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神楽崎春のパン…まつり 2022

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神楽崎春のパン…まつり 2022

リアクション


○     ○     ○


 居住区へと続く階段にて。
 ヴァルキリーらしい格好をしたローザ・セントレス(ろーざ・せんとれす)が、入り込もうとした者達を引き止める。
「最初に説明しますが、アルカンシェルでは今も作業が続いています。侵入禁止の場所では剥き出しの部分で感電の報告がありますので、死にたく無ければ無暗に侵入しないで下さい。貴様等の死体を捜すのは面倒ですから」
 子供を連れている大人に、機嫌をとって穏便に済ませようと、威厳を込めて上品っぽく、そして愛想よくそう言った。
「え……あ……」
 態度と言葉のギャップに、戸惑いながら引率の男性が口を開く。
「こ、子供達が十二星華ちゃんたちのお部屋を見学したいっていうんだ。子供達だけでも行かせてもらえないかな? 居住区なら問題ないよね」
 男性は「ははははっ」と、屈託のない笑顔を浮かべた。
 確かに、居住区の見学は禁止されてはいない。
 ただし、乗組員や許可を得た契約者が同行している場合に限ってのことだ。
「案内人と共に来てください。じゃなければ、死体が増えるだけです」
 そう、ローザが微笑みながら言うと。
「では、諦める代わりに……貴方を取材させてください!」
 突如、そう言ったかと思うと、その男性、そして子供達がわーっとローザに飛びついてきた。
 べたべたべたべた体に触れてくる。衣服に手をかけてくる!
「な、なんですか……!?」
 驚いて、どうしたものかと思っているうちに。
「こっちは任せろ〜」
「おう!」
 何人かに突破されてしまう。
「……す、すみません、DC地点の方に向かいました」
 振りほどいて引率の男性と子供数人をふんじばった後。ローザはすぐに、銃型HCを使って仲間に連絡をした……。

 数分後。
 居住区に、許可を得て訪れた契約者が入ってきた。
 警備員はいるのだが、各部屋にはロックがかかっているので入ることは出来ず、重要な機器類も殆どないため、こちらの警備は手薄だった、
「ちっちゃな子、沢山いますわね。広すぎて迷子にならないといいのですが」
 ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)は、物陰に隠れている子供達を微笑ましげに見ていた。かくれんぼしているのだろうと思いながら。
「こういう機会はめったにありませんし、ボク達も楽しませていただきましょう。ほら、あの部屋は解放されているようですよ」
 非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)は、パートナーのユーリカ、イグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)の3人と共に、アルカンシェルの見学をしていた。
 パーティはここではない場所でも行えるが、見学はこの機会を逃すと、なかなか入れない場所もある。だから、今日はほのぼの4人で見学だけを楽しむことにしたのだ。
「念のため、我が先に」
 3人の保護者然としているイグナがまず、危険がないかどうか開いている部屋へ確認に向かう。
 が。その脇を、風のように素早く、小さな男の子が走りすぎて部屋に突入した。
「く……っ、何てことだ。なんてことだ……」
 先に入り込んだ子供は、両手を床について、うなだれていた。
「どうしたのだ? 部屋には何もないようだが……」
 部屋の中には、大きな家具などは無く、小物が少し置かれているだけだ。
「ここにあったはずの家具は、全て盾に使われてしまったのです、おねーさーーーん」
 子供がひしっと、イグナに抱き着いてくる。
「ああ、内部で激しい戦闘があったそうですから……その時のバリケードとして使われたのですね」
 近遠が部屋を眺めながら言う。
 部屋には風景が描かれた絵画が飾られている。
 壁紙は薄い黄色。
 ベッドやテーブルなどはないが、女性が使っていた部屋だろうと思われる、可愛らしい内装の部屋だった。
「楽器があります」
 アルティアは楽器を見つけて、近づこうとした。
「ぬあに!?」
 子供がすりすりしていたイグナから離れて、アルティアが見つけた楽器へとダイビング。
「ううっ、弦楽器か。金管楽器とか、笛じゃないのかっ」
 悔しげに言う子供。
 近遠とパートナー達は顔を見合わせて首を傾げる。
 この子の思考回路が良くわからなくて。
「昔、ここで暮らしていた方々も、楽器を奏で、お歌を歌っていたのでございましょうか」
 楽器と一緒にケースに入っていた譜面のような紙を見ながら、アルティアは小さく歌を口ずさむ。
「あ、ここはクロ―ゼットのようですわ!」
 ユーリカが取ってを掴んで引いた。途端!
「ぬぁーにっ」
 またあの子がクローゼットの中へとダイビング。
 ゴン。
 奥に頭をぶっつけたようだ。
「大丈夫ですか?」
 近遠が気遣い、子供を抱き上げた。
「ううっ、助けてくれるんなら、さっきの子にしてくれ、おねーちゃん、なでなでして〜」
 子供は近遠の手から逃れて、またイグナに抱き着いた。
「なんか……」
 気持ちが悪い。そう感じてしまうが、相手は子供だ。
 イグナは希望通り、その子の頭を撫でてあげる。
「クローゼットの中、からっぽでしたわね。次の部屋に参りましょうか〜」
 ユーリカはパタンとクローゼットの扉を閉めた。
「そういえば、この先の部屋も開いていましたね。見てみますか?」
 そう、近遠が言った途端。
 イグナから離れた子供が、ものすごい勢いで先の部屋へと駆けていく。
「なんなんでしょう」
 少し疲れを感じた近遠は、部屋から出た途端反対方向を指差す。
「確か、居住区の奥には行かないようにと言われてましたし……次は格納庫の方に行ってみましょうか」
「ええ、整備士さんたちからお話しが聞けるかもしれませんわね」
「昔の乗り物などございましたら、乗ってみたいです」
 ユーリカ、アルティアは目を輝かせる。
「危険はないと思うが……変な輩が出るかもしれんからな。我から離れるなよ」
 と、イグナが言う。先ほどの子供が向かった先を見ながら。
 ……なんだか、小さな叫び声が聞こえた気もするが、努めて気にせず、4人は引き続きほのぼの見学を楽しむことにした。

 子供が入り込んだ部屋は、居住用の部屋ではなく、居住区の発電室だった。
「ふぎゃーっ」
 ダイビングして、床に足を踏み入れた途端、身体に衝撃を受けて子供は叫び声を上げて倒れる。
「ふぐぐぐ、ボクちゃんはこんなところで死ぬわけには〜」
 と言う子供は、感電の罠によりしびれてはいるが、火傷したわけでもなかった。
「またか。……全く、付き合いきれないな」
 その部屋に現れたのは、罠を仕掛けた天城 一輝(あまぎ・いっき)だ。
「ここで何をしようとしていた?」
 一輝は冷やかに子供を見下ろしながら、問う。
「お、おねーちゃんに着替えとってきてって頼まれたんだ。おねーちゃんの部屋に連れて行って! ベッドで寝かせて〜」
 ふらふらと起き上がって、子供は一輝にそう言った。
「許可なく立ち入るいることは許さぬと耳にしたであろう?」
 フェザースピアを手に、ユリウス プッロ(ゆりうす・ぷっろ)が言う。
「ボクちゃんはか弱い子供だよ。そういう武器で脅すなんて、虐待だ。ひどいひどい」
「最初に、警告したはずですよ」
 ヴァルキリーっぽい格好のままのローザも、顔をだし、残念そうな目で子供を見る。
「わかってるの、あなたが子供じゃないってこと」
 コレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)は悲しそうな目でこう続ける。
「幼児化する薬……出回っているみたいね。お願い、降参してっ」
「楊枝? いや、用事か! そう用事があってここに来たんだ。だ、だからそこは通してもらうぞっ」
 なんとか誤魔化そうとした子供だが、しびれが取れた途端、強行突破を試みる。
「探索させろー」
「君達の宝を奪い、戦闘力を0にしてやるーっ」
 その子だけではなく、隠れていた子供達がわらわらと現れて、襲い掛かってくる。
「やむを得ない、か……」
 プッロが女王の盾を構えた。
「真意はどうあれ、拘束しておかねばな!」
 一輝がリベットガンを偽子供達に向けた。
「待って、本当の子供が紛れてる可能性もあるからっ」
 そうコレットは言うと、子守唄で子供達を眠らせていく。
「分かってる」
 プッロも武器の使用は威嚇に止め、盾で子供達突進を防ぎながら、コレットの魔法に任せる。
 一輝は銃を撃ったが、人に当てることはなかった。
 ジェファルコンの事件以来、彼は侵入者に対して過敏になっていた。
 本当の悪気のない幼子が紛れている可能性にも気づかないほどに。
 それを、心配したコレットだが、コレットの行動で気付いたせいか――一輝は一線を越えるようなことはしなかった。
 眠った子供達を、黙々とロープで縛り始める。
 そして、判断のつかない子供は抱え上げ、明らかに幼児化した大人である子供は適当に引きずって、医務室に連れて行ったのだった。