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あの頃の君の物語

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あの頃の君の物語
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表の顔と裏の顔〜四谷 大助〜

 クリスマスが近づく街。
 店の装飾は赤と緑のクリスマスカラーに染まり、気の早いクリスマスツリーが街を照らしている。
「本当に日が落ちるのが早くなったね」
 クラスメイトの言葉に四谷 大助(しや・だいすけ)は小さく笑った。
「そうだね、でも、その分、イルミネーションが綺麗だよ」
 大助の言葉に、クラスメイトはちょっと距離を寄せながら、うれしそうに言う。
「うん、イルミネーションがとっても素敵。あっ……」
 女の子がつまずいて倒れそうになる。
 大助はとっさにその子の腕を掴んだ。
 ぎゅっと大助に腕を引っ張られ、女の子は態勢を立て直す。
「わ〜びっくりした。ありがとう」
 お礼と共に女の子はこう続けた。
「大助くんって反射神経いいんだね」
 その言葉に、大助は少しまずかったかなと思った。
 しかし、変に動揺してもなので、大助はいつもの頼りなげな笑みを浮かべていった。
「いや〜偶然偶然」
「ほんと?」
「あ、君を助けなきゃと思って、ちょっとがんばっちゃったのかも」
「あはは、大助くんにはそういう台詞似合わない〜」
 軽く笑った後、女の子は手を後ろに組み、くるっと大助の方を見てニコッと笑った。
「でも、助けてくれてありがとう」
「あ、う、うん……」
 女の子はまた大助と並んで歩き、大助をちらっと見上げながら言った。
「あのね、街のイルミネーションも綺麗だけど、うちのイルミネーションも綺麗よ」
「うちの?」
「うん。そ、そのね、今日、うちでクリスマスパーティするの」
「今日? 急だね?」
「そ、その、前から決まっていたんだけど、大助くんになかなか言い出せなくて……」
 そういえば数日前から、彼女の友達が彼女の背を押し「ほら、早くしなってば」「パーティの日、来ちゃうよ」とか言っていた。
 何のことかと思っていたが……そういうことか。
「そ、それで、クラスのみんなも来るから、大助くんも来て……くれる?」
「うん、もちろんだよ」
 にっこりと笑顔で大助は答えた。
 クラスで一番仲のいい女の子の頼みを断る奴はいないだろう。
 心の底でそんなことを思いながら、大助はOKした。
「本当? それじゃ大助くん、また後でね。遅刻は厳禁! 遅れたらジュースおごってもらうわよ!」
 超ご機嫌で女の子が手を振る。
 大助も元気に手を振り返した。
「うん、また後でね!楽しみにしてるよ!」
 角を曲がった彼女の姿が見えなくなると、大助は振っていた手を下ろした。
 それと同時に、大助の金色の瞳が細くなった。
 大通りを外れて、裏路地へ。
 そして、人気が無くなったところで、先ほどとは打って変わった冷たい声で大助は暗い闇に向かって詰問した。
「居るんだろ、ワンコ。さっさと出て来い」
「合格合格。ちゃんと気付いたね」
 白麻 戌子(しろま・いぬこ)が音もなく現れる。
 背後に戌子が現れたのに大助は気付いていたが、振り返らずに言葉だけ返した。
「自分で気配を出しておいてよく言う……」
「いやぁ、学校でお友達と仲良しこよししてる大助くんは、平穏な生活で気配も気付けなくなってるかなと思ってねえ」
 戌子の言葉に大助は舌打ちする。
「それにしても大助。完璧に『友人』を演じてるようだね、見事なものだー」
 からからと笑う戌子の笑い声を、大助は冷淡な声で跳ね返した。
「さっさと要件を言え。下らない話なら帰るぞ」
「……」
 すうっと戌子の気配が変わる。
 それに気付いて、大助も耳をそばだてる。
「緊急の任務さ。今から1時間後に中継地点で合流、ステルス機で某国行きだ。内容は『某国大使の護衛』」
「護衛? パスだ。その程度ならオレは必要ないだろう。下級兵の雑魚共にやらせろ」
「敵側にも契約者がいるのさ、それも沢山。だからエースのボクたちに回ってきたのだよー」
 自らをエースという戌子。
 だが、その技術は一流だった。
 幼少の大助に戦闘・隠密技術を叩き込んだのも戌子であり、その後も相棒として、大助を支えているのは戌子だった。
「それじゃ行くよね? それともオトモダチとのクリスマスパーティに行く方が大事?」
 自分の問いに大助の纏う空気が変わったことに気付き、からからと戌子は笑った。
「あはは。キミは実力技術、共に優れてるけど、まだまだ心が未熟だからね―――キミ、彼女に情が移ってはいないだろうね?」
 そういうふうに空気が変わってしまうのが未熟な証拠だよとでも言わんばかりに、戌子が笑う。
「……」
 黙ってしまった大助に戌子は笑ったまま続けた。
「ははは、冗談さ。キミの初めての監視任務だから、ついからかいたくなってしまってね」
「1時間後だったな」
 戌子の話に乗らず、大助が尋ねる。
 すると戌子は「そうだよ」と答えた。
「1時間後に中継地点で合流。カバンは置いておいでね、大助クン」
 最後までしっかりからかうのを忘れず、戌子は消えた。
「……ちっ」
 大助は舌打ちした。
 何がオトモダチとのクリスマスパーティだ。
 あの女は当人は知らないが、国際テロ組織首領の娘。
 自分たちが所属する平和維持目的の傭兵組織にとって邪魔な動きをすることがあれば、彼女を人質にして、テロ組織の動きを封じるために監視しているだけ。
(そのためだけだ)
 幼い頃から戦場にいた大助にとって、任務とはいえ、初めて行った学校。
 初めての同世代の友人。
 そして、初めての……。
 大助はそこで自分の意識をシャットアウトした。
 そんなことに固執してどうする。
 もっと広い世界を見て、片っ端から世界を平和にして、そして……自分の居場所を見つける。
 それが自分の目的のはずだ。
 大助は携帯を開いた。
 一瞬だけ、先ほどの彼女のうれしそうな顔が浮かぶ。
 それをかき消して、大助は声を作りながら、大通りに足を向けた。
「あ、もしもし? 大助だけど……。ごめん、今日は急な用事が入っちゃって行けなくなっちゃった。彼女? そんなのいないよ〜。親がちょっと……、あ、そんなたいしたことじゃないんだけど。うん、うん、え? クラス全員におごり? あ、あはは……勘弁してよー。ジュース一本だけでも辛いって〜……」
 クリスマスのイルミネーションが光る。
 1時間後彼らはクリスマスパーティを始め、大助は作戦に参加する。
 クリスマスの輝きは人々に等しくは降り注がない……。