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1回戦第8試合 扶桑 VS マ・メール・ロア

 
 
「さあ、第1回戦も最終試合となりました。ここで登場するのは、柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)さんの扶桑と、ティセラ・リーブラ(てぃせら・りーぶら)さんのマ・メール・ロアです。これは、新旧の対決パターンとなりますが、いかがでしょうか」
 扶桑は艦船型の機動要塞で、後部に飛行甲板を有するヘリ空母を巨大にしたような戦闘空母である。もちろん、その大きさからヘリ空母などではなく、イコンにとっては充分な広さを持った飛行甲板を有している。火力としても申し分ない。
 対するマ・メール・ロアは、現在の機動要塞の前世代の物で、原型といってもいい。逆円錐型のシルエットは現在と大差ないが、十二星華が使用した物はその運用上遮蔽に優れ、表面は岩塊に被われてカモフラージュされていた。
「マ・メール・ロアは、正確には帝国の退役機動要塞に当たる旧型ですから、基本性能ではかなり不利ですね。まだシャンバラが機動要塞を保有していない時代は脅威でしたが、現在ではそうでもありません。とはいえ、最新の武装で艤装していれば火力としては申し分ありませんから、侮っていると新鋭艦でも危ないですね。事実、扶桑は過去に二度沈没しており、現在の物は三番艦だそうですから、沈没癖がついてないことを祈るだけです」
 コア・ハーティオンがラブ・リトルをしっかりと押さえ込んでいるので、安心して高天原鈿女が解説をした。
「そうですか、では、その結果を皆さんで目撃しましょう。試合開始です」
 
    ★    ★    ★
 
「なんで、こんな旧型なんか引っ張り出してきたのよ。どうせなら、こっちもアルカンシェルにすれば、もっとやりようもあったって言うのに。もしかして、新婚ボケ?」
 マ・メール・ロアの中では、セイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)が、ティセラ・リーブラに噛みついていた。
「まあまあ。武器はそれなりに搭載してあるんだから、きっちり命中させればどうってことないわよ」
 さすがに、パッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)が間に入った。ねえと、ティセラ・リーブラに同意を求める。
「その通りですわ。きっちりと、経験の差を見せつけてやりましょう。攻撃開始ですわよ」
 すぐに、ティセラ・リーブラが、扶桑にむかって要塞砲で攻撃を開始した。
 
    ★    ★    ★
 
「さあ、お前ら、楽しい戦争の時間だ。好きなように力をふるい、好きなように死ぬ。それが、最高の贅沢ってもんじゃねぇか!」
 柊恭也は、扶桑の艦橋で、マ・メール・ロアを落とす気満々であった。扶桑自体が何度も自爆轟沈しているので、他の機動要塞も同じように爆破したくてしかたがないのだ。
「初っぱなから全力でいかせてもらうぜ。スーパー・オリュンポスキャノン、スタンバイ」
『こばー』
 命令を受けて、サポートAIがオリュンポスキャノンの準備を始める。
『こばー、こばこばこばこばー。こば、こばこば。こば、こばばばば。こば、こばー!』
 なんだか非常に複雑なシークエンスをアナウンスしてくれているらしいのだが、小ババ様AIでは、いったい何が行われているのか、まったくの謎だ。けれども、いちおうの準備は整ったらしい。
「よし、とにかく、スーパー・オリュンポスキャノン発射だ!」
 躊躇なく、柊恭也がスーパー・オリュンポスキャノンを発射した。発射された特殊弾頭が、飛翔しながらも早くも自己崩壊を始める。それによって周囲の空間をも巻き込みながら、巨大な歪みの塊として敵にむかって飛んでいった。
 ほとんど同時に、マ・メール・ロアからも要塞砲が発射される。
 弾道や弾速の違いから、マ・メール・ロアの要塞砲が、先に正確に扶桑に命中した。ブリッジ直撃はまぬがれたものの、主砲であるスーパー・オリュンポスキャノンからなる砲塔群が、大きなダメージを受けた。完全破壊には至っていないものの、スパークをあげながら黒煙を上げている。
 だが、扶桑のスーパー・オリュンポスキャノンも、一撃でマ・メール・ロアの下部を跡形もなく吹き飛ばしていた。
 
    ★    ★    ★
 
「何、あの武器。めちゃめちゃヤバそうよ」
 さすがに、セイニィ・アルギエバが警戒する。
「大丈夫。すでに潰しましたから、二度目はないですわ」
 ティセラ・リーブラが、安心させるように言った。そのへんは考えて、先に砲塔を狙っている。欲を言えば、ブリッジも狙っていたので、同時に破壊できていればすでにかたはついていたのだが。
「やられたのは、補助のフローターと、下部砲塔だけですから、まだまだ大丈夫ですわ。防御スクリーンを展開して、態勢を整えて反撃に出ますわよ」
 要塞各部の隔壁を閉鎖して破損ブロックを閉鎖しながら、ティセラ・リーブラが言った。その間に、パッフェル・シャウラがエネルギーバイパスを再構築して、要塞砲へエネルギーを送れるようにしていく。下部砲塔へのジェネレータからのエネルギー伝導管が損傷を受けたので、メインの回路が閉鎖されてしまったのだ。そのため、予備回路を作動させる必要があった。
 
    ★    ★    ★
 
「さすがに、やるな。だが、むこうの損傷も小さくはないだろう。イコン、発進だ。今のうちに、叩き潰してやれ!」
 扶桑の右舷側ハッチが開き、二つあるリフトの上にS−01タイプのホーネットと、フィーニクスのカスタム機、ラーズグリーズが現れた。ホーネットはノーマルのままだが、ラーズグリーズの方はラピスラズリに塗られたデルタ型の高速機に改造されている。
 リフトによって飛行甲板にあげたられた二機のイコンは、スチームカタパルトへと移動していった。前輪をシャトルに接続すると、一気に加速して撃ち出される。
 そのままいったん上昇したイコン・エレメントが、高空からマ・メール・ロアを捉える。そこから、一気に急降下爆撃をマ・メール・ロアに仕掛けた。
 防御を扶桑の方向に集中させていたマ・メール・ロアにとって、直上は死角となっていた。
 中央指令塔付近に次々にミサイルを受け、マ・メール・ロアの機能が一時的に麻痺するほどのダメージを受ける。
 
    ★    ★    ★
 
「やられた。早々とイコンを出してくるとはね」
 警戒しておくべきだったと、セイニィ・アルギエバが悔やむ。
「でも、まだまだだよね」
「ええ。撃てますわね、パッフェル」
「もちろんよ」
 ティセラ・リーブラの言葉に、パッフェル・シャウラがうなずいた。すでに発射態勢に入っていた要塞砲で、反撃を開始する。
「まだ生きているのか。だが、これでおしまいだ」
 正確な射撃に晒されながらも、柊恭也がビッグバンブラストを発射した。
 イコンが対空砲を牽制する中、巡航ミサイルがマ・メール・ロアに直撃する。激しい爆発が起こり、すでに下部を失って円盤状の岩塊となっていたマ・メール・ロアがかしいだ。そのまま、黒煙を上げて墜落していく。
「ははははは。まだだ。まだまだ。プライドなんていらねえんだよ。これで勝てるのならな!」
 墜落していくマ・メール・ロアに対して、柊恭也がなおもレーザーマシンガンを間断なく叩き込んでいった。完全なオーバーキルだが、敵を粉微塵に粉砕するまでは安心できないとばかりに、徹底した殲滅戦を展開していく。
 
    ★    ★    ★
 
「なんて奴なの」
 さすがに、勝負はついているのに、まだ攻撃してくる扶桑に対して、ティセラ・リーブラが怒りを顕わにした。
「えーい、覚えてなさいよー」
「めもめも……」
 なおも続く攻撃で雲海の底へと叩き落とされていきながら、セイニィ・アルギエバとパッフェル・シャウラの言葉がブラックアウトしていく会場のメインスクリーンから響きながら遠ざかっていった。
 
    ★    ★    ★
 
「勝負ありました。扶桑の勝利です」