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四季の彩り・魂祭~夏の最後を飾る花~

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四季の彩り・魂祭~夏の最後を飾る花~
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リアクション

 
 第14章

 音が止んだ櫓の前。一時的に照明は落ち、提灯の灯りと花火の刹那な光だけが照らす中。
 ダンサーの手配、音響機材の準備・設置を事前に行い、スタッフとの最終打ち合わせも終えたレオンは、スタンバイしている衿栖に声を掛けた。
 彼女の出番まで、既に1分を切っている。
「アイドルは1人1人が個性溢れる輝きを放っている……それを更に輝かせることが裏方の仕事だ。準備は万端だ、安心して行ってこい……!」
「……はい!」
 背中をぽん、と叩くと、衿栖はそれをスターターに、櫓に登った。レオンが合図を出し、照明が灯る。櫓の中段に現れた衿栖にライトが当たる。
「みなさーん、魂祭楽しんでますかー!? ツンデレーションの茅野瀬衿栖です! 今日は皆さんと一緒に盆踊りを楽しみに来ちゃいました!
 レッツダンス! イン……ソウルフェスティバール!」
 スピーカーから大音量で和楽器の音が流れてくる。こぶしの効いた歌声と、櫓上段からは心を揺さぶる太鼓の音。
 衣装替えを済ませたダンサー達が周囲で踊り、衿栖は櫓の上を動きまわって全方位、360度で集まった客に最高の笑顔でアピールする。
 客も徐々に一緒になって踊り出し、その輪の後方で、朱里の隣に立つアクアを見つけて手を振ってみる。
(……あれ?)
 遠くからで、高さもあったけれど、何となく微笑まれたような気がして。
 衿栖はもう一度、アクアに向けて手を振った。

              ◇◇◇◇◇◇

(京子ちゃん、結構食べること忘れてたなぁ……)
 やはり、夜の魂祭は、昼の祭りとは何となく印象が違う。昼は家族連れが多く、和気藹々とした空気が強い。比べて夜は大人の度合いが増え、屋台通りには市場のような遠慮のない活気と、落ち着きが混在している。
 その中で、椎名 真(しいな・まこと)はたこ焼きを食べる双葉 京子(ふたば・きょうこ)を横目で見ながら苦笑した。原田 左之助(はらだ・さのすけ)はまだ彼女の食事量に気付いていないのか飄々と歩いている。
 京子の希望で、皆浴衣姿だ。真も、祖父に教わっていたので着付けで困る事はなかった。
「あれ、真くん……ここ、なんだか楽しそうな場所だね」
 的屋で遊びつつ、あれも食べたい、これも食べてみたいと京子は次々と屋台をはしごしていた。だが、人の流れに逆らっていたわけではなく。
(……へぇ、盆踊り……そういや俺も、実際に何かで参加したことはなかったなぁ……)
 辿り着いたのは、盆踊り会場。
「皆が輪になって……太鼓に……ねぇ、これ何かな?」
 初めて見るらしく、京子はわくわくとした表情で広い会場を先行して歩き出した。盆踊りイベントの隣では太鼓のパフォーマンスが行われていて、脇の看板には『プチ体験できます(←)』とあった。それを見て、京子は言う。
「太鼓もたたかせてもらえるんだ……ねぇ真くん、私、久々に真くんが楽器演奏してる所みたいかも」
 彼女が示したのは、『(←)』の先にある体験ブースではなく、櫓の上段の方だった。盆踊りの曲に合わせ、力強く太鼓が打ち鳴らされている。
「太鼓叩きか……」
「お、真くん、あれに参加するんか?」
 そう思った時、リュース達と一緒に歩いていたが話しかけてきた。とラス、ピノと千尋達と太鼓会場に足を伸ばしていたらリュース達とも会い、ここまで一緒に来たという事のようだ。
 櫓を見上げながら、少し考えて真は言う。
「……そうだね。ドラムとはちょっと違うけど、基本が同じだったら何とかなりそうだ。兄さんはどうする?」
「あ? 俺が太鼓叩き?」
 そう反応してから、左之助は「……遠慮しとく」と苦笑した。2人を和やかな気持ちで見ながら、陣も言う。
「オレはプチ体験しにきたんや。ちょっと面白そうや思ってな」
 そう言って、和やかな雰囲気の体験ブースを一度見遣る。
「今日は、3人で来たんか?」
「いや、昼からみんなで来たんだけど、はしゃぎ疲れた子達は家に帰したんだ」
「浴衣も似合うな、お前。新鮮というか何というか……」
 リュースは珍しげに、真の浴衣姿をゆっくりと見る。特に他意はなかったのだが、真は何故か焦ったようだ。
「……うん。俺ちゃんと執事服以外も服持ってるからね? ね!?」
「そこまで念押ししなくても……気にしてたのか?」

                  ⇔

「ね、リュー兄、私といて楽しい?」
 彼等と別れ、盆踊り会場を出て暫く。ブルックスはリュースに問いかけた。2人でいる時は上の空の事が多くて、友人と話している時の方が、何だか表情が豊かで。
 それは、それだけブルックスについて考えているという事なのだけれど、そこまでの事は彼女には分からない。分かるわけもない。
「……大切なパートナーといて、楽しくない訳ないでしょう?」
「……そういうこと、聞きたい訳じゃない」
 涙が溜めて。半ば俯いたその顔には、若干の悔しさが滲んでいるようにも見える。
「私、リュー兄のパートナー以上、妹以上になりたい」
 硬い声で、はっきりと。遂に泣き出した彼女に、リュースは長い息を吐いた。
「ねぇ、ブルックス、あまり困らせないでください。オレは男だから、ブルックスを滅茶苦茶にするかもしれません。……オレは、あなた相手にしたくない。パートナーだから、そうしたくない。
 ブルックスが思うほど綺麗じゃないって、この前教えたでしょう?」
「……綺麗じゃなくてもいいよ」
 聞き取れるかどうかという小さな声で、ブルックスは呟いた。或いは、彼に聞かせる為の言葉ではなかったのかもしれない。自身に確認する為の、言葉。求めるキスをされて、内心動揺した。したけれど――
「……!」
 聞き返す間も無く、彼女は勢い良く顔を上げてリュースを叩いた。以前の不器用なキスとは違い、指を揃えた手で、綺麗とすら思える一発だった。
「じゃあ、どうしてリュー兄は私といるの? バカバカバカバカ!!」
「! ブルックス、待っ……」
 制止の声を無視し、ブルックスは逃げていく。その後姿は、瞬く間に人々の背に隠され見えなくなる。急いで人波を掻き分けたが、彼女の姿はもうどこにもなかった。

 闇雲に走って、気付いたら、ブルックスは人気のない場所に立っていた。木が多くて灯りもなくて、暗くて周りがよく見えない。
「……リュー兄?」
 気配を感じて振り返った先から近付いてきたのは、4人の男性の影。それぞれに陳腐な誘い文句を言いながら、彼女を逃がさないように包囲してくる。
「ブルックス!」
 声が聞こえたのは、怖い、と思ったその直後。木々の間から走ってくるリュースの表情からは確かな必死さが伺えて。それを認識した瞬間、ブルックスは彼に駆け寄った。
 抱きついて、もう、大丈夫だよね? と安心する。
「ごめん、リュー兄」
 泣きながら言う彼女に戸惑ったまま、リュースはその頭をそっと撫でた。無事で良かった。けれど、彼女の考えがつかめなくて。
(……この子、分かっててやってるのかな)