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【魔法少女スピンオフ】魔法少女クロエ!

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【魔法少女スピンオフ】魔法少女クロエ!

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閑話休題 年増戦隊ロリババァV その1


 琳 鳳明(りん・ほうめい)は、その手を赤く染めたことがある。
 自らが生き延びるために人を手に掛け、戦いに勝ってきた。
 今更それを正当化する気もないし、出来るとも思っていない。
 けれど。
 ――私が罪に塗れたって……リンスくんのことが好きって気持ちは変わらない。
 ――変えられるはず、ない。
 想うだけで、心が温かくなる。
 会うだけで、幸せだと思う。
 話しをして、声を聞いて、名前を呼んで、呼ばれて。
 実感するたびに、この気持ちを大切だと思い、大切にしなければと誓う。
 懲りもせず、悩みすぎてしまうかもしれない。ネガティブな気持ちに侵されるかもしれない。ぐるぐると迷う時だってあるだろう。
 ――それでも、私は。
 ――真っ直ぐにリンスくんを好きでいよう。
 そう思えるきっかけを作ってくれたのはクロエだった。
 入院中に見舞いに来てくれて、話を聞いてくれて。
 ――あの年の子にする話じゃなかったのになぁ。
 苦笑しつつ、鳳明は工房に向かう。
 ――お礼を言わなくちゃ。
 ――私の『いたいの』は全部飛んでいったよって。ありがとうって……。


「クロエ? 今居ないけど」
 決意して工房に来たけれど、出迎えたのはリンスだった。
「おつかい?」
「ううん。魔法少女になるための修行に行った」
 クロエが魔法少女に憧れていたとは。今度魔法少女らしいステッキでも買ってきてあげようか。
「どうする? そんなに遅くならないと思うけど、待ってく?」
「うん、じゃあお言葉に甘えて待たせてもらおうかな」
「それでは。私が料理を作りましょう。クロエさんの魔法少女就任祝いと、この間のお礼。それから鳳明の快気祝いです。ご馳走を作りますよ」
 セラフィーナ・メルファ(せらふぃーな・めるふぁ)の提案に、「お願い」とリンスが頼む。リンスも、クロエが魔法少女になったことを祝いたいのだろう。
 セラフィーナがエプロンを着けてキッチンへ向かう。キッチンから聞こえてくる調理の音に、なんだかわくわくしてきた。
「今日のご飯はみんなで賑やかに、だねっ」
 笑って言うと、
「そうだね」
 リンスも小さく笑った。
 最近、よく笑うようになった気がする。花見の時だって、楽しそうじゃなかったっけ?
 と考えているうちにも、リンスは人形作りの仕事に戻ってしまった。手持ち無沙汰になる。
 なんとなくリンスの横に座って、作業をじっと眺めた。
 ――お花見といえば、私あの時お互いのことをもっと知ろうとか、言ったなぁ。
 ――……なら、言うべき、じゃないのかな。うーん。
 けれどその事実は、突然伝えるには重すぎやしないか。
 それに、言うにしてもどう言おう? なんて伝えよう?
 さっき前向きになると決めたばかりなのに、もう迷ってしまった。ぐるぐる、ぐるぐる。
「うー……」
 思わず唸ってしまった声が、リンスの耳に届いたようで。
「琳?」
 どうしたの、とリンスが顔を覗き込んでくる。
 言うべきか。
 言うまいか。
「あー、えっとね……」
 続く言葉を見つけられず、押し黙る。
 それでもリンスは急かしたりはしない。静かに待っていてくれる。
 ――言おう。
 きゅ、と一度唇を噛んで。
「あのね。私は軍人してて。……それで何て言うか、色々人に言いづらいこととかもしてて……」
 話し始める。
「……それでも、リンスくんのこと、好きでいてもいいのかなー、とか。迷ったり、してて……」
 リンスは聞いていてくれるけれど。
 ――やばい。相手の沈黙が辛いよ!? 反応が無いの、怖いよ!?
 言葉を続けるかどうかまた迷って、結局、
「でもやっぱり、リンスくんのこと、好きなんだって。思って」
 言った。
「…………」
「…………」
 沈黙。
 耐えられなくなって、曖昧な笑みを浮かべた時、
「俺は琳が何をしてるのか知らないけど」
 リンスが、静かな声で言った。
「琳が、その『言いづらいこと』を一人で抱えきれなくなった時、聞いてあげることはできる」
「……ものすごーく、重くても?」
「うん」
「潰れちゃうかもよ?」
「そんなに弱そう? 俺」
「……うん」
「失礼だね、意外と」
 だって、それくらい重いことだと思っているから。
「大丈夫。俺だって琳のこと好きだから。ちょっとやそっとじゃ潰されないよ」
「……っ、」
 リンスの言葉に、ぼっ、と顔が赤くなった。
 ――好きって。好きって……!!
 わかってる。自分の伝えた好きと、リンスが言う好きが違う『好き』だということは。
 リンスは、たぶん、きっと、無自覚なんだ。
 ――……それもわかってるから、辛いなぁ。
 わかってなければ、今の一言に浮かれて舞い上がれたのに。
「……ク、クロエちゃん、今頃何してるのかな」
 話を変えるように窓の外を見た。リンスも、鳳明と同じように外を見る。
「修行かな? それとももう遅いから帰り道かな?」
 どっちだろうね、と言いながら作業に戻るリンスのことを、鳳明はじっと見ていた。


*...***...*


 ヴァイシャリーにあるケーキ屋、『Sweet Illusion』にて。
 今月のお勧めケーキであるアプリコットケーキとアイスティーのセットを頼んだ水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)は、窓際の席に陣取った。
 それからフィルを手招きして呼びつける。
「なーにー?」
 フィルの今日の格好は、中世のメイドを髣髴とさせるようなクラシカルなものだ。スタイルは平均的で、化粧もナチュラル。オプションで眼鏡がついている。コンセプトは淑やかなメイド長といったところか。
「あそこ見て」
 緋雨は外を指差した。隣に立ったフィルが、「んー?」と外を見る。
「麻羅ちゃんじゃん」
 外に居たのは緋雨のパートナーである天津 麻羅(あまつ・まら)
「えー何してんのあれー」
 麻羅の格好は、フリルやレースがふんだんにあしらわれた、ふりふりふわふわした少女らしいミニワンピース。普段なら絶対に選ばないであろう格好だ。
「クロエちゃんが魔法少女になるっていうから、麻羅なんだか張り切っちゃって」
「魔法少女に? うわーやっぱ人気なんだね魔法少女。わたしが知ってるだけで何人居るんだろー」
 フィルの場合、一方的に知ってる相手が多すぎるので何人いるかなんて想像もつかないけれど。
 そのフィルが人気だと言うからには、やはり多いのだろう。
「でー? 麻羅ちゃんも魔法少女になるってー?」
「っていか、魔法少女のヒーローショーをやるって張り切ってたのよね。やっぱ流行ってるのかしらね〜」
「そーいえば孤児院でも今日、魔法少女によるヒロインショーが行われるとか聞いたなー」
 孤児院の話なら緋雨も聞いた。確か紺侍が懇意になった場所だったはず。
「リンスさんは魔法少女のグッズを作り始めるとか……。はっ、つまり魔法少女ブームで一儲け!?」
 なんということだ。作り手としてこういったブームに乗り遅れてはいけない。
「私もワンオブウェポンに魔法少女要素を取り入れなきゃっ! フィルさん、何かいいアイディアないかしら?」
「んー。名乗りをを上げなきゃ斬れないとかどーお? 決めセリフを言えば切れ味が上がりますとかー」
「ゲームみたいね! 面白そうだけど作れるかしら……」
「やる前から悩んでるようじゃダメダメー。やってみて失敗してから悩むべきだよー♪」
 それは、いやかなり間違っているのだが。
 職人魂に燃える緋雨は気付かないまま、
「こうなったらのんびりお茶を楽しんでいる場合じゃないわ! 早く帰って作らなくちゃ!」
 急ぎながらもケーキを味わって食べ、「ごちそうさまでした!」とフィルの店を後にした。
 緋雨に手を振り見送るフィルが、
「リンちゃんが魔法少女の人形作るなんて話、わたし聞いてないけどなー」
 と笑って言っていたが、もちろん聞こえるはずはなかった。