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リアクション
7章 不屈
やるなら今しかない。機体が限界だ。
巽はイコン各機にメッセージを送ると、【改造サイクロン】で突貫した。燃え盛る針葉樹と虹色の泡をくぐり抜け、ブラックナイトの斬撃を根性でかわしていく。
だが、サイクロンは旧型機だ。前回の戦闘で負った破損部位は突貫修理で直しただけであり、既に所々から紫電が迸っていた。
「保ってくれよ、サイクロン……!!」
目指すはサイクラノーシュの右脚の付け根にあるジェネレーターだ。天に聳える巨体に臆さず、【改造サイクロン】は跳ぶ。
右脚の装甲に存在する僅かな隙間を足場として跳躍しながら、右脚の付け根に近付いていく。その動きをブラックナイトが見逃すはずもなく、背後から剣が振るわれた。
改造サイクロンの背面装甲がごっそりと削り取られ、内部回路が破損した。コクピット内の機器の一部が爆発する。
ブラックナイトが再び剣を振るおうとしたその時、ネーベルグランツを駆るリネンが【終焉のアイオーン】を撃ち放った。
「こっちは私が引き付けるわ! 風森はジェネレーターを!」
黒い光弾がブラックナイトの右腕を粉砕する。時間乱動現象ですぐさま再生したブラックナイトに対し、リネンが【新生のアイオーン】で近接戦闘に持ち込む。
「すまない、感謝する……!」
警報鳴り響くコクピット内で感謝を告げると、巽は最後の跳躍を行った。改造サイクロンがサイクラノーシュの右脚の付け根に取り付く。
……分かる。装甲越しでも、はっきりとハイブリッドジェネレーターの鼓動が感じられた。
「ぐ、ううっ……はぁ、はぁ……!」
遂に、ジェネレーターのある場所まで辿り着いた。だが、これまでの無理が祟って遂に改造サイクロンの右脚の関節がイカれた。
「くぅっ……!!」
「タ、タツミ! 後ろから来るよ!」
背後から別のブラックナイトが迫る。だが、右脚が上手く動かない。旋回すら……出来ない!
ここまで来たのに。自分たちは無力でしかないのか。
ブラックナイトが改造サイクロンにとどめの突きを繰り出した瞬間――虹色の泡が改造サイクロンを包み込んだ。
■再現された過去■
(旧式の継ぎ接ぎで騙し騙しでココまで来たけど、やっぱりコレが限界か)
分かっていた事だ。旧式のイコンであのような強大な敵に立ち向かうなど、やはり無謀だったのだ。
(ヒーローだなんだっていっても……所詮は、こんなもんか……)
心が絶望に落ちかけたその時、巽の意識は過去に飛んだ。
雨が降りしきる中、【誰か】達がクライム仮面と戦いを繰り広げていた。
だが、ブレイズには何も出来ない。身体に力が入らない。もう戦えない。
力を持たないヒーローに何の価値がある。何の意味がある。
正義マスクも力を失った。それはただのマスクだ。何の意味も無い……ただの『物』だ。
「――目が、覚めましたか」
ブレイズの傍らに立つ男が語りかける。
その男は上空の戦闘を見上げ、言った。
「貴公は……戦わないのですか? みんな、あんなに一生懸命に戦っているではないですか」
「もうそんな力、残ってねえよ……体力も、気力もねえ。それに……もう正義でもねえ」
「――そもそも、正義ってなんでしょう?」
「……さあ、な。分からねえ。分からなく……なっちまった」
「正義なんてね、自ら名乗るものじゃないんですよ。心の中にだけそっとしまっておけばいいんです」
「……」
「その熱が貴公を突き動かした時、誰かがそれを正義と呼ぶでしょう……それだけでいいんですよ」
「そんなもんかね。まあ、俺にゃあもうカンケーねえけどよ」
「……心が折れてしまいましたか? では、あなたにおまじないを一つ、教えてあげましょう」
――そうだ。
ヒーローだからとか、強い力を持ってるからとかじゃない。我が護りたいと思ったから――
「おまじない、だあ?」
「ええ。拳を目の前で、ぐっと握るんです」
「……」
ブレイズが右の拳をぐっと握る。
「その拳の中に、貴公が一番最初に正義を信じた、その想いを感じることができるなら――」
「――貴公は」
――そうだ。
俺は。
俺たちは――
「「――まだ、戦える!!」」
■現在■
巽の意識が戻った。
背後にはブラックナイトが1体。改造サイクロンにとどめを刺すべく、今まさに漆黒の剣を繰り出さんとしている。
1秒が永遠とも思える瞬間が続いた。巽の中で、意識が加速した。
叫ぶ。心の底から、叫びを発する。
「自分が吐いた言葉の責任ぐらい、取れなきゃ後輩に示しがたたねぇんだよっ!!
――根性見せろよ、サイクロンッ!!」
巽の【不屈の闘志】に応え、改造サイクロンが屈み込んだ。ブラックナイトの突きをギリギリでかわし、すれ違い様に蹴りを繰り出す。
右脚からの蹴りだ。ブラックナイトの胴体に蹴りが入った瞬間、巽は右脚をパージした。バンッと爆発音を立てて右脚が関節ごと外れ、衝撃でブラックナイトを遠くに吹っ飛ばす。
「脚が一本でもあれば……十分だッ!!」
改造サイクロンは、左脚をサイクラノーシュの装甲に突き立てた。有機的装甲に確とめり込んだ左脚が杭の役目を果たし、改造サイクロンをその場に固定した。
改造サイクロンのサブパイロットを務めるティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)が、必殺武器のセーフティを解除する。
「旧型機だからって、舐めないでよね!! 勝負はやってみなくちゃわからないんだからっ!!
――ツインパニッシャー、セーフティロック解除!!」
改造サイクロンの右腕に装着されているバンカーは2本ある。それは同時に射出するための物ではなく――
「ホイールパニッシャー、右腕接続成功!! ホイール、回転開始!!」
2本の杭の間にホイールプレッシャーを差し込み、回転させる事で――
「タツミ!! パーッパパッパーッとやっつけちゃって!!」
――射出と引き戻しを交互に行い、連続で撃ち出すための武器だ。
「力があるとかないとか……出来るとか出来ないとか、そんなの関係ねぇっ!!」
この一撃に、全てを賭ける。未来を託す。
「やると決めた!! そう決めた!! 後は、何が何でも前へ進むだけだ!! 諦めなきゃぁなぁ……誰だって、平和を護れるんだ!!」
巽が叫ぶ。己の魂を込め、必殺の一撃を繰り出す。
「――グレート・ツインパニッシャー!!」
バンカーが撃ち出された。破壊に特化した一撃がサイクラノーシュの装甲を打ち破り、ジェネレーターへの道を切り開く。
右腕に差し込んだホイールプレッシャーが回転する。高速回転したホイールがバンカーを引き戻し、もう1本のバンカーをブチ込む――。
――ジェネレーターが、破壊された。
「後は、任せた!!」
ジェネレーターの破壊に伴い強烈な爆風が巻き起こり、改造サイクロンが吹き飛ばされた。
もう何も動かない。全ての力を使い果たし、改造サイクロンは機能停止に陥った。
『まったく……無茶をする奴だ』
地表目がけて落下する改造サイクロンを救ったのはホワイトクィーンだった。
高速飛翔するホワイトクィーンが改造サイクロンを回収し、ガーディアンヴァルキリーの下へ運ぶ――。
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