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Perfect DIVA-悪神の軍団-(第2回/全3回)

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Perfect DIVA-悪神の軍団-(第2回/全3回)

リアクション

 木の影にたたずむ2人。
 1人は全身エメラルドカラーをした機晶姫アイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)。もう1人は青い髪をポニーテールに結った長身の妖艶な吸血鬼ルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)だ。
 彼らは何の感情も映さない、それゆえ冷酷非情な表情で、彼らを見つめている……。
「兄さん…」
 海月の声に絶望がにじむ。
 この身にかえても裕樹さえ逃がすことができたらと思うが、トゥマスだけならともかく、あの2人が相手では不可能だ。
 ここで終わるのであれば、2人でこの場にいられたことがせめてもの救いか。
 海月の手が裕樹の手を探りあて、そっと握る。
「海月」
 このとき、裕樹の声にかぶさって、横手から高らかと声が響き渡った。
「お2人とも、あきらめては駄目です!!」
 全員が声のした方を向く。そこには、青いカラーリングの入った純白のフルアーマー姿の者が立っていた。
 フルフェイスでおおわれているためその素顔は一切不明だが、彼こそ名に聞く正義の味方。しかしてその実体は蒼空学園生徒白星 切札(しらほし・きりふだ)なのだが、それはだれも知る者のない秘密である。
 インベイシオンはトゥマスに指をつきつける。
「その銃があなたの切り札であるというならば、私は彼の切り札となりましょう!
 闇を切り裂く逆転の切札(ジョーカー)! インベイシオン、ただいま参上!

 ポーズを決め、インベイシオンはしげみから飛び出した。そのまま足を止めず、アイビスとルシェンの元へ向かって行く。
「おまえ…」
「パートナーは家族です。同然ではなく、家族なのです。家族を取り戻すことをあきらめてはなりません。決して!
 私が時間を稼ぎます。あなたたちは彼の説得を続けなさい」
 すれ違いざま、裕樹にそう語りかける。
 レジェンダリーソードを手にした彼に向け、アイビスの猛き咆哮が上がった。
 彼女の傍らでは、宙に浮いた巨大な歯車――ホイール・オブ・フェイトがだんだんとその回転を速めていっている。
「……くうっ…!」
 びりびりと空間を振動させ、周囲の木々を海原のようにざわめかせるその声の圧迫にインベイシオンの動きが止まった瞬間を見計らい、アイビスは一気に間合いを詰める。そしてレゾナント・アームズを付けた腕で殴りかかった。
「きみもです。正気に返りなさい。今ごろきみのパートナーはきみを心配して、捜しているのではありませんか?」
 インベイシオンはアイビスの避けられる攻撃は全て避け、どうにもならない攻撃だけを受け止め、すり流し、防御する。
 決して自分からは攻撃せず、防御のみに徹した。
 なぜなら、彼の剣は純然たる悪、敵にのみ向けられるものであり、彼らは敵ではないから。
 けれど、その決意が彼自身を追い詰めていく。
 アイビスは彼を殺すつもりで容赦なく殴打し、蹴撃を加えている。そしてそれを補助するルシェンが天の炎の詠唱に入っていた。
 大気を震撼させ、地をも穿つ天上の火炎を導いて彼にたたきつけようとした、まさにそのとき。
「ルシェン! アイビス!!」
 ざざっとしげみを鳴らして、朝斗たちがこの場に飛び込んできた。



 目の前の光景に、朝斗は一瞬言葉を失った。
 ルシェンとアイビスが人を襲っている…。
 なぜかは分からないが、一緒にこの地へ来た者たちのなかでそうなっている者たちがいるのはここまで密林を走り抜けてくるなかで何度も目撃し、理解していた。
 だが、それがいざ自分のパートナーとなると…。
「る、ルシェン…………あの…」
 何と声をかければいいのか。彼女が今どんな状態なのか、どんな気持ちでいるのかも分からないのに?
 言葉を探してためらっている朝斗やその後ろの者たちに向け、ルシェンは天の炎を落とした。
「うわっ!!」
「あぶない!!」
 間一髪のところで未散が体当たりをかけてかばう。
 そのままごろごろ転がった地面の先で、彼女は言った。
「朝斗、自分のパートナーに攻撃なんてしづらいだろ。だからおまえは後ろにいて、私たちが応戦してる間に説得しろ」
「でも…」
「いいか? こっちには戦いながら説得なんて器用な真似できないからな。私がおまえのパートナーたち倒しちまう前に、なんとかしろよな!」
 にかっと笑う。
 半分以上虚栄だったが、朝斗が少し安心したように笑んだので、見栄を切ったかいはあっただろう。
「……うん。分かった。――ありがとう」
 よし、と未散はうなずき、身を起こす。そして声を張った。
「いくぞ、ハル! 抜かるなよ!」
「心得ておりますよ、未散ちゃん」
 ハルは銘刀猿田彦を鞘走らせながら未散と同時にスタートした。
 しかし向かう相手は別々。未散はルシェンだがハルはアイビスだ。
 2人をできるだけ引き離すべく、全くの対称位置へと走り込む。そしてプロボークを発動させることで彼女の意識を自分へと集中させた。
「アイビスさま、僭越ながらわたくしがお相手させていただきます。
 さあ、いざ勝負です!!」
 彼の挑発に乗り、咆哮を上げつつ向かってくるアイビスを見ながらインビンシブルで防御を固める。
 アイビスのおたけびにより輝きを増したレゾナント・アームズとハルの刀・猿田彦が真っ向からぶつかり合った瞬間、衝撃が空振となって宙を走った。
 続くアイビスの猛打をハルはすべて1人で受け止める。受け止めきれないこぶしが幾度か彼を打ち、後方へ飛ばしたが、ハルはすぐさま起き上がってアイビスへと向かって行った。
 そんな彼らの戦いを視界の隅に入れながら、未散はルシェンと対峙する。
 ルシェンは向かってくる彼女にはじめ、毒虫の群れを放った。しかし毒虫は残らず焔のフラワシで彼女へ届く前に焼き払われてしまった。続く真空波やエネルギー弾も吹き荒れる念力の嵐デバステーションが散らすのを見て、退魔槍エクソシアによる接近戦へと切り替える。対する未散は舞闘傘雪月花を用いてルシェンのふるう槍を受け止め、そしてあまり受けばかりをして作戦を悟られないよう、ときおり隙を伺っては仕込み刃で攻撃をした。
 空振が枝葉を揺らし、しげみをざわめかせ、高い剣げき音が周囲に響き渡る――そんな戦いをしていて、ほかの者が気付かないはずがない。
「なんかいっぱい来たっ!!」
 超感覚をめいっぱい働かせていたみくるが周囲をぐるっと見渡して叫ぶ。
 直後、あのドゥルジそっくりの少年型ドルグワントが飛び出してきた。
「1、2、3……4体かぁ」
 ざっと数えて薄く笑う。要の腕は早くも形を変えていた。
 彼の両腕は義腕で、流体金属でできている。彼の意思によりその形態は変幻自在。彼はそれを機巧義腕『フリークス』と名付けていた。
 バスタードソードをかまえ、高速で突っ込んでくる少年たち。要は鬼神力に加え、歴戦の防御術と銃舞を発動させる。そして自分から彼らめがけ突っ込んでいこうとしたときだった。
「八斗!」
「えっ?」
 思わず悠美香の方を振り返ってしまった。
 悠美香の視線の先には、たしかに八斗の姿がある。
 そちらに気をとられた要を、後衛についていた少年のエネルギー弾が吹き飛ばした。
「どわあっ!!」
 いち早く龍鱗化してなかったら、胸に大穴をあけられていたところだ。
 地面にあお向けに転がった彼をバスタードソードが襲う。
 ギィン! と鋼が噛み合う音がしたと思った瞬間、少年の剣は要の真上に立った人物――インベイシオンによって受け止められていた。
「手伝います!」
 少年の剣を押し返したインベイシオンは相手が退くタイミングに合わせて敵の懐へと飛び込み、剣をふるう。そしてすばやく武器を剣から銃に持ち替えると弾幕を張り、要が体勢を立て直す時間を稼いだ。
「ありがとう。――頼む!」
 インベイシオンは要を振り返り、笑った――ような間を開けてうなずくと、胸が半壊した1体へ向かっていく。
 要は正面のドルグワントへ向かって行く一瞬、八斗の方に視線を走らせた。
 やはりそこにいるのは八斗だ。だが――――……
(考えない! 八斗のことはルーさんたちにまかせる! ……俺は、俺にできることをしないとねえ)
 「父」として歯がゆくもあるけれど、きっと、それがベストだ。
 要はそう信じて、少年たちへ向かって行った。