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第3章 知り合いのお店にいたのは…

「あ、ここここ! 可愛いお店だろ」
 フェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)は、パートナーのリネン・エルフト(りねん・えるふと)を連れて、商店街の外れにある、喫茶店を訪れた。
「ホント、可愛らしいお店ね」
 開店したばかりのその店は、沢山の花々で飾られていた。
 オレンジ色の屋根に、お菓子の絵が沢山描かれた看板。
 ドアや壁には、花の絵が描かれていて、とても賑やかで可愛らしい印象の店だった。
「お祝いの品もちゃんと持ってきたし。それじゃ、入ろうか」
 入口のドアに手をかけようとしたリネンだけれど……。
「あら? あの人……」
 窓際に座っている女の子に気付いて、軽く眉を寄せた。
「……う、わあい」
 フェイミィはその人物に気付くと、何とも言えない声を上げた。
「ええっと……」
 リネンは店とフェイミィを交互に見る。
 店内の喫茶コーナーにいたのは、パフューム・ディオニウス(ぱふゅーむ・でぃおにうす)だった。
 彼女を助ける為に、リネンの想いの人が大変な目に遭ったことがある。それにより自分も危険な目にあった。
 リネン自身は彼女の事を『身の程知らずのガキ』程度に思っている。
 フェイミィとは、顔見知り程度の関係だが、慕っているリネンを危険な目に遭わせた人物ということで、フェイミィは複雑な感情を持っていた。
「帰るって選択肢はないわよね。無視もなしで」
「う……うん」
 ふうと息をつくと、リネンは入口のドアを押した。
「いい機会だと思って、話していきましょうか」
「えー、と……色々と自重しないとな、うん」
 自分自身に言い聞かせると、フェイミィもリネンに続いた。

 店長に挨拶をしてから、2人は窓際の席にいる、パフュームに近づいた。
「こんにちは、パフューム。あなたもきてたの」
「うおっ、なんか聞いたことがある声がすると思ったら……」
 パフュームは、苦笑気味の笑顔を向けてきた。
「うん、新しく出来たお店だっていうから、どんな店かな〜って。キミ達も偵察? あ、さっき店長に挨拶してたよね。知り合いのい店とか?」
「えぇ。フェイミィの知り合いでね……」
 すっとリネンが横にずれると、微妙な笑みを浮かべたフェイミィの姿があった。
「コンチハ。そう、知り合いが店出すって聞いてさ……あ、故郷の知り合いなんだ」
 フェイミィはカナン出身である。
 このお店は、カナンに居た頃の知り合いの店だった。
「おー、そうなんだ。雰囲気の良い店だよね。若者達に人気でそう! あ、よかったらどうぞ」
 パフュームが自分の前の席を勧めてくる。
「それじゃ、ご一緒させてもらうわ」
 リネンがパフュームの前に座り、少し遅れてフェイミィはリネンの隣に腰かけた。
「こっちで本格的なカナン料理が食えるってオレもありがたいし。ここの店長の腕は保証するぜ、贔屓にしてやってくれよ!」
「うん、今度は友達連れてくるよ」
 パフュームは焼き菓子とレモンティーを飲んでいた。
「お待たせいたしました」
 店長自らリネンとフェイミィの注文の品を運んでくれた。
 本日のお勧めを頼んだところ、届いたのは生クリームと果実たっぷりのロールケーキと、手作りのハーブティーだった。
「美味しそう」
 友人相手なら、ホークを伸ばしてちょっと貰ってしまうところだけれど。
 パフュームも少し2人には遠慮をしていて、2人が美味しそうに食べている姿を見ているだけだった。
「あー、うん……そっちは最近……どう、なんだ?」
 会話に困りながら、フェイミィが言葉を捻り出した。
「楽しく喫茶店やってるよー。色々と大変なこともあるけれど、家は今は、結構平和なんだ!」
 パフュームは嬉しそうな笑みを見せた。
「それは良かったわね」
 素直に、リネンはそう言った。
 無茶な事をやらないでくれれば、巻き込まれることもないし。
 このまま平和で楽しく暮らしていてほしいものだと、思う。
「そうか、あとは……えーと」
「無理して話題探さなくていいよ。ケーキ美味しいねで十分だから」
「いや、無理してないから。ないから!」
 パフュームにそう答えるフェイミィだけれど、続く会話が思い浮かばない。
 唸り声を上げながら、フェイミィは話題を探している。
 リネンとパフュームは思わず顔を合せて、淡く微笑み合った。

 ケーキを食べて、お茶を飲み。少しの会話を楽しんだ後。
「それじゃ、またね!」
 パフュームは用事があるからと、先に席を立った。
「また、縁があったら、会いましょう」
「こういう場所で、会おうぜ、戦場とかじゃなく」
 リネンとフェイミィの言葉に、力強く「うん!」と答えて。
 パフュームは2人にお辞儀をして、帰っていった。
 彼女が帰ってから、ほっと息をつき。
 2人は飲み物をもう一杯注文して、ゆっくり午後の一時を楽しむのだった。