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神楽崎春のパン…まつり 2022

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神楽崎春のパン…まつり 2022

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第1章 ティセラ、モデルになります!

 ヴァイシャリーに、十二星華のグッズを扱っている塔がある。
 今日は、その塔に本物の十二星華の一人である、ティセラ・リーブラ(てぃせら・りーぶら)が訪れていて、1日店長を務めている。
「ちょっと休憩に入らせてもらうわね。ティセラも働き通しだし、少しは休まないとね」
 言って、ティセラグッズを纏い、仕事を手伝っていた宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は、接客に勤しむ彼女の手を引いて、休憩室へと引っ張っていった。

「……それでね、ティセラ。店員の話、色々聞いたんだけれど……。ティセラ、脱ぐって本当?」
「え?」
 祥子の言葉に、ティセラはぎくりとして、紅茶を淹れていた手を止める。
「ティセラ……日本だとね、脱ぐっていうのはそれこそ最底辺になったモデルや女優のやることよ。浮き上がりとか復権とか。そういうの抜きにしても、あんまり怪しい仕事は受けちゃダメよ?」
「ええ……」
「見てるこっちが心配になってくるんだから」
 祥子は心配そうに、ふうと息をついた。
「下着を取れと言われましたら、拒否するつもりでしたわ。でも、下着モデルは怪しい仕事ではありませんわよね?」
「まあ、仕事自体は怪しい仕事じゃないかもしれなけれど、依頼人が怪しいから怪しい仕事だと思うわ」
「そうですか……」
 返事をするティセラは、どこか上の空のようでもあった。
「あ、いたいた。ティセラー店長交代しに来たよー」
 休憩室に友人の桐生 円(きりゅう・まどか)が訪れた。
 ティセラの親友であるパッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)も一緒だ。
「お、服着てるんだね。下着の等身大パネル公開予定って、店頭にでかでかと貼られていたから、びっくりしたよー」
「ええ、もう少ししたら、撮影に入る予定です」
「下着ねぇ……うーん、ランジェリーショップなら、まぁ普通なのかな?」
 円がパッフェルの方を見ると、パッフェルは首を傾げた。
「うーん……」
 円は、パッフェルとの件で、ティセラに助けてもらったことがあって……彼女に、恩を感じている。
 だから2人で恩返しが出来ないかと考えて、今日、ティセラが仕事していると聞いた塔へやってきたのだ。
「ティセラー、ジークリンデさん来てるのに、パーティに来ないのー?」
「ああそう、なんでアルカンシェルいかなかったの? ……ひょっとして会いづらい?」
 円が問いかけると、祥子もティセラの代わりに紅茶を淹れながら尋ねる。
「そうですわね。あのような場では、ミルザムさんとは会いにくいです」
 ティセラは紅茶を受け取りながら、素直に答えた。
「でもいいの? あんなにアムリアナさんの事好きだったのに」
「滅多にない機会を逃してもいいのかしら?」
 円と祥子の言葉に、ティセラは手の中の紅茶を見ながら考える。
 パッフェルはただ静かに、見守っている。
「気持ちはわからないでもないわ。けど、何時までもこうし続けるのはよくないと思う」
 祥子はそう言い、自分の過去の事をティセラに語る。
 実は、家出してパラミタを訪れたということ。
「父に命令されたお見合いが嫌で、逃げ込んだの」
 父の性格や仕事柄、自分はもう故郷に戻れることは少なくても、父の存命中にはないということ。
 そして同じ理由で、父との仲直りも適わないだろうということ。
「私の意地もあって、元から仲直りはないけど」
 そう苦笑すると、ティセラも苦笑した。
「行って、ティセラ。今の状態を続けるのはよくない」
 祥子の言葉に、ティセラは複雑な表情だった。
「私は後悔はしてないけど、貴女はそうじゃないと思う。誰かのために何かするのはいいけど、そのために自分を殺し続けちゃダメよ。……っていうか、似たようなこと言われたことあったわよね」
「お会いして、わたくしは……過去を詫びて、陛下をお願いしますと、ミルザムさんに土下座をすべきでしょうか。わたくしは、洗脳されていたとはいえ、自分が犯してしまったことを深く後悔しています。ですから、都知事となり、アムリアナ様を保護してくださっている、今のミルザムさんを、影ながら支えたいと思っておりますわ……あまり面と向かっては会えませんもの」
「そっか……うーん」
 円も複雑な表情で考え込む。
 でも、ティセラはアムリアナに会いたいはずだ。
 間違いなく。
「ボクは、ティセラに感謝してるんだ。紅白で、ティセラが切っ掛けを作ってくれなかったとしたらね。ボクは、パッフェルと会わないようにしたんじゃないかな? と思ってる」
 だから。
 ティセラには友人としてジークリンデと会ってほしいと円は言う。
 このまま、会わないままでいいわけがない、から。
「会いたくない……わけではありません。わたくしは今でも変わらずアムリアナ様を主君として敬愛しております。アムリアナ様の想いを継いで、シャンバラを守っていきたいと強く思っています」
 ティセラはまだ、このシャンバラでいつでも前線に立つ覚悟がある。
 女王の遺志を継ぎ、武器となり盾となりシャンバラを守っていくつもりだ。
 その戦いの最中に、女王から解放されて自由となったジークリンデを、関わらせたくはない。
 そっとしておきたいと、思っていた。
「円さんと、パッフェルは手を取り合って、同じ世界で生きていく大切な存在。わたくしとアムリアナ様が共に戦う時代は、もう終わったのです。新たな生をうけた、ジークリンデ様には平穏にお過ごし頂ければそれで十分ですわ」
「本当?」
 尋ねたのは、パッフェルだった。
「でも、会いたい。ティセラはそう思ってる」
「ボクにだってわかるよ」
 パッフェルと円の言葉に、ティセラは弱い笑みを返した。
「そう、ですわね。でも、約束は守らなければなりません。わたくしに会いに、多くの人が集まってくださっていますし。ですが、パッフェルが手伝ってくれるのなら、閉店後すぐに、ここを発つことができるでしょう……間に合ったのなら、空京駅で、お見送りをさせていただきますわ」
 そんなティセラの言葉に、円、パッフェル、祥子はこくりと頷いて。
 円はさっそくアルカンシェルにいる友人達に連絡をした。

「あ、あの……十二星華のティセラが来てるって聞いたんだけど……」
 カウンターにいるアルバイトのルア・イルプラッセル(るあ・いるぷらっせる)に、少年が周りを気にしながら訪ねた。
「今は休憩中のようです。しばらくお買いものを楽しみながらお待ちください」
 ルアは営業スマイルで少年に答えた。
 彼女は白百合商会の隠れ会員。その存在は会長にしか知られていない。
 今日は表向きは一般のアルバイトとして勤務中だ。
 ……ちなみに、パートナーの緋桜 ケイ(ひおう・けい)は、ロイヤルガードとして真面目にアルカンシェルで要人警護中だ。
「そ、そっか、そらなら待たせてもらう」
 少年は入口から見えない場所へと移動して、十二星華が愛用しているという下着を見て回ろうとする。
「ヒャッハ〜! 帝世羅さんの旦那様のお通りだァ〜!」
 そこに現れたのは、モヒカン空京大生南 鮪(みなみ・まぐろ)だ。
「帝世羅さんの味も知らん小者は下がって貰おうか」
 その後ろから、土器土器 はにわ茸(どきどき・はにわたけ)が、ふんぞり返って現れる。
 はにわ茸は、ティセラを自分の嫁だと言い張っているが、そんな事実はなく、ティセラには疎まれ、気持悪がられている。
「今日は嫁にとことんイケメンっぷりを見せつけて、惚れ直させてやるんじゃ!」
「いや、どう見ても嘘だろそれ。ティセラが結婚してるなんて聞いたこともないし」
「そうか、照れて言えないようじゃの。わしから全世界へ結婚報告をせんとならんようだ!」
 少年の当然の指摘に、はにわ茸は全く動じない。 
 相手にしても無駄と感じたらしく、少年は彼に構わず店内を見て回ろうとするが……。
「…………」
 ルアがその少年や、訪れる少年達をじーっとじーっと見つめている。
 少年達は顔を赤く染めて、挙動不審になっていく。
(可愛い子たちですね。ふふふ……)
 そんな純情な少年達を視線で弄びながら、ルアは彼らの反応を楽しんでいた。
「お、来た来た」
 カウンターでパソコンを眺めていた、ブラヌ・ラスダーが、マウスを激しくクリックしだす。
 パソコンのモニターには、撮影が行われる部屋が写っている。
「待てぃ!」
「あっ!?」
 はにわ茸が、パソコンのコンセントを抜いて強制終了。
「無断でわしの帝世羅さんの観賞や、撮影はご遠慮願おうか」
「無断じゃねぇ、俺はスポンサーの幹部で、お前は一般会員についてきたただのお・ま・け、金魚の糞だろうがー!」
 鮪は白百合商会の一般会員だ。今日は天狗面で顔を隠し、とある分野において超有名人であるその真の面は見せてはいない。
 白百合商会的には、はにわ茸は一般会員についてきた見学者に過ぎない。
「コンセント入れろ! データぶっとんでたら、弁償しろよ!」
「帝世羅さんの柔肌を写すのを許す訳にはいかんけえのう。それはわしだけが堪能を許された物じゃけえのう!」
「ティセラはシャンバラの嫁なんだよ! つまり俺の嫁!」
「いや、わしの嫁じゃ!」
 はにわ茸とブラヌは睨み合いながら、言い争う。
 傍にいたルアがふうとため息をついた。
「……盗撮はよくありません。写真も正々堂々と……正当な理由を以って撮らせてもらうのが大事です……」
 言うと、店番を鮪に任せて、ルアは撮影室へと向かって行った。