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リアクション
アストー01はルドラに腕を引かれるままに走っていた。しかしその速度は決して早いとは言えない。なにしろ、履いているのはステージ用のハイヒールだ。むしろここまでよくそれで走れたものと言えるだろう。
これまではルドラは本調子でなく、強化人間たちからの攻撃を防御するためバリヤやエネルギー弾、真空波などを使って消耗していたため速度が落ちていたが、マリエッタによる治療を受けた今、彼は本来の能力で走っていた。それはコントラクターである松原タケシの能力である。タケシ本人は自覚していなかったが、そこはやはりコントラクター、それなりに潜在能力はあるのだ。機晶姫とはいえ、肉体的ステータスは一般人とほとんど変わらないアストー01についていけるはずもない。
「待って……待ってください……あっ」
でこぼこの地面につま先をとられ、ついにアストー01は派手に転んでしまった。
ななめ前方に倒れた彼女は右腕や肩、足に擦過傷を負う。しかしすぐに起き上がれないほど、アストー01は疲弊していた。
転んだ際に脱げて遠くまで飛んで転がっていたハイヒールを手にルドラが戻ってくる。
「大丈夫か」
「すみ、ません……すみ、ませ……」
両手をつき、どうにか上半身を起こす。直後、足首に稲妻のような痛みが走って、アストー01は尻もちをついてしまった。
「ああっ……足が……っ」
思わず足首に触れてしまったが、直後また走った痛みに手を引き戻す。
そのとき。
「あああっ! アストレースさま!!」
驚き、あわてふためく声が上からしたと思った直後、青い髪のメガネっ子ザーフィア・ノイヴィント(ざーふぃあ・のいぶぃんと)が着地して、転びそうな勢いで駆け寄ってきた。
「お美しいおみ足がこのようなことに!! ま、まさか折れてしまわれたのですか!?」
右足のふくらはぎについた擦過傷や赤くなっている足首を見て、わなわな震えている。
「あ、あの……あなた、だれ、ですか?」
まるでこの世の終わりみたいな彼女の勢いに押されてしまい、とっさに反応できずにいたが、そこでようやくアストーは傍らについて傷を凝視している少女に問いかけた。
「――はっ」
アストーに訊かれて、ザーフィアはわれを取り戻す。自分が前のめりになっていたことに気づいて、さっと背筋を正した。
アストレースそっくりの姿を見たせいで、ついドルグワントとしての自分が出てしまったが、今の自分はザーフィア・ノイヴィント。現代に生きる機晶姫だ。
(もうどこにもないと思ってたのに、やっぱりちょっぴりは残っていたりするのかな)
2人に対して感じるこのシンパシーも、だからこそなのかもしれない……。
きゅ、とひざの上でこぶしをつくる。
(――僕のこの身は、燕馬くんに捧げる一振りの剣だ。僕を『僕』でなくする要素は、できれば根絶したい)
そうする方法を、この人たちは知っているだろうか……?
ザーフィアはルドラとアストー01に、チラと視線を投げる。そして2人がじーっと自分を見つめていて、返答を待っていることにようやく気がついた。特にルドラなど、敵ではないか疑っているのがありありと分かる目で彼女を見ている。
「あっ、ああ! ぼ、僕は――」あせるあまり声が裏返ってしまっていることに気づいていったん言葉を止め、すうっと深呼吸する。「……『初めまして』。ザーフィア・ノイヴィントだ。とある蒼学生のパートナーをしているよ。決してあやしい者じゃない」
特にすごいことを口にしたわけじゃない。ごくごく普通のあいさつだ。だけど、胸がドキドキした。
たぶん、これが第一歩なんだ。
「はじめ、まして……アストー01、です……」
アストー01はまだ彼女の登場からの驚きから冷め切れず、また追われる者として当然だがかなり警戒をしていた。無意識のうち、頼れる者を求めてルドラの方へ身をずらす。
「…………。
それで、おまえはだれだ。名はあるんだろう」
「え?」
ルドラの言葉に、言われて初めてザーフィアはルドラの赤い目がいつの間にか自分の真上を素通りしていることに気がついた。そのままのけぞって振り仰いだ先に、いつの間にか白衣を着た長い黒髪の女性が立って彼女を見下ろしている。
「あ、あれ? いつの間に? ……というか、なんか見覚えが……」
さかさまになっていた視界をぐりんと戻して、ザーフィアはあらためて女性を見た。
そこにいたのはフレアライダーを脇に抱えた新風 燕馬(にいかぜ・えんま)――によく似た女医希新 閻魔だった。
とてもよく似ているが、燕馬は男、閻魔は女。服の上からもはっきり分かる大きなバストも形の良いヒップもあるから、まったくの別人である。
でも、似ている。
疑いの眼差しでじーっと見つめながらも燕馬とは気づけていないザーフィアに、閻魔はこほ、と咳払いをすると視線をルドラたちへ移し、おもむろに言った。
「『初めまして』、希新 閻魔と申します。裏社会で医師をしております。ゆえあってイルミンスールへ出ており、ツァンダへ帰る途中でこちらの騒ぎを耳にした次第です。
どうやらそちらのアストー01さんは治療を必要とされているようです。わたしに診させていただけないでしょうか」
軽く会釈程度に頭を下げる。
いきなり現れてそんなことを言い出す相手はうさんくささ100%だったが、たしかに医師を必要としていた。ルドラにもインプットされた知識として応急処置程度の心得はあるが、肝心の道具が何もない。
「ルドラ……」
「もし彼女に対し、不審な動きをすれば、即座に殺す」
淡々としたルドラの言葉に閻魔はうなずいた。そんなことをする気はまったくないので、おどしにもならない。
そして閻魔印のファーストエイドキットを下ろすとザーフィアとは反対側へ回り、右側から傷を診察する。
「すり傷ばかりのようですね。足首は折れているわけではなく、ねんざのようです。今持っている物ではひびが入っているかまでは診ることはできませんが、テーピングしておきましょう」
箱のなかからテーピングを取り出して足首を固めながら、おとなしく治療を受けているアストー01を盗み見た。
この女性は機晶姫のようだが、触診した限りでは人間そのものとしか感じられなかった。今も足首はねんざの兆候を見せており、本人も苦痛を感じているようだ。
(痛みは信号だ。各部位で不調や異変が起きたときにそういったシグナルが発せられるのはおかしくない。しかしこの感触は……そうか、サイボーグか)
有機体と自動制御系機器の融合。一部なのか大部分なのかは分からないが。
「これで歩くことはできるでしょう。しかし数日は激しい運動は慎んでください」
「すみません……。詳しいことは話せませんが、でも、そういうわけには……」
ルドラの手を借りて立ち上がったアストー01が恐縮そうに答えたときだった。
「この子に乗って行けばいいよ!」
上空からそんな言葉が聞こえてきた。仰いだその先で、体長5メートルほどの漆黒ふわふわ毛玉がだんだん下降してくる。
はじめ、その子犬のような顔立ちの、3対の翼を持った変な生き物が言葉を発したのかと思われたが、首の横の辺りからひょこっと乳白金の髪の少女が顔を出して、騎乗していた彼女が言ったのだと分かった。
フラルが完全に着地するのも待てない様子で地面に飛び降りたティエン・シア(てぃえん・しあ)は、気が急くあまり足をもつれさせながらアストー01とルドラの元へ走った。
そのまま抱きつくかに見えたが、寸前で思いとどまったようにぴたりと足を止める。
「アスト……レースさま……」
(ああ、本当にそっくりだ……。アストーお母さんにも似てるけど、2人は姉妹みたいな関係だったから当然だよね)
ティエンはドルグワントとしての記憶を失っていなかった。ドルグワントであった自分を受け入れ、むしろ忘れることを拒んでいた。
ルドラもアストーもダフマも、すべて炎のなかに消えた。「アストー」がデビューして【Astres】を披露したときは衝撃的だったが、もう彼らはいないのだから、これは偶然の一致だと思い込もうとして……でも惹かれる何かを感じずにはいられなかった。
その感覚は今もあって、むしろここまで近づくと、より強く感じられる。
どうしてそんなにもアストレースにそっくりなのか。訊きたいことはいろいろあった。しかし今はそれどころではない。
ティエンは畏まってルドラへ向き直った。
「ルドラさま、ですね?」
「――そうだ」
ルドラはアストー01を傍らに引き寄せ、いつでも彼女を守れる体勢をとりながら答える。
へたに動けばエネルギー弾で攻撃される。そう感じながらも、ティエンは毅然とした態度で告げた。
「僕はドルグワントです。信じてもらえないかもしれないけど……でも、かつてあなたやアンリ博士たちが造ったドルグワントの記憶を持っています。あなたの危機を知って、駆けつけました。どうかこのフラルをお使いください」
アンリの名前が出たことに、一瞬ルドラが反応した。本当にかすかな、次の瞬間にはあったかどうかも分からなくなるような反応。しかしティエンはルドラが内心かなり動揺しているのを感じた。
このルドラはあのときのルドラではないだろうけれど、それでもアンリがどれだけ彼にとって大きな存在であったかは想像できる。あのルドラは狂っていても、彼なりにアンリの意思に添おうとした。
信じられないと疑うのは当然だと思う。けれど、ドルグワントという呼称やアンリ博士の名前を知る者がそうそういないというのは分かるはず。自分を信じてほしい。ティエンは視線にその意を込めてルドラを見つめた。
ルドラは数秒逡巡する間をあけたあと「分かった」とつぶやいた。
「100%おまえの言い分を信じたわけではないが、今はそれしか方法はないようだ」
応諾の言葉に、ティエンの面が輝く。ぴょんとフラルに飛び乗ると、上から手を伸ばした。
「どうぞお乗りください、アストレースさまっ」
「ありがとう。でもわたしはそのアストレースという人じゃなくて、アストー01なの。あと、敬語はやめて。わたし、あなたのこと何と呼べばいいのかしら?」
「僕はティエンです。
じゃあ、えっと……「アス」って呼んでもい――」
「あーーーーっと!!」
途中で追いつき、高柳 陣(たかやなぎ・じん)が操縦する小型飛空艇エンシェントに乗って後ろから様子を見守っていたユピリア・クォーレ(ゆぴりあ・くぉーれ)が、突然ティエンの言葉を掻き消す大声を発した。
「……ユピリア、てめ、いきなりなんて声出しやがる」
陣が耳を押さえて、とがめるような視線を送る。
「ティエン、そこはもうちょっとかわいく「アっちゃん」なんてどうかしらっ?」
(「アス」って。……この子、絶対意味分かって言ってないわよね)
「なんたって、親しみを感じるし!」
力説するユピリア。
「そう?」
「わたしはどちらでもかまいませんが、親しくしていただけるとうれしいです。よろしくお願いします、ティエン」
下から覗き上げてくるティエンに、アストー01はにこっとほほ笑む。
「うんっ!」
ティエンはアストー01とルドラが乗ると、フラルに上昇するよう指示を出した。
「ティエン、ちょっと待て」
そのまま行こうとしたところで陣が呼び止める。
「おい、ルドラ。そうやって勝手に自分のモノみたいに扱ってるけどよ、それは蒼学の松原タケシって人間の体だ。おまえのモンじゃねえ。あんま、雑に扱ってんじゃねーぞ」
ルドラが肩越しに赤い目を向け、陣と視線をかわす。
しかし言葉を発することはなかった。
「……本当にこれでよかったの?」
東へ向かって飛んでいくフラルを見ながら、ユピリアが疑問を呈する。
「ティエンが望んだんだ、しょうがないだろ」
「あいかわらず甘いお兄ちゃんね」
ふっと息をついて、ユピリアは陣を見た。しようのない人、と言いだけな目だ。
「そんなこたぁない。直接会って、ルドラからあのときのような気配を少しでも感じたら絶対許す気はなかったからな。けど、あのルドラからは以前のような悪い予感はしなかった。だから行かせることにしたんだ。
そんなことより、俺たちも行くぞ」
「はいはい」
陣がエンシェントを浮かせたときだった。
バイク音がかすかに聞こえてきたと思った次の瞬間、ボスッと鈍い銃声がして、宙のフラル目がけて砲弾のような弾が飛来した。
弾速は遅い。
数メートル手前で弾頭が開き、一瞬で鋼網を展開する。フラルごと彼らを捕獲し、地面に落とす気だ。
「ティエン!!」
直後、鋼網は見えない球体のような物に遮られたように宙で押し返された。
続けて発射されていた2発目がそこに着弾し、被弾こそしなかったものの、爆風に押されてフラルは大きく傾いた。バランスを崩したまま、地面に落下しかける。
閻魔がフレアライダーで飛び出した。ほぼ同時にザーフィアも向かう。
「陣、あれっ!」
エンシェントを加速させようとした陣に、ユピリアがバイクに乗った女性を見つけて知らせた。肩先で切りそろえられた青い髪、ライダースーツのその女性は、バイクを止めて新たな弾を銃に装填しているところだった。
――バリヤか。面倒なボディガードだな――
「……やりようは、あるわ……やつが力を使う前に、撃ち抜く……」
左手にリボルバーを持ち、ワイヤーキャストネットの入った銃を再び宙のフラルへ向けた直後。
パルジファルが激しいうなりを発した。
その先には何もない。しかし狼型ギフトとして、敏感に感じ取るものがあったのだろう。
「パルジ? どうかした――はっ!」
次の瞬間一閃が走り、バイクはJJがまたがっていたシート部分で真っ二つに裂けた。
もしその場にとどまっていたら、JJも2つに割られていただろう。
姿は見えない。だが確実に何者かがいる。
「――くッ!」
JJは視線を下に向けた。隠形を使おうと、人間である限り足を地面につけることは変わりない。足先が地に触れる、そのわずかなときに舞い上がる砂煙を見極めて、ここぞと思う地点に向かいJJはワイヤーキャストネットを発射した。
「きゃあっ!」
このワイヤーキャストネットはただの鋼鉄で編まれた網ではない。捕獲した相手を無力化するため、着弾と同時に微弱ながら電流が走る仕様になっている。フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)は正面からワイヤーキャストネットを浴び、さらに電流を受けて思わず驚声を発した。
絡みつく前にすぐさま忍刀・雲煙過眼で一刀両断したが、隠れ身は解けてしまった。
「ああっ! ご主人様!」
離れた位置から見守っていた、豆柴姿の忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)が、その様子を見てついビグの助から身を乗り出した。ちなみにこのピグの助という霊獣、豆柴姿をしているため、豆柴の上に豆柴が乗っかっているという、緊張感は削がれるがなんとも愛くるしい様である。
「待っててくださいご主人様! 今すぐこの超優秀なハイテク忍犬たる僕が、今回の事件について調べあげましたように、その賞金稼ぎについても丸っと調べあげて――」
カタカタカタ、カタカタカタ。ぷりんとしたかわいい肉球のついた前足からぷにっと出した小さな爪で、器用にノートパソコン−POCHI−を操作する。
「ほうっといてやれ、ポチ」
脇からベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)が口をはさんだ。
「忘れたのか? この勝負はフレイの望んだことだ」
『マスター、ポチ。
この度はまた妙なかると組織が動いていらっしゃるようですね。私は事情が解らぬ故、任務に従うだけですが…。
えぇと……個人的にあのお強そうな方々のお相手を致したく。その……よろしいでしょうか?』
あそこへ赴く前、フレンディスは2人にそう言って、許可を求めた。
彼女の希望ははっきりしている。
「……ううううう……」
忠義との間でポチの助は揺れる。
その気持ちはベルクも同じだった。さっきはポチの助を止めたが、彼とてあそこに割って入りたい気持ちはだれにも負けない。しかしそれはできないのだ。
(あー、くっそ。胃が痛てぇ)
腰に手を添えるフリをして、上から胃を圧迫する。
せめてほかに邪魔する存在でも現れれば、それを止めるという目的で動いて気をそらすことができるのだが。
(あいつとパートナー組んでる魔女ってやつはどこにいやがるんだよ。さっさと出てくりゃこっちも――)
――ガルルルルルルル……
機械の合成音で低いうなり声がした。
いつの間にか赤い刀身を持つ狼型ギフトが背後の斜面から彼らを見下ろし、牙をむいている。
「!!!!!」
ポチの助のシッポがピーーーンとなった。
何しろ敵は、例えるならリアルだ、劇画だ。ポチの助はファンシー。
「で、出ましたねっ、そこの狼武器! おまえの存在は知ってましたよ! で、でで、ですが、ご主人様に対する忠誠心は僕の方が遥かに上!! おまえ程度には負けないのですよっ?」
「すでにビビってんじゃねーよ、ワン公」
ゴチン、とベルクのこぶしが落ちる。
「あの女はきさまらの仲間か」
「そうだ。命が惜しけりゃ手ぇ引かせろってか?」
「いや」ニヤリ。パルジファルは笑う。「あの女は姐さんで十分事足りる。わしはきさまらを引き裂く。それだけよ」
任侠の男パルジファルの言葉にベルクが戦闘体勢をとろうとしたのとほぼ同時に。
「待ってください!!」
追いついたセルマが、JJが戦闘しているのを見て待ったをかけた。しかしまだ距離があるせいか、戦いに集中しているフレンディスは気がつけない。
それを見たユピリアが、とっさに大声を発した。
「待ってフレイ!!」
声か、あるいはその呼び名か。ぴたっとフレンディスはそれまでの攻撃を止めて、後方に跳んで距離をとる。そしてユピリアの方を向いた。
「……ってあの子が呼んでたから、ついそう呼んじゃったけど」
ユピリアはぽりぽりほおを掻きながら、ちょっときまり悪そうに付け足す。
「何故制止されるのですか?」
「えーと」
止める理由はユピリアにもない。ただ、友人のセルマが2人に戦ってほしくないようだったから止めただけだ。
返答に困っている間に、セルマとそして宵一たちやクインが追いついた。
「待った待った。待ってくれ」
「……なぜ、邪魔をするの?」
武器をナイフに持ち替えていたJJは、フレンディスと距離をとりながらも武器を向け合ったまま、現れた宵一たちに視線を流す。
「まだ交渉している最中に、対象者であるアストー01を傷つけられては困る」
「話に、ならないわ……。わたしたちは、マスターデータチップを取り戻すのが最優先だけれど、契約には、アストー01の破壊も含まれている……。それは、会社の機密保持のためよ」
本人が応じておとなしく戻ればよし、逆らえば破壊して他者の手に渡らないようにする。
アストーは前代未聞の存在。その希少性を考えれば当然の命令だ。
「あなたたちに渡すとしても、それからよ」
「そんなのだめでふ! アストー01さんは、殺させないでふ!」
「殺すんじゃないわ、機晶姫だもの。壊れるだけよ」
リイムが必死に訴えるが、JJはにべもない。
話を聞いていたフレンディスは、冷めた表情を崩さないJJの言い草に再び忍之闘気をにじませたが、ユピリアに視線で「めっ!」とされて、しぶしぶひっこめた。
「話し合いでなんとかなるかもしれないうちはだめ。そういうのはこじれる元よ」
「戦いたいと思っていた故残念です」
フレンディスは傍らへ来たベルクたちを見る。
「まあ、落としどころはなんとか見つけられるだろ。とりあえずはな」
「マスター」
「お任せください、ご主人様! この僕の交渉術で、決して悪いようにはいたしません!」
自信満々のポチの助を先頭に、頭を掻き掻きベルクも宵一たちとJJの交渉に入った。胃痛が潰瘍にならないようにするにはそれしかない。
JJの目的はアストー01を連れ戻すあるいは破壊、こちらはアストー01の保護だ。しかしいずれの場合もアストー01を確保し、その意思を聞いてからとなる。JJは「それが契約だ。契約した以上、何の瑕疵もなく破棄はできない」の一点張りだが、時間を稼げばDivas側と交渉して、向こうから契約を取り消させることもできるだろう。
一緒に行動することで互いを見張ることもできる。アストー01の意思確認をするまでは手を組んだ方がいい、と彼女に納得させて、ほっとひと息ついたベルクが振り返った先で見たものは。
「いやー、きみ、強いんだねぇ。その雄姿、ほれぼれしちゃったよ。あ、おれはクイン。クイン・Eっていうんだ。きみ、名前は?」
クインに肩を抱かれ、髪を指でクルクルされてくどかれているフレンディスの姿だった。
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