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第50章 応援

「実は、お返しはもう用意してあるんだ。けど、なかなかタイミングがなー。代わりに渡しておいて、とかダメ?」
「ダメに決まってる」
 皇 彼方(はなぶさ・かなた)の言葉に、アイナ・クラリアス(あいな・くらりあす)はきっぱりそう返した。
 それはテティスへのバレンタインのお返しはどうするのかとの問いに対する答えだった。
「用意してあるのなら、あとは渡すだけじゃない。お勧めのスポット教えてあげるから、テティスを誘って行ってらっしゃい」
 ホワイトデー大感謝祭のパンフレットに、アイナはマジックでいくつかしるしをつけると、彼方へと差し出した。
「う、うん。ありがと。……ポストに入れておくとか、ダメかな?」
「ダメよ、ちゃんと手渡しで渡さないとね!」
「だよな……」
 彼方はぽりぽり頭を掻きつつ、テティスを迎えに向かった。
「……さて、隼人、上手くやりなさいよ〜」
 アイナはビデオカメラを手に、こっそり彼方を尾行する。

 ロイヤルガードの仕事で、空京に行く。だから付き合って。
 そんな風に、彼方はテティスに声をかけて、空京へ誘った。
「ええっと、あっちの方にカップルが集まってるみたいだぜ!」
 彼方はアイナに教わった、お勧めスポットに不器用にテティスを誘う。
「ええ……」
 この場所に誘われたことに、淡い期待感を抱いているテティスは、いつもより口数が少なかった。
 手を繋いだりもせず、必要以上に近づかない、友達の距離で2人は歩いていた。
 と、その時。
「待て! パラミタの文化を汚すものよ!」
 男の声に響いた。
 並んで歩いていた彼方とテティスが振り向くと――犬の着ぐるみを着た男がびしっと自分達を指差していた。
「ワン!」
 さらにその男は、本物の犬をも連れていた。
「なんだ、突然!?」
「何の用?」
 彼方とテティスは軽く身構える。
「日本式ホワイトデーなど、パラミタ文化を侵す危険なもの。ホワイトデーなど我々【日本文化禁止委員会(自称)】が撲滅してくれる!」
 言った途端、男は連れている犬と共に、2人に襲い掛かっていた。

 敵が現れた!
 どうする!?

「空京なんだからいいだろ!」
 彼方の攻撃!
 着ぐるみ男は突き飛ばされた!
「ホワイトデー……私はあってほしい!」
 テティスの攻撃!
 ペット犬は払い飛ばされた!

「くっやるな!」
「クゥン……」
【日本文化禁止委員会(自称)】は彼方達との戦いを勝利させた。

「我々が負けるとは……やっぱり某キャラクエをパクッてはいけなかったかな?」
 【日本文化禁止委員会(自称)】は謎のセリフを残し去っていった。

「……なんだったんだ」
 彼方は訝しげに首を傾げる。
「何か落としていったわ」
 テティスがドロップアイテム?を拾い上げて、彼方に渡す。
「こ、これは……」
 本だった。
 表紙には『恋愛指南書』と書かれている。

「あー、なんだか良く解らんが、証拠品として持って帰らないとな!」
 彼方は何故か赤くなりながら、その本を懐の中にしまった。
「恋愛……ホワイトデー」
 テティスが小さく呟く。
「ん?」
「彼方も、ホワイトデーいらないと思う?」
「ど、どうかな……。でも今は、あってほしい、ような」
 彼方は目を逸らして、しどろもどろ言いながら。
 本の代わりに取り出したものを、テティスの方へと向けた。
「バレンタインには、ありがとう」
「うん。……ありがとう。とても、嬉しい……」
 テティスは彼方からの贈り物を両手で受け取って、胸の前で抱きしめた。
「それじゃ、行くか!」
 彼方はぎくしゃく歩き出す。
 テティスも一緒に歩き出す。
 肩を並べて。
 まだ、手は繋いでいないけれど……。
 2人の距離は少しだけ、縮まっていた。

 着ぐるみを着た男――風祭 隼人(かざまつり・はやと)は、ペットのハヤテと共に、パートナーのアイナの元へと戻った。
「お帰り。少しは成果あったかもね」
「ああ……。なんか初々しっていうか……妬ける」
 テティスと彼方をビデオカメラに収めていくアイナの後ろから、隼人は2人をそっと見守る。
 妬けるといっても、テティスに何らかの感情を抱いているわけではない。
 デートをしたい相手と会うことができない隼人は、彼方とテティスにも、他のカップル達も羨ましいのだ。
「側にいられる時間を、無駄にすんなよ……」
 小さく呟きながら、見守り続けた。