外界から遮断された特別房で、蜘蛛の巣のように部屋中に張り巡らせた封印帯に縛られていた。
 そこに集まったのはクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)樹月 刀真(きづき・とうま)漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)
 またカリアッハの監視にあたる看守の中には、同じくロイヤルガードの真口 悠希(まぐち・ゆき)の姿もある。
 このうちクレアは二度目の接見だ。
 看守が壁の石仮面に命じて、カリアッハの目隠しや口かせを外す。
 幼い容姿の魔女は、クレアを見て、けたたましく騒ぎだす。
「死んだでしょ?死んだでしょ?死んだでしょ?死んだでしょ?死んだでしょ?死んだでしょ?ざまぁざまぁざまぁざまぁざまぁざまぁざまぁざまぁざまぁざまぁざまぁざまぁざまぁ」

 以前にクレアが訪れた時の事だ。
 クレアは「退屈してるんだろう?」と挑発とも取れる言葉をカリアッハに向けていた。しかしカリアッハは聞いているのかいないのか。
「探してるんでしょ、乳蜜香。あれは──」
 自分から勝手に、秘宝の隠し場所についてベラベラとしゃべった。
 クレアはそれが本当だとは思わなかったが、念のために、その場所について報告をあげた。
 場所はヒラニプラの荒地。
 教導団は近くで訓練をしていた部隊に、その場所の確認をするよう命じた。
 カリアッハが言った通りの地形を見つけ、地面に秘宝が埋まっているかどうかを確認する為、その場所を掘った。しかし出土したのは暴走ゴーレムで、二十人余りの兵士が死傷した。

「いいや、我が軍の兵士は優秀だからな。被害は軽微だった」
 クレアはしれっと嘘をつく。カリアッハのわめく内容が変わった。
「嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき五人死んで、残った奴も頭陥没したり、腕ぶっちぎれ、ざまぁざまぁざまぁざまぁざまぁざまぁざまぁざまぁざまぁざまぁざまぁざまぁざまぁざまぁ」
 クレアは表情に出さないように努めるが、カリアッハが死傷者の内訳を知っている事をいぶかしんでいた。
 一部の囚人には許されている新聞やテレビの視聴、読書なども、カリアッハは許可されていない。
 看守が彼女に与える情報も最低限に限られている。
 まれに囚人が忍びこむ事があったとしても、カリアッハは色々と知りすぎではないだろうか。
 やはりその事を不思議に感じていた悠希が、魔女に聞いた。
「カリアッハさまは千里眼の持ち主なんでしょうか?」
「教えてほしけりゃ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ」
「交渉には応じない」
 悠希が応じる前に、クレアがぴしゃりと釘を刺した。
 刀真が、わめき続けるカリアッハに話しかける。
 これまでのやり取りで、そうは見えないがこちらの話を聞いているのは分かっていた。
「俺は、樹月刀真という。
 俺にとって『殺す』という行為は、目的を達成する為の手段の一つだ。護りたい人の身を脅かすものを殺し、やりたい事をやる為に障害を排除し、二度と同じ事が出来ないよう殺す。
 そして今まで殺してきた者達の命とそれに関わるはずだった未来、『己の罪』を無かった事にしない為にやはり殺し続けている……今、殺すのを止めたら、今まで殺し背負っていると自負している命が
『俺達を殺したのに、そいつは殺さないのか?』
 そう問いかけてくるだろう。
 だから敵は殺す。そう決めている……その果に己の終焉だけしかないとしても止まる事はあり得ない」
 刀真が話すうちに、カリアッハはわめくのを止めて、興味深そうに彼を見つめていた。
 魔女のぎらつく瞳に、刀真の横に控える月夜は不安を覚える。
 だが刀真は気にした様子もなく、話し続ける。
「実際、俺はハルカという女の子を守る為に、彼女の祖父を殺した。
 そして、守りたかった御神楽環菜(みかぐら・かんな)という人を守れず、目の前で殺された。……それを実行したパルメーラ・アガスティア(ぱるめーら・あがすてぃあ)を俺が殺したいと思っている」
(刀真?!)
 月夜は驚き、魔女から彼へと視線を移す。
(そんな事を考えているなんて、始めて聞いた……)
 さらに驚く事に、カリアッハが刀真に対して、ちゃんと答えた。
「それはいいね。でも強い個体どうしが殺しあっても、結局誰も死ななくてつまんない事になるから、そいつと関わりのある奴を皆殺しにすればいいのに。弱い奴を殺しまくるの、楽しいわよ」
 月夜は、刑務所に残されていた記録との符号に嫌な予感を覚える。
 カリアッハについての記録で現代まで残っている物は、古文書や石版ばかりだ。それも古代の記録を残す為に、転記された記録である。
 カリアッハは強大な力を持つが、強い者は相手にせずに、とにかく一般の民を狩りまくった、とあった。特に「保護するべき存在」とされている者──たとえば子供や老人や病人、避難民などの弱者──を、好んで残虐に殺すと記録がある。
 その被害者はパラミタ全土に広がり、数十万とも数百万ともさらに多いともつかない。
 もっとも記録に携わった昔の看守が、それら記録に「?」だの「物語的誇張と思われる」などと注釈を書き込んでいた。
 また古文書には、カリアッハの攻撃方法や出自などは、まったく残されていない。ただ「カリアッハなる魔女は、殺すと言えば殺してしまう能力の持ち主」と書かれているだけだ。
 十年前前後の日誌などによれば、パラミタと地球が繋がる前はカリアッハはほぼ眠ってばかりだったが、繋がって以降は活動的になり封印が緩みそうで危険だ、とあった。
 月夜はコンピュータ系の技能で記録をさらに集めようとしたが、ごく最近パラミタに持ち込まれたコンピュータ内にある情報など限られたもの。カリアッハのような数千年前の囚人に関わる記録は、まだ項目すら作られていなかった。

 月夜の当惑と不安をよそに、刀真は問いかけた。
「カリアッハは何を思って殺している?
 そこにあるのはただ殺すという行為による娯楽か、全てが敵に見え恐怖から己を守る為の防衛か、それとも死なない己を殺してくれる誰かがほしいという欲求か?」
 殺人狂の魔女は、ふたたび彼に応える。
「あたしは殺す為の存在だもの。パラミタの奴ら、シャンバラだろうがエリュシオンだろうがマホロバだろうがザナドゥだろうが皆殺し皆殺し皆殺し皆殺し皆殺し皆殺し皆殺し皆殺し皆殺し」
 剣の花嫁である月夜は、カリアッハの言葉に引っかかりを感じ、聞いた。
 それにこれ以上、刀真をカリアッハと話させせておきたくない。
「あなたは、創られし者?」
「魔女なんて、ぜんぶ出来の悪い作り物じゃないの。早く殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ」
 月夜はしばし考える。魔女も、剣の花嫁や機晶姫と同じという事なのか? もっともカリアッハの言葉や知識が合っているとは限らないが。
 月夜は他の者が聞いていないようなので、カリアッハに質問した。
「アルサロムについては知ってる?」
「ブラキオの人形でしょ。殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ殺させろ」

 それからロイヤルガード達はカリアッハへの接見を続けたが、これと言って引き出せる物はなかった。