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2


 ヴァイシャリーの街から少し離れた高台にリンス・レイス(りんす・れいす)の人形工房はあり、そこからさらに遠ざかるように進んでいくと拓けた場所がある。
 風が通り抜ける広い広い草原。
 夏花が咲き、空は高く、鳥の鳴き声が時折響く。
 彼女が居るなら、ナラカとパラミタを繋ぐ門なんかじゃなくて。
「ここだと思ったんだ」
 生前の彼女が愛した場所。
 その通りだった、とウルス・アヴァローン(うるす・あばろーん)は背中を向けている女性へと話しかける。
 リィナ・レイス
 リンスの姉で、三年前に亡くなったひと。
「久しぶり」
 こっちを向いてよ。
 想いを込めて、声をかける。風が吹いた。リィナの、肩甲骨にかかった茶色い髪が揺れる。髪を風に遊ばせたまま、リィナが振り返った。
 ――ああ。
 ――変わらないなあ、ほんと。
 綺麗な顔立ちも、それを少し残念に見せている野暮ったい黒ぶちの眼鏡も、優しく柔らかな雰囲気も、いつも笑顔を浮かべていたことも。
 自分の抱く、この気持ちも、何もかも、全部。
「ウルスくん、大きくなったねぇ」
 リィナが笑った。童顔の彼女は、笑うとさらに幼く見える。
「なるさ。三年経ってるんだから」
 歩み寄り、隣に並んだ。ウルスとリィナとでは頭ひとつ分ほどの身長差がある。
 居なくなってしまった彼女はもう変わらないけれど、こうして周りは変わっていて。
「リンスも変わってるんだぜ?」
「そうなの? 掃除上手になれた? それとも料理とか作ってたり?」
「そこは全然ダメだけど」
「あはは。やっぱりかぁ」
「でも、心を開ける友人がたくさん居るんだ」
 自分も含めて、数多く。
 慕ってくれる人が、たくさん。
「なあリィナ。リンスの友達に会いに行かないか?」
 リンスに会う気はないかもしれないけれど。
 彼を取り巻く環境を見てもらいたい。
 それで、知ってもらいたい。
 貴女の弟は今、こんな風に生きているんだって。
「赤いベスパはないけれど、俺の背に乗って」
 今日一日、二人で見て行こう。
 リィナが微笑んだまま頷いて、ウルスの背に乗った。
 ――ああ。
 ――リィナにも変わったところってあったな。
 わかっていたけど。
 こんなにも冷たいなんて。