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リアクション
5)
黒崎 天音(くろさき・あまね)に誘われて、
ニルヴァーナの中継基地にやってきたラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)は、
おつきのメイドとともに現れた。
「お招きいただき、どうもありがとうございます」
「こちらこそ、わざわざ来ていただいて光栄だよ」
ニルヴァーナにやってきたとはいえ、ラズィーヤはメイドしか連れていない。
これは、お忍びであることを示しており、
今回の、天音との交流を、なるべくゆっくり楽しみたいという気持ちの表れだと見て取れた。
「夜しか見られないもの、楽しみにしていますわ」
ラズィーヤが、天音に微笑む。
「ええ、どうぞお楽しみに」
天音の招待状には、ニルヴァーナの幻想的な風景を
ラズィーヤに見せたいという旨が書かれていた。
天音は、ラズィーヤをエスコートして、目的の場所へと向かった。
創世学園都市のほど近くの丘陵地帯。
小高い丘の上に湧き出す水を、活用する為に作られた湧水池が、そこにはあった。
あたりは、すでに、ほの暗く、
離れると、お互いの表情がよくわからないほどだ。
「足元にお気をつけて」
「ありがとう」
天音はラズィーヤを連れて、湧水池へと近づいた。
金色の光が、またたいた。
光は、ひとつ、またひとつ、と増えていき。
やがて、黄金色の光の奔流に、辺りは飲み込まれた。
「まあ……」
ラズィーヤが息をのむ。
「こんな風景、見たことがありませんわ」
ラズィーヤの賛辞に、天音は微笑を浮かべた。
「気にいっていただけてうれしいよ」
ここは、湧水池【涅槃蛍の泉】と呼ばれている。
まるで、異界の入口へと足を踏み入れたかのような、幻想的な風景は、
蛍達の光によるものだ。
池に、蛍の光が反射して、
空中も、水面も、金色に染まる。
「夜しか見れない、というのは、こういうことでしたのね」
ラズィーヤが、笑顔で言った。
「天音さんらしいですわ。
なんとも、粋な計らいですこと」
「どういたしまして」
ふと、蛍の一匹が、ラズィーヤの腕に止まる。
「まあ」
「蛍も歓迎してくれているようだね」
ラズィーヤの、その笑顔が、とても自然なものだったので。
天音は、ここに連れてきてよかったと、心から思った。
やがて、日が暮れて、辺りが夜の帳につつまれる。
頬を伝う風が、少しずつ冷たくなっていった。
黄金色の光を、名残惜しそうに見つめながら、
ラズィーヤが言った。
「今年も素敵な思い出になりましたわ。
天音さんのプレゼントは、いつも心遣いに富んでいてうれしく思っておりますのよ」
「どういたしまして」
天音は、優雅にうなずき、ラズィーヤを無事に送り届けたのだった。
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