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【魔法少女スピンオフ】魔法少女クロエ!

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【魔法少女スピンオフ】魔法少女クロエ!

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幕間1 小さな子が契約するに当たって。


「まったく、社長ってばいっつも勢いで決めちゃうんだから」
 鞄の中からファイルを取り出しながら、茅野 菫(ちの・すみれ)は小言めいたことを呟く。
「今、結構うるさいのに」
 小さい子を使うことが良しとされてきたことは、あまりない。
 だから、後々問題にならないようにクロエの保護者であるリンスに書類の手続きをしてもらわなければならないのだ。次々と出される書類に、リンスがげんなりしたような顔をした。
「面倒だろうけど、ちゃんと目を通してサインしてよね」
「茅野、いつになく真面目じゃない」
「どういう意味よ」
 真面目にもなるわよ、と唇を尖らせた。
 魔法少女の会社として子供を使っているとか、そんな妙な噂が立てられたらたまったもんじゃない。
「豊浦宮を発展させたいの、あたしは。だから法的なものはきちんと守らなくちゃ」
「ふうん。茅野はいいの? 年齢とかそういうの」
「あ、そこサインしてね。ここも忘れないでよ」
「スルーされるとさ。却って怪しくて困るんだけど。大丈夫だよね?」
 別に、そんなつもりじゃない。もちろん、きちんと法的な部分はクリアしてる。……はずだ。うん、きっと。


 手続きを終えたリンスが、椅子に座ったまま伸びをした。書類に目を通しサインする作業が完了したらしい。
「お疲れ様」
 声をかけながら、パビェーダ・フィヴラーリ(ぱびぇーだ・ふぃぶらーり)はアイスコーヒーのグラスを置いた。
「ありがと」
「どういたしまして」
 短い会話を交わし、菫の隣に座った。ちらり、菫が見てくる。何よ、と小さく肩をすくめた。
「リンスさぁ、この間の話覚えてる?」
 と、唐突に切り出される菫の話。リンスだけじゃなく、パビェーダも「?」となった。
「ドレス作るって話」
「それか。覚えてるよ」
 ジューンブライドキャンペーンの時に、口を滑らせたことに対する誤魔化しの約束。
 どうして今、持ち出すのだろう。……妙にどきどきしてきた。
「す、菫?」
「あれ本気?」
「作ってって頼まれれば作るよ。出来ると思うし」
 ちらり、リンスが目を遣った先には人間サイズのワンピースがあった。人の大きさの服が作れるかどうか試してみたのだろう、シンプルなものだった。
「じゃあ作って。あたしとパビェーダの分」
「茅野も?」
「いいじゃない。ペアルックよ」
「仲良しだね」
「羨ましいでしょ」
「というより微笑ましい」
 くす、と小さくリンスが笑う。笑った顔を見れたのは良かったけれど、どうしてだろう羨ましいと思ってもらいたかった、ような。
「デザインは任せるから。パビェーダに似合うもの、考えて仕立ててよね」
「ん。わかった」
 こくり、頷く。話がまとまった。
「……って。え? 作るの?」
 あまりにあっさりまとまったので、パビェーダは慌てて問いかける。
「「嫌なの?」」
 同時に、菫とリンスが言った。嫌じゃない。嫌じゃないけど、
 ――いつ着ればいいのよ。
 ――それに相手だって……。
 口をつぐんだ。
 リンスはきっと、あらゆる意味でわかってないし。
 菫は、リンスのこともパビェーダのこともわかった上で今の行動をとっているし。
 悩んだ結果、ごちゃごちゃと後のことを考えてもわからないのだから今に任せてみようと思った。
「……お願いするわ」
「ん」
 リンスが頷く。今度こそ、話がまとまった。
「あ。あたし、豊浦宮の仕事あるからちょっと行かないと」
 見届けたし、と菫が工房を出て行く。二人きりになった工房に、依頼の内容を記していくペンの音だけが響く。途中、音が止まった。リンスを見るとしまった、というような顔をしている。
「なに?」
「採寸。忘れてた」
「採寸、って」
 確か、正確な体型を測らないといけないから。
 ――下着姿にならなきゃで、……え?
「……どうする? やっぱりやめとく?」
「必要なことでしょ? 仕方ないわよ」
 そう、形式的なことだから、恥ずかしがることなんてない。
 わかった、と言ってリンスが先導し別の部屋に入った。カーテンを閉めて外から見えないようにしたのを確認してから、パビェーダは服を脱ぐ。
「測るね」
 しゃーっ、とメジャーを引く音がして、ひも状のそれが胸に当てられた。
 ――胸のサイズとか、……そもそもスリーサイズ全部バレちゃうのよね。
 ――……どうしよう。だんだん恥ずかしくなってきた。
 けれどリンスは意識していないだろうから、気にしていると知られる方が恥ずかしくて。
 知らん顔して、背筋を伸ばした。


 採寸のその傍らで。
「飛鳥。私は注意したはずだわ」
 火の着いていない煙草をくわえたまま、菅原 道真(すがわらの・みちざね)が豊美ちゃんに言った。声は硬く、厳しい。
「魔法少女になりたいという気持ちだけで簡単に採用するな、って」
 なのに今回。
 楽しそうだから、とか。衣装が可愛いから、とか。
 その他もろもろ、ノリが理由の大半を占めるような魔法少女志願者を、いったい何人認めてしまったのか。
 はぁ、と息を吐く。
 豊美ちゃんの方針は、わからなくはない。
 『魔法少女になるには、なりたいという気持ちが大事』。
 もっともだ。気持ちは大事だ。だけれど。
「ごめんなさい」
 豊美ちゃんも、そこのところはわかっているのか素直に謝ってきた。なら、これ以上言わなくてもいいか。
「これをあげるわ」
 なので道真は労働基準法の本や児童福祉法の本を渡した。魔法少女会社の社長なら知っておかなければいけない、法律がしっかりと書かれた、分厚くお堅い本である。
「あは……難しそうですねー」
「飛鳥のことだから、途中で投げたりはしないと思うけど一応言っておくわね。きちんと読んで勉強なさい」
「はーい」
 とはいえ、豊美ちゃんにだけ押し付ける気はないし。
「私も一緒に勉強するから。きちんとした体系を作り上げましょう」