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ひとりぼっちのラッキーガール 後編

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ひとりぼっちのラッキーガール 後編

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第21章


「……じきに憑依した亡霊達も現在の四葉 恋歌を護ろうとする者達に除霊されてしまいます。
 そして貴女自身もね。
 それで満足なわけではないでしょう?」
 天神山 葛葉は問いかけた。
 その問いかけは、パーティ会場の片隅で、四葉 恋歌に憑依した『レンカ』の亡霊に向けられていた。

『……』

 レンカは語らない。だが、その表情は曇っている。
 今また、アン・ブーリンに憑依した亡霊がグロリアーナ・ライザ・ブリテン・テューダーによって妨害されている。実力差から言っても、亡霊が憑依したアンが敗北するのは、時間の問題だろう。

「それに、貴女達をここまで苦しめた幸輝さんを、あっさりと殺してしまってそれで満足できるのですか?
 貴女達がそうされたように、彼にも永遠とも言える苦しみを与えてこその復讐というべきではありませんか?
 ――僕なら、その手伝いができます――どうですか、手を組みませんか」

 葛葉が幸輝の研究から得るものは多かった。確かに幸輝の『幸運能力』は彼自身の能力に寄るものが大きく流用できる部分は少ないが、『幸運』を起こさせるという行為が『運命』に与える影響、そのデータは充分に取ることができた。

 葛葉の研究テーマは『不幸』だ。その研究を進めるために幸輝の『幸運』に関する研究データが必要だった。
 だがそれもここまで。研究施設は破壊され、幸輝の研究母体の組織である『ハッピークローバー』社の醜聞は免れない状態となった今、幸輝に味方をする理由はほとんどなかった。

「ですが、ここままでは現在の恋歌さんを巻き込みたくないコントラクター達に、貴女自身も無駄に除霊されてしまうでしょう……。
 どうでしょうか――幸輝さんへの復讐を遂げる代わりに、恋歌さんを殺害することは諦めてくれませんか?」

 葛葉は交渉を続けた。
 この場にいるコントラクター達は、少なくとも恋歌を犠牲にする選択肢を選ぶことは良しとはしないだろう。
 反面、レンカと『恋歌』の亡霊の目的が幸輝への復讐にあるのであれば、必ずしも恋歌を殺害する必要はない。
 まずは、レンカの意志を確認する必要があった。

『……』

 しかしレンカは、葛葉の問いかけに黙って首を振った。

「……交渉には応じない、ということですか……」
 葛葉とて、その交渉が最初から通るとは思っていない。
 最終的には幸輝の能力を無効化し、『不幸』と『幸運』の実験を行うことができればいい。
『……私は……幸輝さんを恨んではいない……』
 その反応に、少なからず葛葉は興味を示した。
「……恨んではいない……。『幸運』の能力の犠牲として貴女達を使い、その命を使い捨てにした彼を、恨んでいないというのですか?」
『ええ……私は、他の『恋歌』達とは違う……。『恋歌』達は、幸輝さんを憎んでいるわ。
 でも……私は違う……。幸輝さんを……彼を救いたい……あの忌まわしい能力から、彼を解放したい……』
 レンカの言葉に、葛葉は想像力を巡らせる。他の『恋歌』の亡霊とレンカとは、そもそも目的が違ったということか。
「つまり……貴女は」

『ええ……私は彼の『幸運能力』を使えるように、そのきっかけを与えてしまった。
 私が死んだせいで、彼は徐々に狂い……次々と犠牲者を出すことになってしまった。
 だから私は、彼を救いたい……』


                    ☆


「ようやくたどり着いたわね……」

 天貴 彩羽は呟いた。
 幸輝の研究から『幸運能力』を無効化する方法を探していた彩羽は、遠回りではあったが、幸輝の過去を深く探ることでその一端を掴むことができたのだ。

 そもそも四葉 幸輝が自らの『能力』を意識しかけたのは数十年前。彼の両親を事故で亡くしたことに起因する。
 今までと漠然と感じていた幸運と不運の繰り返しを、彼はこの頃から少しずつ感じるようになった。
 彼は『幸運にも』裕福な家庭に育ち、両親の死後も生活に困ることはなかった。
 研究者となった彼は、『幸運』の研究を続けるうち、一人の女性と出会う。

 それが『レンカ』だった。


「……レンカは共同研究者……幸輝は彼女から自分の能力について教えられている……。
 つまり、幸輝よりも早くその能力について知っていた……」


 レンカは『幸運』と『不運』の因果関係が単なる偶然でないことを知っていた。
 望んだ『幸運』を叶えるには大きなエネルギーが要ること。その反動として主に親近者の命を失う形で『不運』が訪れること。
 幸輝が『幸運』の能力を実験意外に使わずに過ごした数年間があった。

 おそらく、その時間が彼にとって最も『幸せな』時間であったことだろう。

 そしてその時は訪れる。
 二人は研究者だった。お互いが持つ能力を存分に研究し、実践しないなどということはありえない。

「幸輝の持つ『幸運能力』が実験中に暴走……。それまでは押さえられていた能力が抑えきれなくなる……?
 ちょっと待って、じゃあそれまで……レンカと出会ってから、実験が失敗するまでの間は、どうやって能力を抑えていたの?」

 彩羽は記録の読み込みを早める。もし何らかの方法があるならば、今でもそれは幸輝に対して有効な手段となりうるのだ。

「……実験により幸輝の能力が暴走……。拮抗を保っていた力のバランスが崩壊し……そうか……これはつまり……」

 彩羽は立ち上がり、記録したデータを持って部屋を出た。
 情報は集めた、もうここには用はない。
 次にできることは、現在の四葉 恋歌を救うことだ。

 もしそれが可能であれば、それは四葉 幸輝の破滅に直結することになると、彩羽は結論付けたのだ。

「……レンカは幸輝と同じ能力を持っていた。だからしばらくの間、幸輝の能力を中和できた。
 ただ、幸輝の能力に比べては力が少なかった……幸輝の力が実験により全開になった時、抑えられなかったのね」

 急がなくてはならない。屋上の方からは何らかの破壊音が聞こえてくる。

「つまりこの5年間、現在の四葉 恋歌が生きながらえたことも、おそらく同じ原理……」