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リアクション
3.大荒野でバレンタインといえば!
バレンタインの大荒野に、百合園女学院の『白百合団』のメンバーが訪れていた。
荒野には建物は存在せず、テントさえも張られておらず、椅子もテーブルも無い。
水辺も近くなく、植物さえも殆ど見かけない。
しかし荒地が広がるその場に、強い生命力が集まっていた。
「ヒャッハー!」
「どりゃあああああ!」
「でぇやあああああ!!」
モヒカン青少年や、ヤンギャルが暴れまくっている。
「……………………………」
百合園の皆と一緒に訪れたテレサ・エーメンス(てれさ・えーめんす)は乗り物から降りてしばらくの間、固まっていた。
「イングリットは既にあの中のようだし。今回はお姉さま、お相手願えますか?」
桜月 舞香(さくらづき・まいか)は、乗り物から降りてすぐ、当然のように白百合団の副団長であるティリア・イリアーノに言った。
そう、ここで行われている乱闘――バレンタイン・デスマッチ。それはイングリットと親しくしている舞香にとっては普通に恒例行事なので、当然戦う為にやってきたのだ。
「いいわよ。……ほら、あなたもちゃんと準備体操しておかないと、怪我するわよ」
ティリアは舞香に答えた後、テレサの背をパンパンと叩く。
「怪我……バレンタインに、怪我、ねぇ……ふふふふふふ……」
テレサは一人不気味な笑みを浮かべていた。
「卒業生追い出しパーティ、といいたいところですけれど、卒業生は来てないようですね」
舞香は辺りを見回して、メンバーの確認をする。
白百合団所属者は、自分達とイングリットだけのようだ。
「ええ、私もあと卒業まであと1年あるしね。でも、生徒会からは後任が決まり次第、退くつもりよ」
「ティリアお姉さまは進路はどうされるおつもりなのです?」
話しながら、2人は距離をとり、構えていく。
「そうね、今はヴァイシャリー警察に入りたいと思ってる。百合園警備団に所属できたらいいなってね」
「そうですか……。では、お姉様に今まで鍛えていただいた成果、お見せします☆」
「ええ、かかってきなさい!」
ティリアは槍を置いて、素手で空手の構えをとった。
「行きます……はっ!」
舞香は勢いよく地を蹴って、飛び込み、足技を決めようとする。
「重い一撃ね、でも真っ直ぐすぎるわ」
ティリアは腕でガードし、振り払う。
「真っ直ぐな特訓が多かったですしね。来年からはオニユリ団に改組して鬼の特訓をしっかり受け継いでいきますから♪」
笑みを浮かべながら、舞香は蹴りを繰り出していく。
「神楽崎先輩の鬼の特訓、ついてこれる子、いるかしらねぇ!」
ティリアは舞香の攻撃を腕で受けながら、舞香の足を払おうとする。
舞香は素早く横に跳ぶ。
「ブルマーでも、ぱんつでもないとは」
突如、男の呟き声が舞香の耳に入り……同時に、舞香の体に、えもしれぬおぞましい感覚が走り抜けた。
「ボクは黒猫のタンゴ。ね、アンスコのおねーさん、バリツ使いのおねーさんどこに居るのかな?」
声の主は、黒猫の着ぐるみを纏った男(国頭 武尊(くにがみ・たける))だった。
「はあーっ!」
直後。威勢の良い声が響き、モヒカン達が吹っ飛ぶ。
「あそこかな? お突き合いしてこよっと」
「待ちなさい! あなた、只者ではないわね! イングリットのもとにはいかせないわ」
可愛い黒猫のきぐるみを纏っているが、凄まじい男嫌いの舞香は感じ取っていた。この男の実力と本質を。
「ボクがお突き合いしたいのは、バリツ使いのおねーさんなんだけど……通してはくれないみたいだね」
ため息をついた後、突然タンゴは舞香に飛び掛かった。
「行かせないわよ!」
弾き飛ばして突破しようとするが、舞香は分身の術の能力で素早く動き、突進されたと見せかけて、横からタンゴを打ち飛ばす。
「やるね……アンスコのおねーさん。でもその美しい足も、これならボクに届かないよね」
タンゴは如意棒を用いて、舞香の接近を阻む。
続いて、レプリカシャドウレイヤーを使って、舞香の動きを鈍らせた。
「うっ……。卑怯者、だから男なんて嫌いなのよ!!」
舞香は千里走りの術で速度を上げて、如意棒を弾き、タンゴのもとに飛び込んだ。
「ええーい!」
バトルハイヒールを履いた足を振り上げて、タンゴの目をくぎ付けにすると、彼の肩へと振り下ろす。
「美しくないよ、興味がもてないよ……」
しかし、タンゴはちらりと目に入った舞香のアンスコを見て、とても残念そうな声を上げて。
如意棒を捨てると、振り下ろされ打たれた肩をアブソービンググラブを装備した手で押さえるように舞香の足を掴んでひっぱる。
「あっ」
態勢を崩した舞香のもう一方の足をもつかんで両肩に担ぐと、タンゴはぐるぐる回り始めた。
「きゃあああああーっ」
ミニスカートが捲れて、舞香の美しい足とアンスコが露わになる。
「うおおおおおおー」
「ひゃっはー!」
モヒカンの男達がきづいて、歓声を上げていく。
「そこまでよ!」
ぶすっ。
「おう……っ」
ティリアが持ってきた棒でタンゴの尻を突いた。
「ゆ、許さないわよ……! てぇーーーい!」
タンゴが変な声をあげて倒れた途端、舞香の強烈な一撃が彼の頭に決まった。
「もう終わりか〜」
「もっとサービスしろよ、百合園のおねーちゃん」
モヒカン達が残念そうな声をあげる。
「あ、アンタ達……。いいわ、今日はめいっっっっぱい、サービスしてあげるわ!!」
「足腰立たないようにしてあげましょうか。ふふ」
舞香は怒りながら、ティリアは不敵に微笑みながらバレンタインデスマッチの輪の中へと飛び込んでいった。
「ええっと……」
残されたテレサは。
「うん、そうだよね。そうだよね……」
ふふふふふ……と不気味に微笑みながら、バケツを取り出して、中にどばどばとある液体を注いで。
人が集まっている方へと歩いて行った。
そして彼女達のバレンタインが始まる――。
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