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サンターラ ~聖夜の記憶~ 『偽りの聖夜』

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サンターラ ~聖夜の記憶~ 『偽りの聖夜』
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 パーティー会場のカオティックな状況は、まだまだ続いてるわ。
 全体としては一見、普通のパーティーって感じなんだけど、局所局所では、もう皆、何やってんだか。
 ん? 会場の隅っこの方で、誰だか知らないけど、見慣れないひとがブライアンさんをナンパしてる。
「まぁ別に取って食おうって訳じゃねぇさ。ただ一緒に呑み食いして、楽しい時間を過ごそうってだけだから、そうビビんなって」
 ……あ、分かった。
 あのひと、カルキノスさんだ。
 確か、一時的に人間の姿になれる薬を飲んでるって話だったっけ。
「えと……あの、だから、その、僕は……」
 ブライアンさんってば自分男だってはっきりいえないもんだから、カルキノスさんの押せ押せムードにすっかり呑まれちゃってる。
 この後、どうなっちゃうのかは敢えて言及しないわ。
 ふたりとも、リライターで記憶を書き換えて貰ってラッキーだったかもね。
 ま、私は今のところBLにきゃーきゃーいってられる余裕はないから、他の状況に目を向けなきゃ。
「ですから、ドクター・デスの後継者はですね……っ!」
 佐那さんが誰か相手に、随分と熱弁を振るってるわね。相手はどうやら、黎明華さんみたい。
 黎明華さんは黎明華さんで何か持論があるみたいなんだけど、佐那さんの勢いに若干押されてるっぽい。
 隣で貴仁さんが、往年のジョー樋口みたいな仕草で大袈裟にジャッジしてるのが、いまいちよく分かんないんだけど。
 でもね、これだけはいわせて。
 ドクター・デスの後継者云々をいうまえに、まず彼が出世するキーとなった人間魚雷について、もっと語ってあげて欲しいの。
 病気でこの世を去った彼の功績を、決して忘れてはいけないわ。
 ……とかいってたら、いきなり佐那さん、パーティー会場でリフティングを始めちゃってるじゃない。
 リフティングっていっても、サッカーのリフティングなんだけど。
 ドクター・デス後継者問題に終止符が打てなかったから、リフティング対決で黎明華さんと雌雄を決しようって訳かしら。
 でもいずれ、これがボディ・リフトに変わるのはもう、目に見えてるわね。
 だって、あのふたりだもん。
 貴仁さんはもう、ついていけなくなってるみたい。
 っていうか、酔った勢いで他の女のひとに声をかけてる。
「お嬢さん、一緒にバーでしっぽり如何ですか?」
 ちょっとちょっと貴仁さん、幾らなんでもそれは露骨過ぎるんじゃない?
 相手の女性も、
「あら、そうですの。じゃあ明日の正午にでも」
 とか何とかいわれて、あっさりかわされてるじゃない。
 やっぱりね、酔った勢いでのナンパってのは良くないと思うのよ。その結果が、翌朝の簀巻きなんだから。
 あ、簀巻きで思い出した。
 エヴァルトさんも朝になったらミュリエルさんの部屋で簀巻き姿で目覚めてたけど、そのエヴァルトさん、自分をパスタ地獄に突き落した相手を追いかけようとしたら、逆に自分がパーティー会場を騒がす愉快犯と間違われて、コア・ハーティオンさんに追い回されてた。
「待てぃ、そこな騒乱現行犯! このハーティオンズ・ワンダルフル・サーチアイがしっかり見抜いているぞ! おとなしくお縄を頂戴せい!」
「だから、何でこっちなんだよ!」
 もう、訳分かんないわね。

 訳分かんないといえば、紫翠さんも、よく分かんない。
 パーティー会場で給仕のバイトしてた筈なのに、何で酔い潰れてるのかしら?
 出席客に無理矢理呑まされたとか、そういう話?
 幸い結和さんが紫翠さんを会場の隅っこで介抱してあげてるんだけど、紫翠さん何を勘違いしたのか、
「あぁん」
 とか、
「うふぅん」
 とか、変な声出してる。
 結和さん、めっちゃ困ってる顔してるよ。
「あの〜、だ、大丈夫でしょうか〜?」
 ……多分、結和さんが心配しんてるのはね、
「気分は大丈夫ですか?」
 ってことじゃなくて、ぶっちゃけていうと、
「頭、大丈夫ですか?」
 なんだと思うの、うん。
 誰だっておつむの方を疑うよね、こんな反応されたら。
 紫翠さんのパートナーのレラージュさんも、余所で、これまたべろんべろん状態になってる。
「やっぱり、紫翠様には積極的に迫らないと駄目かしら? 毎回、ルダの邪魔が入るんだけど……」
 マイキーさんとこのバーで、ぶつぶついいながら自棄酒に走ってるみたい。
 そこへすかさず酔いどれ酒を出そうとする辺り、マネキさんも隙がないわね。
 あら、レラージュさんいきなり立ち上がって、どこ行くのかしら?
 ふらふらと酔っ払い全開の千鳥足で向かった先は……おや、黎明華さんの席じゃない?
「うふふ、可愛いわね……油断大敵よ?」
「どわわっ、な、何をするのだ〜!?」
 流石に、黎明華さんもびっくりしたみたい。
 きっといつもの黎明華さんなら、酔っぱらってキス魔と化したレラージュさんの接吻攻撃なんかすぐにかわせたと思うんだけど、運悪くそこには、これまた酔っぱらって、いつの間にか海音☆シャナに変身した佐那さんが居合わせてた。
「はいはいはい〜、そこ、折角のキスを逃げたりしない☆」
 とかいいながら黎明華さんに、アナコンダ・バイス仕掛けてるし。
 黎明華さん、必死にタップしてるけど、佐那さん全然技を解く気配なし。
 それどころか、レラージュさんが黎明華さんの全身にキスするのをサポートする為に、そのままぎゅうぎゅうと絞め上げてるよ。
 紫翠さんもレラージュさんも色んな意味でタチ悪いけど、佐那さんも負けてないわね、こりゃ。
 その紫翠さんを介抱してた筈の結和さんが、突然、ゆかりさんに追い回される破目に陥ってる。
「こらぁ〜、何やってた〜、公衆の面前で卑猥な行為をするとはけしからん〜、逮捕だ〜」
「すすすすすみませんっ! あ、ち、違ったぁ〜。ち、ち、ち、違うんです〜!」
 うん、結和さんは、悪くない。
 ただね、介抱した相手と、絡まれた相手が悪過ぎたってだけ。
 まぁ、紫翠さんがあんな変な声出し続けてたってのが、一番の害悪なんだけど、まぁ結和さん、捕まらないように頑張って。
「逃がさ〜ん、逮捕だぁ〜」
「だぁかぁらぁ〜、違うんですってば〜!」
 今のゆかりさんには、何いっても無駄よ。さぁ逃げて、結和さん。あの地平線に向かって、走るのよ。

 パーティー会場が混沌の極みに達しようとしていた一方で、私達はプレゼントの回収に精を出してた。
「全く、何故一日、間違えるんですか? どこかの歌詞にも似たような状況を歌い上げてるものがあったかも知れませんが、何もフレデリカ君まで真似しなくても宜しいでしょうに」
「う〜、分かってるわよ、ちょっとしたミスじゃないの」
 アルテッツァさんの小言は、本当に堪える。
 ねちねちいってくるのは腹が立つんだけど、いってることは間違ってないから、余計にずしんってくるのよね〜。
 けどまぁ、プレゼント回収を手伝ってくれてるんだし、文句はいえないか。
 でもアルテッツァさん、ちょっと待って。手に持ってるの、それはプレゼントじゃないよね?
「あぁ、これですか……何でも、ドクター・ハデス君がプレゼントと間違えて連れ去ろうとしてたので、ちょいと折檻してやったついでに、助けてきてあげたのです」
 見た目は蛙のぬいぐるみだけど、正体はロラさん。
 でもロラさん、どう見ても、寝てるよね。別に、ぬいぐるみに擬態してる訳じゃないよね。
「後で、結和君のところに送り返してやりましょう。それまでは、こちらで預かるということで」
 アルテッツァさん、案外面倒見が良いのかも。
 っていうか、ドクター・ハデスってひと、本当に見境ないっちゅうか、何でロラさんをプレゼントとして接収しようとしたのか、もうそこから意味分かんない。
 と、そこへプレゼント回収を手伝ってくれてるザカコさんが戻ってきた。
「いやぁ、遅くなってすみません」
「おやザカコ君、どちらへ?」
 アルテッツァさんが訊くと、ザカコさんはばつが悪そうに頭を掻いた。
「ちょっとしたミスで、プレゼントと間違えて個人の所有物を回収してしまいそうになったんです」
 よくよく話を聞いてみると、ミュリエルさんが持ってた品を、サンタの秘宝と間違えて回収しようとしたみたい。
 で、もののついでに、ツァンダの女子寮までひとっ飛びして、送ってきたらしいの。
「エヴァルトさんが簀巻きにされて、帰りの足をどうしようかと途方に暮れてましたので、これは放っておけないと思いまして」
「まぁ、そういうことなら良いんじゃないですか」
 アルテッツァさんのザカコさんへの言葉に、私も頷く。
 それはそれで良いんだけど、ザカコさん、変な顔して私に問いかけてきた。
「ところでフレデリカさん……サンタの秘宝の偽物が、大量に出回ってるみたいなんですけど、気づいてましたか?」
「え? 何それ?」
 私は思わず、ザカコさんに訊き返した。
 この時は、どうせただの悪戯だろうと思って、大して気にもしてなかったんだけど、そこが私の甘さだったのよね。
「犯人は、どうやらアルさんのようです。どうしますか?」
 ザカコさんは対処すべきと考えてたみたいだけど、私はそこまで深く考えてなかったから、放っておくことにしたの。
 今思えば、ザカコさんの忠告に従っておけば良かったわ。
「どうせ偽物なんでしょ? だったら、別に放置でも良いと思うわ」
「そう……ですか。もう既に、司さんがマリエッタさんに配ってるのを見かけましたから、結構あちこちに散らばってるような感じですね」
 あ、そうか。
 マリエッタさんが貰った秘宝っぽいのって、司さんが渡した分だったんだね。
 いや、違う。
 秘宝っぽいんじゃなくて、秘宝そのものだったのよ。
 もう一度いうけど、私の読みは、甘過ぎた。
 実は、アルさんがばら撒いたのは秘宝の偽物じゃなくて、分裂した秘宝そのものだったの。
 多分アルさんは、凄く軽い気持ちで秘宝の偽物を皆に配ろうとしただけなんだよね。
 でもどういう訳か、秘宝の方がアルさんの思念を読み取り、自ら分裂してしまったの。それら分裂体が、私の手伝いをしててくれたひと達の手に渡っちゃって、パーティー会場のあちこちにばら撒かれる事態に発展してたって訳。
 この時点ではまだ、私はその事実に気づいていなかった……。
 ばら撒いていたのは、主にアルさんと司さんだったみたいだけど、他にも数名、間違えて配ってるひとが居たみたいね。
「紛らわしいから、回収した方が宜しくないですか?」
「う〜ん……ま、余力があればね」
 アルテッツァさんの進言に耳を傾けてれば、もう少し違った事態になったかも。
 あぁ、もう!
 ほんっっっと、私の馬鹿!

 この時、私の時計は2022年12月23日の21:45頃を差していた。