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第8章 狙い定めて

「あ、ミルフィ見て見て、素敵なワンピースです♪」
「まあ、素敵なワンピース、お嬢様にお似合いですわ♪」
 神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)と、ミルフィ・ガレット(みるふぃ・がれっと)も空京のホワイトデー大感謝祭が行われている街に訪れていた。
 目的はショッピング。
 洋服やアクセサリー、小物などを見て回っている。
 今日はレストランの予約はしてなくて。
 食事は若者達に人気のピザとパスタのお店でとった。
 それからまた街に出て、こうして春物の可愛らしい服を選んでいた。
「コレもお嬢様にお似合いだと思いますわ♪」
 言って、ミルフィが広げたのは……下着だった。
 可愛らしい縞々のショーツだ。
 瞬間、有栖の顔が真っ赤に染まる。
「も〜、やめてください〜っ」
 有栖はぽかぽかとミルフィを小突いた。
「似合うと思いますのに〜」
 ミルフィは笑いながらちょっと残念そうに、ショーツを棚へと戻す。

 ワンピースを1着ずつ購入して、その店を出ると、もう外は真っ暗だった。
 楽しい時間は、本当にあっという間に過ぎてしまう。
 最後に抽選をしようと、有栖が抽選会場へ歩き始めたその時。
「お渡ししたいものがありますわ」
 ミルフィが鞄の中からラッピングされた紙の袋を取り出した。
「お嬢様、受け取って下さいませ♪」
「有難う、ミルフィ」
 有栖は喜んで、ミルフィから袋――バレンタインデーのお返しを受け取った。
 結ばれていたリボンを解いて中を確認すると。
 中には、とてもやわらかいお菓子、マシュマロが入っていた。
 白に水色に、ピンク色のマシュマロは見ているだけでも心が和むほどに、可愛らしい。
「これ……ミルフィが作ってくれたの……?」
「はい、手作りですわ」
 更に、有栖は袋の中にメッセージカードも同封されていることに気付く。
 指でそっとカードを開いてみる。
 カードには、ミルフィの字でこう書かれていた。
『わたくしの大切な有栖お嬢様へ 手作りの愛を込めてお贈り致しますわ ミルフィ』
 感動で有栖の目が熱くなっていく。
「有難う、とっても嬉しいっ……!」
 次の瞬間に、有栖はミルフィに抱きついていた。
「喜んでいただけて、良かったですわ。わたくしもとても嬉しいですわ」
 ミルフィもぎゅっと、有栖を抱きしめて。
 互いに幸せそうな笑みを浮かべる。
 体を起こした後。
 歩道で抱き合ってしまったことに、ほんの少しだけ赤くなって、微笑み合った。
 ミルフィは料理の腕が壊滅的なので……見かけは可愛くて美味しそうなこのマシュマロも、食べたら大変なことになるの、かもしれない。
 でもそれでもいいかなと、有栖は思う。
 せっかくミルフィが心を込めて作ってくれたものだし……。
 倒れてしまって、ミルフィに介抱してもらうものいいかも、と。
 家に帰ったら、必ず自分の口に入れようと、有栖は思うのだった。

「狙うは勿論特等ですわ……!」
 抽選会場に到着したミルフィは腕まくりをして気合を入れる。
「ミルフィ頑張って!」
 有栖は自分の分の抽選券もミルフィに渡して、任せることにした。
「では参りますわ、ぬおりゃああああ!!」
 掛け声をあげて、ミルフィはハンドルを回す。
 白、白、白……。
 白ばかり続いていたけれど。
 コロン。
 ひとつだけ、色のついた玉が落ちてきた。
「えっと、金色……金色って……!?」
「やりましたわ、特等ですわ!」
「おめでとうございます! 高級リゾートホテルの宿泊券当選となります!!」
 係の男性の言葉に歓声をあげて、ミルフィと有栖は大喜び。
「場所、選べるんですね。どこに行きましょう……っ!」
「普段いかない場所がいいですわね。ああ、楽しみですわ、お嬢様」
 すっごく嬉しそうに喜ぶミルフィに、有栖もまたとてもうれしそうな笑みを向けて。
 彼女が受け取った宿泊券ごと、ミルフィの手を包み込んで握りしめた。
 時間をつくって、必ず一緒に行きましょうと約束をして。
 ぎゅっと手を繋いだまま、歩き出す。
 今日よりもっと楽しい時間を、夢みながら。