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リアクション
9.増改築をしよう その3
一方で建物ばかりでなく、付帯施設を充実させようという動きもある。
つまり、共同浴場の「露天風呂化」――。
特に女の子は心待ちにしている、大きなお風呂の改築結果。
■
現場担当者に名乗りを上げたのは、以下の6名である。
施工担当:
椿 薫(つばき・かおる)
姫宮 和希(ひめみや・かずき)
ガイウス・バーンハート(がいうす・ばーんはーと)
レイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)
図面引き、温泉の温度調節機構の製作担当:
閃崎 静麻(せんざき・しずま)
クリュティ・ハードロック(くりゅてぃ・はーどろっく)
「じゃ、話はまとまった。
オーナー達と話をつけてくるぜ?」
静麻が資料をまとめて、オーナーと、増改築総監督であるラピスに申請して許可をとる。
そうして、この一大改築計画は、幕を開けたのであった。
■
「じゃ、水源の確保が必要かな?
温泉でも掘り当てられりゃいいんだが……」
「それについては、俺に考えがある」
とは、静麻。
頭を悩ます和希や、ガイウスらに助言する。
「俺は、前回調べたからな。
おおよその目星はついている。
巧く行けば、温泉も掘りあてられるかも? だ」
「なに? 温泉」
マレーナ思いのガイウスは、身を乗り出す。
日々我々の為に働く管理人さん。
せめて、広々とした湯船につからせて、一日の疲れを癒して差し上げたいものだ、と。
「ガイウスってば、ホント不器用だよな!」
和希は困ったような笑みを浮かべつつ、で、と静麻に続きを促す。
静麻の研究成果は以下のようなものだった。
このシャンバラ荒野は、火山もあるくらいの土地だ。
その地下には当然、温泉があっても何らおかしくはない。
そして調べたところ、どうやらこの風呂場の近くが怪しそうではある、と――。
「あとは、腕次第ってわけさ」
「なるほどな」
「なるほどでござる!」
和希と薫は同時に頷くと、仲間を連れて、早速共同浴場の辺りを探索し始めた。
施工担当の4人の背に、思い出したような静麻の声が投げかけられる。
「そうだ! 和希。
水源を掘り当てる時、急に水が噴き出すからなぁ。
水濡れに注意して、水着を着てきたほうがいいぜ!」
だが、和希はその言葉をガン無視するのであった。
「俺は気にせず、いつもの格好で行くぜ!
服が水ではりつこうが、そんなこと知ったこっちゃねぇからな!」
温泉、もしくは水源の探索は、和希にゆだねられた。
イリヤ分校で砕音に井戸掘りの授業も受けたこと。
百合園の特別授業で、温泉整備工事の経験があること。
以上が主な理由だ。何事も経験豊かな者に託した方が、望ましい。
このうち、水源については月読司が既に掘り当てている。
「となると、出来れば温泉を探り当てたいもんだな」
和希は祈るような思いで、得意の地質学を駆使して、一体の土地をくまなく調べる。
「この辺りかな?」
前回の静麻達の調査データも合わせると、どうやらあやしいような気もする。
「取りあえず、掘るだけ掘ってみようぜ!」
駄目で元々。
それに、すでに温泉以外の水源は確保されているのだ、という気楽さもある。
「ドラゴンアーツでも使ってみっか?」
やっと、足下の地面を砕く。
「あ、僕も手伝います!」
取りあえず、スコップ片手にやってきたのは、後田キヨシ。
「よ! のぞき野郎!
心入れ替えて手伝うってのか? 助かるぜ!」
にぃっと和希は笑った。
前回ののぞきを不問にふす代わりに、風呂の手伝いをするよう誘ったのだ。
(本当は、パラ実生徒会長職とか、ロイヤルガードの権限とか使ってさ。
のぞき連中に号令をかけたかったんだけどさぁ……)
マレーナの淡々とした様子が浮かぶ。
「すんでしまったことですもの。
罪は夜明けと共に、洗い流すものではなくて?」
ようするに、細かいことは気にしない、とマレーナはそう言いたいらしい。
(でも、のぞきって「細かいこと」なのか?)
女にとっては、とても重要なことではなかろうか?
……という雰囲気を漂わせていたところ、キヨシが「手伝う」旨を申し入れてきたのだった。
つまりは、「目は口ほどにものを言って」いたらしい。
せいっ!
最後の一発で、しゅうううっと蒸気が噴き出し始める。
「あと一息だな!」
「もうちょっと、スコップで頑張ってみるよ!」
キヨシがピンポイントでサクッと掘削する。
プシュプシュッ!
小さく水がしみ出てきた。
湯気が立つ。
「温泉だ!」
一同がわきかえる。
「俺の『地質学』、役に立ったな!
それから、静麻の研究成果も!」
嬉しそうに和希は片腕を振り上げる。
「最後に一発かますぜ!」
ドゴンッ!
ドラゴンアーツの一発で、地中の温泉は勢いよく噴き出したのであった。
「だが、こいつは高温泉だな。
このままじゃ入れないぜ!」
「温度調節機能か……任せておけ!
井戸水を引く、この竹の水路が役に立つだろう」
「待てよ! 静麻。
わざわざ掘り当てた温泉に、井戸水を混ぜちまうのか?」
「そうじゃないぜ」
静麻は図面を広げる。
「こういう機械で、温度調節しようと思ってな」
そうして見せたものは、チョット大がかりなものだった。
「熱は熱い所から冷たい所に移るから、温泉の水と掘り当てた水を隣接させれば、温泉の温度が下がるはずだ。
後は仕切りをはめ込んだりして、温泉と普通の水を自在に近づけたり離す機構も組み込めば、温度調節はなるだろ?
温泉の引き込みは、自動で組み上げるポンプと目的地に向かわせる地面埋め込み式パイプを使えばいいさ」
「まぁ、それはそうだが。
問題はその仕組みをどうやって作るか? だな」
「こうすればよいでござるかな?」
遠慮がちに申し出たのは、薫。
「いまあるドラム缶を使用するでござるよ」
「は? ドラム缶?」
「そうでござる」
薫は頷く。土木建築の知識を用いて。
「その中に仕切りをして、静麻殿が話された機能を設けるでござる。
しかる後、ちょうどいい具合に冷やされた温泉を、ドラム缶に開けた下の穴から、湯船に引くでござる。
ドラム缶群は2箇所あるので、交互に行えば入浴タイム中は困らない量かと――いかがでござるかな?」
なるほどな、と一同は頷く。
「そうと決まれば、次は露天風呂をつくるでござるよ!
石を運んで、ドラム缶の底より低い位置に掘って作るでござる」
「わかりました。
力仕事は私も得意です
引き受けましょう」
レイナが協力を申し出る。
「では、例のへんてこな装置は、私の担当でしょうか? 静麻」
クリュティは腕まくりをする。
「では、拙者は手頃な石で、湯船を造るでござる」
薫は大きな石を集め始める。
ガイウスはキヨシと共に、黙々と湯船用の穴を掘っている。
100人入れる! とまではいかないが、30人ぐらいは入れる大きさのものだ。
そこへ石を集めてきたレイナと薫があらわれた。
手際良く石造りの大きな浴槽を組み立ててゆく。
「できた!」
薫達は満足そうに頷いた。
温泉を張った、ゆったりとした浴槽だ。
「1つしかないから、男女の交代時間は、管理人さんとオーナーさんのじゃんけんで決めるでござるかな?」
だが、本日は初日のうえ、根回しがない。
当面のところは、レディファーストで行った方が、無難と言えば無難そうだ。
薫達が浴槽に気を取られている間に、露天風呂の周囲には風情ある日本庭園が出来ていた。
ガイウスの手によるものだ。
土木建築の知識を駆使したらしい。
特に風呂を囲む軒や壁は、厚く高くなっている。
これではチョットやそっとのことでは、外部からののぞきは難しい。
(女王の就任で大荒野も再生し、シャンバラの中枢になっていく筈。
その時にここは温泉旅館としてやっていけば、
マレーナの収入も増えていいのではないか?)
そのことを、ガイウスは後程マレーナに申し出て、彼女から深々と感謝の意を表させるのであった。
「協力を惜しまないつもりだ……マレーナ」
マレーナは暫し困惑気味にガイウスを眺めていたが、彼の純粋な気持ちだけは受け取ったようだ。
■
温泉露天風呂が完成して、風呂場も修復された。
しかも、高い障壁などののぞき対策つきだ。
完成して一番喜んだのは、マレーナをはじめとする、下宿の女学生たちだった。
彼等は何度も「ありがとう!」と感謝されることとなる。
その一方で。
総ての図面を手にしている静麻だけは、女学生らの言に耳を傾けず、日々図面を開いて、想像の翼を羽ばたかせるのであった。
「よし! これでのぞきポイントはカンペキだ。
あとは次回、いかにして実行に移すかだが……」
彼の壮大な計画は、3回目へと続くのであった。
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